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泣きっ面にピアス。

顔中、ピアスと刺青だらけ、ブレイズのブロンドヘアーのよく似合う彼女はタバコをふかし、涙を浮かべながらこう言った。「これからもう、わたしどう生きたら良いのかわからない。」


去年の11月、私は一人クアルランプールにいた。
シンガポールのホステルで出会った、イギリス人で身体も笑顔も、ハートもビックな大好きなローラを追いかけ一人クアルランプールへとたどり着いた。

ローラとは数日間、実に自由にお互い別々に取った宿を行き来しながらプランを立て、酒を毎晩酌み交わしクアルランプールを共に過ごしていた。

ある日スマホのシムカードのささらない、いわゆる電波の通じないスマホしかもっていないローラと待ち合わせ半ばにはぐれ、マレーシアの街中に一人でさまよう事になった。汗がにじむ額をぬぐい、もう諦め半分「一人で今日は楽しもう、マッサージでもいこうか。」と開き直り、その前に一服でもしよう、と腰掛けた花壇の上で冒頭、

例の彼女と出会った。


かなり視線を感じていた私は
「ここは一服しても良い場所かしら?」と尋ねた。ピアスの通った、刺青の掘られた顔で彼女は少女のように笑いこう言った。

「ええ。ここは大丈夫よ、たばこ一本いかが?」


二人並んで花壇に腰を掛ける。クアルランプールにそびえ立つ名前も知らない巨大なショッピングモールを眺めながらタバコを燻らす。

ふと彼女はこう呟いた。


「こんなこと会ったばかりのあなたに言うのはどうかと思うのだけれど、彼氏が違う女とできている場面に出会してしまったの。そんな時、母国の母から電話で癌だって言われて、パニックになって家を飛び出してきちゃった。もうわたしどう生きたらいいのかわからない。」


こんなことあったばかりの女に言うのは、本当どうなんだろうかと思った。

彼女はピアスデザイナーで、自国ロシアでの生活を全て置いて、彼を追いかけてマレーシア、クアルランプールに引っ越してきたと言う。


「そうなの…」と聞くことしかできない私。


泣きっ面に蜂、いや、泣きっ面にピアスの彼女はまた、追い蜂をかけてくる。「しかもわたし…あわてて飛び出してきてシムカード(ようは電波)の入ったスマホを置いてきてしまって…お母さんに電話をかけさせてもらってもいい?」と言うのだ。


電波のないスマホを見つめる彼女の待ち受けがチラつく、「悪そうな奴はだいたい友達。ってゆうか悪そうな奴も中々近づかんやろうな」と思われるほどにいかにもヒールというか、顔面にバチバチにあいたピアス、笑顔に刺青の刻まれたイケメンとのツーショット写真がロック画面だった。ロックな者同士、本にお似合いである。


流されるのが川だ。


「プルル…」と電話をかける。

何を言っているのかわからないけれど、とりあえずお母さんらしき人が出たのでiPhoneを貸すと、彼女は自国の言葉で涙ぐみながら何かを話している。


(何ゆうてるからわからんけど、うん、彼女がとても辛い、お母さんが大変なのは伝わった。)

酒を酌み交わしたら仲間だと某有名海賊漫画では言っていたけれど、一緒にタバコを吸えば友人、携帯を貸せば仲間である。野郎ども!出国だ!電波を貸せ!


一通り話した後、彼女は電話を切り

私のiPhoneから自分のスマホに電話をかけ登録をし、インスタもフォローしてメッセージを送ってくれた。


これから「一旦帰るわ、本当にありがとう」と言いながら目を腫らした彼女に、「今夜会えたら会おうね」と約束を交わしその場で別れたのだった。


その後、無事ローラと合流し、少し説明してから「夜彼女と合流してもいいか?」と尋ねると「彼女の気持ち、とてもわかるわ、わたしも長く付き合った彼の浮気で別れて、旅にでてきたのよ」とても綺麗なブルーの瞳でウインクをし、ローラは笑った。


さてさてジャパニーズの皆さん。日本での行けたら行くは、蓋をあけりゃあ「行かないでござる」ですね。クアルランプールだろうがマレーシアだろうがシロクマだろうが会えたら会おうねは「会わないでござる」である。

彼女からはその後、感謝のメッセージだけが届きそれからはもう連絡はなかった。

数日後、ふとインスタを見ると、「悪そうな奴も近づかんやろうな」の彼氏と、ピアスの彼女のラブラブツーショットがインスタにアップされていた。

シートに腰を掛け、スマホの電源を落とす。丸い窓からキラキラ光る夜の滑走路を眺める。


アテンションプリーズとエンジン音が鳴り響く。


しわとしわを合わせながら脳味噌がこう、呟いた。
「泣きっ面には、ピアスが良く似合うな」

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