【詩】飲中八仙の一

酒を飲む父を憎むと同じほど
酒を飲む父を愛してはや
四半世紀

年々歳々花相似たり
というごとく
一升を空けずに眠るわが父に
老いのもたらす影をみて
共に盃もてるとき
一升の空くこと僅かに願いつつ
わが盃を、焦りつつ、乾かす

ひとのいう
迷信一つも呪いと用いて
今日も気をつけて
と執拗にまた声かける
われの気持ちは、それに似る

生命の終わりは神のみ識りうると
知りて久しきわが身なお
人の知識のうえでいう
寿命と呼ぶは年嵩に
訪れることを、かなしんで、

われの盃ばかりへと
注がれる酒と知りながら
一升空くことそのものに、
意味をはらませ
ただ孤り、

二十五をむかえた紅葉散るころも
夜に爪切ることを避け、
わが身に降れる孤独なお
齎す者ただ親なりと
痛みいるのはこの空の
重く冷たい顔ゆえか

たとえば刺青のひとつでも
芋引くものもあるなかで
腹をいためてその身をば
われに捧げる母があり
そと共にある父もあり

この故郷を誰に譲らん
盃満たす酒をして
慈悲の甘露と換えさしめ
貴方の傍らに生あれば
そを幸福とわれ呼ばん

晩秋に
貴方の蒲団にもぐるとき
そを幸福とわれ呼ばん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?