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インディーズソフビとは?POPMARTってなに? コロナ以降のキャラクター文化について

ソフビやPOPMARTなどのデザイナーズトイがおもしろいので、今回はその話をします。

なぜいまデザイナーズトイなのか?

まず、その結論ですが、
①ポストコロナ時代のカルチャーとして
コロナ以降だからこそ価値を発揮しそうなカルチャーってなんだろ?って考えたときに、インターネット的ではないフィジカルな表現媒体としてデザイナーズトイは魅力的です。ここ数年はインターネットが最強でしたが、リアルな空間ならではのジャンルが再注目されるといいなと。

②アジア圏で流行ってる
そもそも2018年前後で、デザイナーズトイは中国を中心としたアジア圏で"潮玩"として流行っていて、新しいカルチャー・市場が生まれています。そして、パッと見のデザイン性が大事なので物語・テキストが不要で(ノンバーバルなジャンル)、日本のクリエイターでも世界で活躍してる方々がいます。
※コロナが落ち着いて、潮玩のブームが日本にも波及したら楽しそうだなという期待も含めて

③一次創作が強いジャンルである
SNSで人気の高いアニメ的・ゲーム的な文脈の美少女系・イケメンをベースにした作品とは異なる、それらに対するオルタナティブな表現・ジャンルとしておもしろいです。また、現代は二次創作の時代でもある中で、一次創作の作家が活躍しやすいのもよい。
※最近はアニメ的・ゲーム的な文脈のクリエイターもソフビを始めることが増えてる印象で、それもそれで広がりとしてどうなるか楽しみ
※歴史的にはパチ怪獣ソフビなどオマージュ・二次創作的な文脈もあったりで、それもそれで(以下略)

以上です。

ちなみに、デザイナーズトイはこういうやつです↓

ソフビ・POPMART・カプセルトイ…などなど。ちょこちょこ買ってたら地味に増えてた。

"デザイナーズトイ"と呼称していますが、ソフビやカプセルトイ、アートトイなどのジャンルをごちゃ混ぜにして、POPMART登場以降のブームを含めたそれらを総称する日本語があまりないので(潮玩をトレンディトイ・ポップトイと略す記事もあるけど)、ざっくりと今回の文章ではこういう感じのやつを"デザイナーズトイ"とします。

そして、今回の文章では、
・ソフビ
・POPMART
の2つについて話します。

ソフビとPOPMARTの関係について、
もうひとつさらに結論ですが、

デザイナーズトイの流れとしては、KAWSやBE@RBRICKを代表とするようなアートトイが愛好家向けのジャンルとして確立していたけど、POPMARTの登場によって、アートトイがよりポップな存在になり、より広い層へと広がった。
※ブラインドボックスという手法によって価格が下がって気軽に買えるようになった
※Mollyのヒットで女性層にも広がった(後述)

Mollyがムーブメントの起源にあるので、個人のクリエイターやデザイナーによるオリジナルキャラクターが人気です。
さらに同じような立体表現として、個人クリエイターたちの表現の場・コミュニティになっていた日本の"インディーズソフビ"も合流・再評価された、という個人的な仮説です。
※もっというと、2000年代前後のマイケル・ラウが香港デザイナーズトイの原点・歴史として存在する
※もちろんPOPMART以前よりソフビは海外でも人気だった

中国でのムーブメントが2018年前後に起こって、2020年には世界的なコロナの蔓延でその波が日本まで波及することはなかったけど、ワンチャン2023年以降で日本でも"デザイナーズトイ"が流行ったら楽しそうだなあ…という現在です。

たとえ日本で流行らなくても、個人のクリエイターが世界で勝負できるジャンルとしておもしろいです。

とりあえず、気になった方は、以下の動画と記事をみていただければ、なんとなく雰囲気つかめるかなと思います。

大家都在玩具展買了什麼?TTF 19th【玩具人街頭調查隊】台北國際玩具創作大展2022 街訪@台北華山

→中国のトイ系YouTuberがデザイナーズトイの一大イベント「Taipei toy festival」を取材し、来場者に「なに買ったの?」とインタビューする動画。中国の作家も日本の作家もほかの国々の作家もフラットに「これ買った!」って紹介されててめちゃくちゃハッピーな動画です。

腾讯万字干货!2020-2021 设计趋势报告:潮玩篇

→(たぶん)中国のデザイン系サイトで書かれたテンセントによる「アートトイ」に関するレポート。歴史・文脈の話からユーザー層、どんな作品があるのか?まで、ざっくりわかるので雰囲気をつかむのにオススメ。

この文章を通じて言いたいことは以上です!

文章の後半は「ソフビって?」「POPMARTって?」みたいな、ググったらすぐ出てきそうな基本情報をつらつらと書くので、興味ある方はぜひ。

■ なぜ流行ったのか?
ちなみに「なんで流行ってるの?」みたいな話もないと片手落ちだと思うので、色々作品を買ってみて"デザイナーズトイ"にハマってなんとなく感じたことをベースに考察すると、「キャラクター消費のショート化」とかありそうと考えています。

現代はコンテンツが飽和した時代です。「○○を追ってるから、時間なくて△△を追えなくなった」みたいな時代です。キャラクター文化でいえば、アニメやゲームなど時間をかけて観て遊んで物語に触れて、キャラクターを好きになる。

一方で、"デザイナーズトイ"は、パッと見て「そのキャラクターデザイン・造形が好きか嫌いか?」の世界です。

ほぼ一目惚れみたいな感じなのでキャラクターを好きになるまでの時間が短いし、究極的には作品を買って家に飾ってニコニコするだけというジャンルです。
※もちろんそれが楽しいし好きな作家さんの活動を追ったり新作でテンション上がったりデザフェス行ったりとかこんな作家もいてあんな作家もいてとかハマればハマるほど興味は尽きないですが

TikTokやYouTubeショート動画の人気をみると、現代はどんどん作品消費の時間が短くなっています。

TikTokerのばやしさんやじゅんやさんがノンバーバルなショート動画でバズりましたが、その現象がキャラクター文化でも起きたらおもしろそうです。

デザイナーズトイも物語はそれほど重要じゃなくて(ノンバーバル)、作品を好きになるまでの時間・作品を楽しむ時間も短くて気軽にハマれるので(ショート)、現代的なスタイル・傾向にもマッチしています。

流行った理由として、ブラインドボックスの射幸性とか、それによってSNSでのコミュニケーションが生まれたとかも一般的に言われてはいますが、個人的な考察としては以上です。

それでは、
・ソフビ
・POPMART
について話していきます。

■ ソフビとは?
ソフトビニールの略称であり、軟質ポリ塩化ビニルによるフィギュアの総称です。
日本発のジャンル・表現媒体でもあります。
通常のフィギュアと比べて、やわらかく、中が空洞なのが特徴で、幼児や女児向けの人形に使われることが多かったのですが、1960年代後半の第一次怪獣ブーム時にマルサン商店などのメーカーが発売したソフトビニール製の怪獣の人形が大ヒットしました。

ソフビの作り方は、フィッシャーズのシルクロードさんの動画がわかりやすいです。
【制作】シルクロード、はじめてソフビを工場で作る。

ざっくりいうと、
金型→流し込み→焼き→引き抜き→彩色

で、この作り方がソフビの魅力にも繋がるのですが、キャラクター造形のもとになる"金型"をまず作って、その金型を使い回してソフビを量産するという制作スタイルです。

この制作スタイルによって、
個人レベルでもオリジナルキャラクターの立体作品の制作・販売がしやすくなった。
=インディーズソフビの登場です。

大手メーカーからフィギュアを出すのはハードルが高いし、手作業でひとつひとつ立体作品を作るのはコストや技術力が求められるし…っていう2パターンの中間ぐらいの選択肢という印象。

そして、同じ金型でソフビをたくさん製造して販売するので、作品のカラーバリエーションを変えるという販売手法が主流です。

1stカラーとも呼ばれるようなスタンダードな配色のほか、ポケモン的な色違いを集めるのも楽しいです。○○でしか手に入らない限定カラーやワンオフ作品もあったりして、ここまでくると完全に"沼"です…。

ひとつ買うとなぜか色違いもほしくなるという現象は、ソフビ七不思議のひとつでありながらも、ソフビの魅力でもあります。

あと、ソフビの魅力としては、
"怪獣ソフビ"や"怪人ソフビ"というワードがあるように、ソフビの起源としてゴジラやウルトラマンがあるので、怪獣や怪人モチーフを楽しむみたいな側面もあります。ゴジラ的な怪獣の延長として、爬虫類や両生類モチーフが多かったりとか。

T9Gさんのランジアスはいつかゲットしたい…


あと、個人的には、あらいきりこさんとHUMAN ROBOTさんのソフビは、それぞれ怪獣と怪人的な文脈を持ちながらも、よりポップなデザインになっててむちゃくちゃ好きです。


あらいきりこさんはソフビを始める前から絵本的な怪獣をモチーフにしたイラスト・キャラクターを描いてきた方で、怪獣というキーワードながらもゴジラ的な怪獣とは違うデザイン・文脈なのがおもしろいのと、あと、とにかくカラバリのセンスがめちゃくちゃいい…個人的には昔描いてた怪獣(バニーテール)が好きすぎるのでいつかソフビ化してほしい…(早口)
※あらいきりこさんのおおかみくんは、名前のとおりオオカミがモチーフ

インディーズソフビでは、NAGNAGNAGさんやIzumonsterさんのような怪人的で少しおどろおどろしいデザインが人気かつ文脈として存在しますが、HUMAN ROBOTさんのPANDEADはその文脈をふまえたような"ゾンビ"をアイデアとして組み込みつつ、最終的な見た目はコミカルなデザインになっていて、素敵なバランス感覚だなあと思います。また、ソフビは既存の動物をモチーフに採用するほか、アマプロさんを代表として、食べ物をモチーフとすることも多く、その流れを生かして、食パンなのもいい…。"ソフビ"というメディア・ジャンルだからこそ意味のあるキャラクターです(早口)


■ POPMARTとは?
POPMARTは、中国発のアートトイメーカーであり、新興のキャラクターブランドです。“ブラインドボックス”という開けるまで中身がわからない販売手法が特徴的で、成功理由のひとつ(いわゆるガチャガチャ方式)。

また、もうひとつの特徴としては、POPMART大躍進の理由でもあるキャラクター“Molly”の大ヒットを一例として、外部の個人クリエイター・デザイナーたちと連携してデザイナーズトイを展開している点にあります(自社開発のキャラクターもあります)。

・Kenny Wongの「MOLLY」


・KASING LUNGの「LABUBU」


・熊喵の「SKULLPANDA」


もちろんサンリオやハリーポッターなど、既存の有名IPとのコラボアイテムも制作・販売もしていますが、POPMARTはそういった文脈とは違う個人のクリエイター・デザイナーの"キャラクター"を積極的に取り入れていることが魅力のひとつです。


POPMART自体は2010年創業ですが、2016年にmollyが大ヒットし、そこからぐんぐんと成長していったようです。

○POPMARTの売上推移
2017年:1億5800万元(約25億円)
2018年:5億1500万元(約81億円)
2019年:16億8300万元(約270億円)
2020年:25億1300万元(約420億円)
2021年:44億9000万元(約860億円)
2022年:46億2000万元(約890億円)
※「POPMART 売上」とかで調べて、色々まとめるとこうなった。違ったらすいません。

そもそもPOPMARTの躍進もひとつの理由として、中国では「潮玩」というムーブメントが起きています。

「潮玩」とは、英語の「Art Toy」「Designer Toy」「芸術的なおもちゃ」あるいは「デザイナーのおもちゃ」の意味を指しています。
元々は、量産的ものではなく、芸術家たちが設計し、手作業で製造・販売していたカスタム商品を指しており、少数派愛好家たちの高価なレアコレクションという認識が一般的でした。

「潮玩」という言葉は「少数派に限られる愛好物」から中国若年層市場の「潮流玩具(POP TOYS)」へと定義し直されます。

2020年、中国潮玩業界の企業数は250社を超え、市場規模は294.8億人民元(5284億円)に達しました。


「アートトイ」自体は、KAWSやBE@RBRICKなどを代表例として、昔からファッション好きや愛好家たちから人気がありました。

香港でもマイケル・ラウという「アートトイの父」と呼ばれるようなクリエイター・文脈があったりします。

個人的な感覚としては、「POPMART」や「潮玩」などのムーブメントは、アートトイという表現手法やコミュニティ、その領域で才能を発揮していたクリエイターたちを、よりポップな存在に、より広い層に親しまれる存在に変えました。

アートトイは一体数万円もすることが多いですが、ブラインドボックスという販売手法・生産体制をとることで、アートトイ的なモノを1体1500円前後で手に入れられるようになっています。

テレビ的な映像表現がYouTuberの登場によってより民主化した、ぐらいの文化的な変化が起こったのかなという個人的な解釈です。

■ 「潮玩」とソフビ
2018年前後で中国をはじめとして、
「潮玩」のムーブメントが生まれました。

それは、"オリジナルキャラクターを手がけている個人クリエイター・デザイナー"にとっての新しい市場が生まれたということです。

そして、日本では"インディーズソフビ"というジャンル・コミュニティとして発展していた市場でもあり、「潮流」のムーブメントによって海外で再発見・再評価されているのではないかと考えています。
※インターネットで調べた感じだとたぶんそうなんだけど、現地・当時の温度感までは調べられなかったので仮説とします
※上記の玩具人のイベントレポート動画における日本のソフビ作家の扱い、海外のイベントで公式ビジュアルなどでソフビ作家が起用されてたりとかしてる状況も踏まえた仮説

インディーズソフビ自体は昔からあって、2000年代〜2010年代前半において海外で活躍しているソフビ作家の方々もいましたが、2018年前後でソフビのファン・市場もさらに広がってそう。

そして、POPMARTも日本の作家とコラボしてたりします。


2022年7月には原宿にPOPMART原宿本店がオープンしていたり、中国市場はちょっと頭打ちっぽいことも含めて、「潮玩」のムーブメントが日本にも来るといいな。


■ まとめ
コロナ禍において、とにかく数字を伸ばすことが大事なインターネット的無限数字バトルが白熱しました。再生回数数百万!同時視聴者数数十万!等々、数字がわかりやすい戦闘力となります。

一方で、コロナが落ち着くことで、リアルな空間が大事な作品やジャンルが台頭する可能性があります。あるいは、そういった作品やジャンルを改めてどうやって評価するか?という問いに興味があります。

インターネットカルチャーが全盛期の時代で、有限性をもつデザイナーズトイをどういう存在として捉えるべきか?

デザイナーズトイは、インターネット的でないフィジカルなアイテムなので、リアル空間での展示・販売をするケースが多いです。
※もちろんECもあるけど!
※SNSでの発信が作品・クリエイターとの接点として最重要ではあるけど…!

だからこそ、好きな作家さんの作品を買うべく、数十人数百人のファンがリアル空間に集まったりしています。

ライブ配信での同接数十人数百人と、リアル空間に同程度の人が集まることの違い。

実際、リアル店舗を持っている百貨店系やファッション系とのコラボは相性よくて、ちょこちょこ増えてる印象です。


アニメやゲームとはまた違うキャラクター文化で、立体作品を主軸としたジャンルが盛り上がり、中国発のアートトイメーカーが日本でも流行る、なんて今までにない景色が見てみたい。


以上です。


あとはだらだらと個人的にオススメのクリエイターについて書きます。

・INSTINCTOY
海外での展開なども含めて、たぶんキングオブソフビ作家。もはや芸術家的なアーティストとして注目され、第一線で活躍している印象です。
POPMARTとのコラボのほか、現代アーティスト・村上隆さんのソフビも制作しています。


・HAKURO
オリジナルな「海洋探査ロボット」のキャラクターソフビを制作している作家さん。デザイナーズトイという立体表現は、バーチャル的な3D表現とも職能的に近しくだからこそ2020年代に注目すべきと個人的に考えているので、HAKUROさんがVRChatのアバターに興味を持ってるのは「わかる」となる。


・SHUN SHIBUYA
潮玩には、KAWSの影響があると思っていて、そう考えると、ストリートカルチャーとも相性がいいです。その視点において日本で注目したいのが、ストリート的なデザイン・ブランディングのSHUN SHIBUYAさん。ソフビは、デザフェス・ワンフェス的なコミュニティがメインかなと思いますが、それらとはまた違うコミュニティ・立ち回りでおもしろいです。
最近はHIPHOPアーティストのOZworldさんのソフビ制作にも協力しています。


ストリートカルチャーでいうと、Pitch Odd Mansionもデザイナーズトイ的なアイテムを展開してて気になる。


・a.k.a_uptempo
韓国のデザイナーズトイ作家さん。POPMARTきっかけで知ったのですが、むちゃくちゃカッコいいです。ゲーム『League of Legends』の公式フィギュアも制作していたりします。



・イラストレーター
最近は、イラストレーターの寺田てらさんやめばちさん、まごさんがソフビ制作を始めています。オリジナルなキャラクター・デザインに挑戦しているイラストレーターさんとソフビは相性いいと思うので、こっちの文脈でも流行ったら楽しそうですね。



あとは、セブンゼルさんがPOPMARTとコラボするっぽいので、それがむちゃくちゃ楽しみ…


デザイナーズトイとは異なるジャンル・コミュニティに属していたクリエイターたちもじわじわと参戦していたりするので、ジャンルを越境して、日本でもひとつの表現手法として新たに再注目されるといいなと思います。

調べれば調べるほど、歴史や海外との関係性、あるいは既存のキャラクター文化に対するカウンターとして、とてもおもしろいです。




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