TRPG『カタシロ』と『カタシロ+S』が素晴らしかったので、“物語”の歴史に名を刻みたいと思った話(後半ネタバレ)

YouTubeでいろんな配信者が遊んでいるTRPGシナリオ『カタシロ』。


昨今大きな盛り上がりを見せているライブ配信カルチャー。

その現象とTRPGという遊びは相性がよく、2020年に登場したTRPGシナリオ『カタシロ』は、ゲームマスター(正式にはキーパー)とプレイヤーの1対1の対話型のため、プレイ時間も短く( = 視聴時間が短い)、まさにそんな状況に適したシナリオ構造だった。

そのため、2020年7月以降、いろんな配信者による『カタシロ』のプレイ動画が投稿されている。

シナリオの制作者であるディズムさんによる配信のほか、ほかの配信者たちも『カタシロ』の配信を行なっている。


---------- 個人的オススメ回 ----------


そんな盛り上がりを踏まえて生まれたのが、『カタシロ+S』というシナリオであり、その『カタシロ+S』の制作者であるまだら牛さん(TRPG配信者)によるTRPG配信だ。


『カタシロ+S』は、まだら牛さんが『カタシロ』の内容を改編したシナリオ。そして、まだら牛さんがゲームマスターとして、本家本元である『カタシロ』のシナリオ制作者・ディズムさんをプレイヤーとして迎えて行なったTRPG配信でもある。


まず結論から述べると、『カタシロ』および『カタシロ+S』( = “カタシロ”という現象)は、人類が生み出した“物語”という概念、その歴史に名が刻まれるべきレベルの作品・現象になったと考えている。

つまり、『カタシロ+S』は、日本においては1980年代に登場したTRPGという“物語形式”に対する2020年代からのアンサーだ。

小説や漫画、アニメなど、様々な“物語形式”がそれぞれの歴史を積み重ねて更新する中で、「TRPGという“物語形式”はここまで到達したぞ」というアンサー。

そして、それは、ライブ配信カルチャーという2010年代以降の新たな現象を土台として、『カタシロ』および『カタシロ+S』( = TRPG配信という“物語形式”)が登場したことを踏まえると、人類が積み重ねてきた“物語”というモノに対するアンサーでもある。


神話や宗教をはじめ、小説や漫画、アニメなどの様々な表現媒体を活用して“物語”を生み出してきた人類。

TRPGという遊びは、もともとはその場限りのプレイヤーたちによる物語を楽しむものだったけど、ニコニコ動画でのTRPG動画の誕生によって、「自分たちが紡いだTRPGの物語」を他者に対して提示するという行為が盛り上がり、注目が集まった。

そして、現在。“TRPGという物語”は、YouTubeでも流行り始めていて、TRPG動画のほか、「TRPG × ライブ配信」という形式も人気を獲得しつつある。


「リアルタイムで物語が生まれる」「キーパーやプレイヤー、セッションによって、無限にも等しい物語が生まれる」というTRPGの現象・手法。

もちろん過去にもリアルタイムでの物語という試みはあるとは思うが、YouTubeという現代におけるポップカルチャーの総本山、その文脈にのって生まれているという背景・インパクトは非常に大きい。

そして、シナリオとして物語の大枠はあれど、TRPGを遊ぶ人たちによって、シナリオの改編も含めて二次創作的に物語が生まれやすいTRPGの構造は、現代のカルチャーシーンの流れにもマッチしている。


そして、前述のとおり、『カタシロ』は、そんな時代の変遷の中で生まれたシナリオであり、そこからさらに二次創作的に生まれ出たのが『カタシロ+S』だ。


そして、だからこそ、『カタシロ』と『カタシロ+S』は、その“物語”の歴史に堂々と足跡を残したと思っている。



さて、ここから先は『カタシロ』について、一切のネタバレを考慮せず書いていくので未見の人がもしいれば、まずはそちらを観てほしい。

まじで観てほしい。

とりあえず『カタシロ』の配信を何個かまず観ていただいて、それから『カタシロ+S』をぜひ楽しんでほしいです。




以下、ネタバレになります。




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『カタシロ+S』は、
『カタシロ』という現象(= TRPGの独自性・魅力)をその物語に内包し、かつ、現在のライブ配信の魅力をも体現するというメタ的な物語構造を、しかもその『TRPG × ライブ配信』というポップカルチャーの最前線で実践してみせた。

くっっっそカッコいいのよ。ほんとに。

ほんとに、ほんとに、カッコいいです。


天才か?天才なのか?

いや、むしろもはや鬼才に近いのよ。

「ひとつのシナリオを通じて、いろんなプレイヤーによる物語が生まれること」は、TRPGの独自の魅力だと思っている。

そして、『カタシロ』というシナリオの奥深さとその手軽さによって、その魅力が改めて可視化された。

そして、“それ”を、まだら牛さんは『カタシロ+S』という物語にぶち込んできた。

いろんな配信者やユーザーによって遊ばれている『カタシロ』という物語が、蛇崩が息子を救うために過去に戻った(あるいは、新しい並行世界を生み出した)という物語にしたこと。

『カタシロ』が可視化したTRPGという現象の魅力をさらに物語の根幹にぶっ刺してくるというアイデア。

そして、なんども言うように、その『カタシロ』がそもそも「TRPGライブ配信」というカルチャーの最前線で起こっている現象によって生まれている。


まじでほんとにこれだからクリエイターっていう生き物が好きなんだ…

既存の何かを自分なりのアイデアでさらに更新してやろうっていう飽くなき創造性。

しかも、もっとやばいのは、シナリオとしては過去の上書きか、あるいは平行世界線かっていうことは、特に決まっていなかったと思うけど、ライブ配信中のディズムさんの発言によって、上書きではなく、ありとあらゆる『カタシロ』が平行世界線の物語であるという筋書きになったのがまじですごい。

上書きではなく、何十何百というカタシロがこの世界のどこかに存在し続けているという"物語"になったということ。しかも、打ち合わせ無しのライブ配信で。

このライブによる緊張感・偶然性は、TRPG独自のおもしろさだと思う。


さらに言うと、『カタシロ+S』が素晴らしいのは、ディズムさんとまだら牛さんというクリエイターの関係性があってこそ生まれた物語だということ。

ライブ配信を始めとして、インフルエンサーというコンテンツがおもしろいのは、そのインフルエンサー同士の関係性にある。

YouTubeのみならずTwitterなども含めた彼らのインターネット上でのコミュニケーションがコンテンツになっている。

例えば、ディズムさんやまだら牛さんといったTRPG配信を積極的に行っているコミュニティのひとつを「親顔メンツ」というが、彼らはよき友人であり、よきライバルでもある(自分以外の誰かがおもしろいシナリオや企画をやったときには、懲役が科される)。

(俺も頑張るけど、これ以上おまえが頑張っていい企画をやると嫉妬で狂いそうになるから、休んでくれ頼むの意)

TRPG配信がおもしろい理由のひとつはまさにこれで、TRPGは演者がキャラクターを演じながらも、演者がメタ的にリアクションをとることが許されているため、演者である配信者の存在も重要になってきている。


『カタシロ+S』では、この2人の関係性が、これもまた物語の根幹にぶっ刺さっている。


「オリジナルは君だ」
というまだら牛さんのセリフ。


まだら牛さんが演じるミーゴが蛇崩の記憶をインストールして蛇崩としてアキラを救うというシチュエーションが、ディズムさんが生み出した『カタシロ』に触発されて、自身も『カタシロ』の配信を行っているまだら牛さんの姿に重なる。

蛇崩とミーゴとして『カタシロ+S』の中で語り合う“オリジナル”と“コピー”の話が、メタ的に2人の関係性を想起させるというこの構図・物語展開。


熱すぎるのよ...まじで...

ほんとにカッコいい...


そこにはクリエイターとしてのリスペクトがあるし、あるいは、それこそ『カタシロ』という現象(あるいは、TRPG)についておそらくこれまでも2人で語り合ってきたこと、その関係性の片鱗がにじみ出ていたように思う。

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いやああああああ、まじでほんとにすごい。

冒頭でも散々語ったけど、ガチで歴史に名を残して後世まで語るべき作品だと思ってる。

TRPG動画・配信の“物語”としての可能性をより確信できたし、その最前線で活躍するクリエイターな方々の「既存の作品・表現よりもさらにすごいモノを生み出してやろう」っていう精神性がほんとにカッコよすぎる。


『カタシロ』および『カタシロ+S』、ほんとに最高でした。

ありがとうございます。




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