カーボン釣り竿直接給電アンテナに関する考察

 最近、カーボン釣り竿をアンテナエレメントとして使う報告をよく見かけるようになりました。たとえばこちらはJJ1XTG総長氏による「アパマンハムの挑戦 ベランダ釣り竿アンテナ設置」です。

常識的に考えると、いくら電気伝導性があるといってカーボンの電気抵抗率は銅の1.7×10⁻⁸Ωmと比較するとその500倍以上、10⁻⁵Ωmのオーダーになってしまいます。当然、抵抗に電流を流せばジュール熱による損失がありますので、これがアンテナエレメントに使えると聞いても正直なところ半信半疑でした。
 最初に考えたのは、そもそも「普通」のワイヤーアンテナの場合はどうなっているのだろうということです。というのは、金属には電場(電界)を遮蔽するという性質があり、高周波電流はその表面近くしか流れることができません。これを表皮効果と言い、電流値が1/e(eは自然対数の底、ネイピア数)になる長さを表皮厚さと言います。これを式で表すと、

となります。ここでρは電気抵抗率、ωは角振動数、μは透磁率です。例として、銅の50MHzにおける表皮厚さを計算すると、9.2μmとなります。直径1.6mmのワイヤーで半波長ダイポール(長さ3m)を作ったとすると、電気抵抗は1.1Ωと計算されます。ダイポールアンテナの特性インピーダンス73Ωに対して無視できる値と言っていいでしょう。しかし、直径1.6mmの銅線3mがこんなに大きな抵抗値を示すのはおかしいと、直感的に思う人は少なくないはずです。直流なら10A程度の電流を流すときに選ばれる太さです。抵抗が1Ωもあれば、ジュール熱で100Wもの損失が生じてしまいます。念のため公式にしたがって(直流)抵抗を計算すると25mΩとなります。つまり表皮効果により、50MHzの高周波電流に対しては抵抗が40倍になっているということです。
 次に、材質をカーボンにした場合に同様の計算をしてみましょう。やはり50MHzの半波長ダイポールを考えます。電気抵抗率は概数として10⁻⁵Ωmとしておきます。表皮厚さは50MHzで2.2mmとなります。表皮厚さが電気抵抗率の平方根に比例することがよく現れています。直径1.6mmのカーボンワイヤーの抵抗値を求めると、表皮厚さを考慮する必要がありませんので、公式通りに計算できて15Ωという値が得られます。これは、ダイポールアンテナの特性インピーダンス73Ωに対して無視できない値となります。

 アンテナシミュレータMMANA-GALを使って、この計算が正しいか確認してみましょう。まずは、銅ワイヤーの場合です。

銅ワイヤーダイポールのインピーダンス

設計周波数51MHzでインピーダンスが73Ωであることが図からわかります。

銅ワイヤーダイポールの指向性および各種パラメーター

このアンテナのゲインは2.07dBiで、無損失として計算したときの2.13dBiより0.06dB損失があるという結果になっています。

 次に、カーボンワイヤーの場合を見てみましょう。

ワイヤーの特性を入力する画面

MMANA-GALにはアンテナエレメントの材質としてuserwire,userpipeという項目が選べます。ここでは、userwireとして電気抵抗率を10⁻⁵Ωmに設定します。計算結果は以下の通りです。

カーボンワイヤーダイポールのインピーダンス
カーボンワイヤーダイポールの指向性および各種パラメーター

インピーダンスが101Ωに増加し、アンテナゲインが0.66dBiに減少したことがわかります。銅ワイヤーでは2.07dBiでしたから、1.41dBの損失ということになります。割合にすると28%です。ここで計算に用いた抵抗率は銅の600倍なのに、意外と損失が小さいなというのが私の感想です。

 ここまでの結果をふまえて、カーボン釣り竿直接給電アンテナではどうなるか考えてみます。表皮厚さは2.2mmであることから、釣り竿のような円筒形状のエレメントでは断面の周長に反比例して抵抗が減少すると予想されます。計算モデルとして、直径16mmのカーボンパイプを用いることにします。

カーボンパイプダイポールアンテナの各寸法

共振周波数が変わるため、エレメントの長さは左右3cmずつ短くしました。計算の際には、材質としてuserpipeを選択し、電気抵抗率は同じく10⁻⁵Ωmとしました。結果は以下の通りです。

カーボンパイプダイポールアンテナのインピーダンス
カーボンパイプダイポールアンテナの指向性および各パラメーター

特性インピーダンスが74Ω、アンテナゲインが1.97dBiという結果が得られました。銅ワイヤーと比較すると損失は0.10dBにとどまっています。割合にすると2.3%に過ぎません。事実上ほぼ同等と考えていいでしょう。


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