見出し画像

Kenwood TS-440SをPCと接続する

 いつもの悪い癖でまた無線機を増やしてしまいました。今回手に入れたのはKenwood TS-440Sという無線機で、1980年代の終わりごろ、いろんな機器にマイコンが内蔵され始めた時代のものです。調べてみると、この無線機にはNEC製のμPD7800という組み込み用の8bitマイコンが使われていました。動作クロックは1MHzで8080AやZ80用の周辺ICが接続できるような設計になっているものです。
 無線機としての特徴は、マイコンを内蔵したことによって周波数の制御がすべてデジタル化されていることでしょう。アマチュア無線で使う周波数で送受信できるのはもちろん、0.1MHzから30MHzまでの範囲で受信が可能になっています。AMの復調回路も入っていますので高性能短波ラジオとして使うことができるのは魅力です。
 加えて、マイコンを外部から制御できる端子が用意されているので、現代のデジタルモードにも対応するはずです。この無線機が設計された時代ではおそらく想像できなかった通信方式(たとえばFT8)にも、適当なインターフェースがあれば実用可能になるのです。実際に、この端子を利用してRS-232Cに変換するオプションが用意されていたようです。

 ここから本題に入ります。この無線機を現代のPCと接続するためのインターフェースを作って、WSJT-Xで制御するところまでが目標です。いまどきのPCにはRS-232Cの端子が付いていないので、USBからシリアル信号に変換して接続するのが簡単です。今回は秋月電子で販売されているFT232RL USBシリアルモジュールキットを使うことにしました。これはFTDI製のFT232RLというICを使ったもので、他の方の製作記事でもよく見かけます。実際、このICを使ったことが今回は吉と出ました。

 無線機の取説を読んで外部接続端子のピン配置を調べたら、DIN 6pinコネクタにTXD, RXD, RTS, CTSが出ていることがわかりました。これなら難しくないだろうと思っていたら、肝心なシリアル通信用の8251A自体がオプション扱いになっているということに気づき、いきなりハードルが上がってしまいました。というのも、21世紀の現在ではワンチップマイコン(例えばPIC)自体に必要な機能が内蔵されていて、しかも8bit時代の8251Aなんて骨董品のような扱いになっていたのです。幸いにして、とあるOM氏より当時購入した予備を譲っていただけることになり、最初の関門はなんとか通過することができました。8251Aにクロックを供給する4040Bについては現行品で販売されていたので、こちらは通販で購入できました。

μPD8251AとTC4040BP

 必要なICが揃ったところで無線機に取り付けます。取説の指示にしたがって上下パネルを外し、さらに前面パネルを引き出してシールド板を外すと、オプション用のICソケットが見つかりました。

TS-440Sの内部にはオプション用のICソケットが用意されている

ICの端子を折らないように整形して、向きに気を付けてソケットに挿入すれば作業終了です。ついでにバックアップ電池も交換したいところですが、今回は見送りました。

8251Aと4040Bを取り付けた後

そのまま組み戻せばいいのでしょうが、動作確認ができるまでは仮組のままにしておきます。

 次にインターフェース回路を作ります。以前にICOM CI-V用のインターフェースを作ったことがありますので、これと同様にフォトカプラで絶縁した回路を作成してテストしてみました。が、PC側から信号を送っても無線機は全く反応してくれません。問題を切り分けるために、フォトカプラの部分を外してFT232RLと無線機からきた配線を直結してみましたが、それでも動作は変わりません。オシロスコープで信号を見ると、なにやら信号を送り返してはきているものの、ターミナルソフトで見る限りではコマンドを認識している様子がなく、もちろん無線機の反応もありません。8251Aを壊してしまったのかなという不安を抱えながら、初心に帰って回路図やデータシートを読むことにしました。
 その結果、重要なことに気づきました。外部制御端子と8251Aの間には7404というTTLのインバーターが入っていて、さらに1kΩの抵抗でプルアップされています。時代が時代だけにロジックICもLSが付かない初期のもので、8251AのデータシートにもTTLコンパチブルと明記されていました。そうなると、入出力電流の規格についてLSよりも厳しくなります。加えて、インバーターが入っているので論理が反転しているのです。オシロで信号を見ているときになんとなく感じていた違和感は、ここに原因がありました。
 さらにネットを検索してみると、機種は違いますが同じところで苦戦されていた先達の記事がみつかりました。この記事を書いているJH4VALさんのブログには、FT8を始めるときやnanoVNAを導入するときにかなり参考にさせていただいたので、今回もまたお世話になりました。記事をよく読むと、論理を反転させる必要があるが、これはFTDI社から専用のプログラムをダウンロードすればFT232RLの側で対応できるということです。詳細は省略しますが、同じ方法を試してみたところ、無線機からの信号はいかにもシリアル通信らしいものが返ってくるようになりました。
 ここで、シリアル通信の規格を再確認すると、4800 bps, 8 bit, non-parity, 2 stop bitとあります。一方、ターミナルソフトの方ではストップビットが1bitになっていました。いままでここが問題になったことはなかったのでストップビットの設定を見落としていたのです。指定に従って2bitに変更したところ、ついにターミナル画面にそれらしい文字が表示されました。

TS-440Sから帰ってきた反応

1文字しか送っていないのにオシロでは2文字分のデータが返ってくるように見えていたのは、コマンド違いによるエラーだったのです。もう一度リモートコマンドを確認して、"AI1;"と慎重に打ち込んでみると無線機からビープ音が出て、ターミナルにはさらにメッセージが表示されました。

PI1コマンドを送った結果

送ったコマンドに対するエコーバックはなく、結果だけが返ってくるという仕様になっていたのです。かなり遠回りをしましたが、ようやく無線機とPCが通信できる状況を構築することができました。

 FT232RLというUSBシリアル変換ICの機能に頼っているままでは、入手できなくなった場合に困るので、ICの設定をもとに戻して回路の方できちんと対応することにしました。もともと、フォトカプラで絶縁するつもりで回路を設計していたので、全体として論理が反転することと、無線機の方でプルアップされていること、そしてTTLの規格内に収めることに留意して次のような回路になりました。

回路図

無線機側からの信号でフォトカプラに流す電流が小さいので、ダーリントン接続にしてあります。R3の100kΩはたまっている電荷を逃すためのものです。もっとうまく設計すれば、このあたりを簡略化することができるとは思いますが、4800bpsでは問題なく動作していますので良しとします。
 WSJT-Xの設定画面は以下のとおりです。明示的にストップビットを"Two"に設定していることがわかるでしょう。 de JI3XOK/JM8SMO

WSJT-Xの設定画面


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?