私の見た真実。番外

ここまで私の見聞きしたことを書き記しましたが、とても大事な所用がありますので少しの間、執筆活動を休みます。その前に応援いただける消費者の方に正確な情報をお伝えしたいのでそれを項目ごとに書き記します。

「牛乳が大量廃棄の危険があります。牛乳余り問題」
皆様バター不足を覚えていると思います。当時これを解消すべく国と酪農業界全体で生乳生産量増産へと舵を切りました。クラスター事業などにより牛の増頭、生乳の増産を推進した結果、予想よりも早く進み生乳の生産量が増えました。一方で人口減少やコロナによる学校給食の停止や外食産業の売り上げ低迷、海外渡航客の途絶などによって牛乳の消費量が落ちてしまいました。生乳は牛乳として飲まれる以外は保存の効く製品に加工されます。が、飲まれる量が減ってしまい生産が過剰になっています。そのため加工する量が増えています。その主な加工品がバターと脱脂粉乳です。約1L(1000g)の牛乳から40g前後のバターと80g前後の脱脂粉乳ができます(乳質によって前後有)このバターと脱脂粉乳の需要と供給が大変難しいのです。バターはパンやお菓子など大変需要の多い食材です。最近では高級食パンブームがあったりコンビニスイーツでもよく見るようになりました。対して脱脂粉乳は主にヨーグルトに使われますが生産の際に生乳を使用する事もある事、またヨーグルト自体の売れ行きが好調では無い事などからバターに比べると需要の少ない食材だと言えます。つまり人気の多いバターをそのまま作ると脱脂粉乳が余ってしまう、脱脂粉乳の在庫量に合わせてバターを生産すればバター不足に陥ってしまう。といった具合に両天秤にかけられない、どちらか一方しか優先できないのです。今までは脱脂粉乳の在庫量を積み増すのみでバターを生産していましたが、その在庫量がMAXを超えてしまっているのが現状です。つまり牛乳余り問題は積みあがった脱脂粉乳在庫が原因と言えます。そのため後述するカレントアクセスに関してはバターの輸入がほとんどになっており、脱脂粉乳在庫を減らすためのバター輸入がされています。バター、脱脂粉乳以外にも生乳を利用したヨーグルト、チーズなどももちろん生産されていますが、ヨーグルトは発酵食品で長期保管が効かないこと、チーズは完全加工品で牛乳に戻せないため、需給調整には利用できません。ですから、牛乳を飲んで!と業界をあげてお願いしております。飲んでいただければそもそも加工に仕向ける量が減るために牛乳余り問題の解決に一番効果があります。日本国民全員が一月にコップ一杯多く飲めば解決するそうなので毎月牛乳で乾杯をしようと思っております。

「国は牛乳、乳製品の輸入を辞めろ!」
これについては昨年からよく聞いていたと思います。バターや脱脂粉乳が余っている状況なのに海外からバター、脱脂粉乳を輸入するのはなぜか?国内で余っているのだから輸入をするな!という風に酪農家を国がイジメている心象だと思います。
まずは日本の乳製品輸入の仕組みと海外乳製品から市場を守る仕組みがあることをお伝えしたいです。これが理解していただけると、はっきりと国は酪農を守っていることが解ってもらえます。
大前提として覚えていただきたいのはバターの価格、日本国産は1㎏1400円程度、最も安い輸入バターがニュージーランド産で1㎏500円程度という事です。3倍に近い価格差があります。これはニュージーランドが基本、放牧により飼育していて、穀類などを補助的に与える程度のためエサ代が大幅に削減できるのと牛舎などの大きな設備が必要ないからこのような価格になるそうです。
つまりは輸入乳製品と国産乳製品がハンディキャップ無しに同じ棚に置かれれば当然手に取る量が多いのは輸入になります。
そういった大前提のもと、日本は以前から国産の牛乳、バター、脱脂粉乳を守るために高関税で実質的に輸入禁止くらいの状態にしています。
例:バターは1㎏あたり関税約30%+985円+運賃
先ほどのNZ産バターに当てはめると、
1㎏500円×130%+985円+運賃約100円=1735円
この価格ならば同じ棚に並べても国産を選んでもらえますよね。
それがガットウルグアイラウンド交渉(1986~1994年)おいて実質的な輸入禁止状態を辞めて最低限の量は毎年輸入機会の提供をしよう、という約束がなされました。それがいわゆるカレントアクセスです。当時の輸入量、生乳換算13万7千トンを最低量として輸入機会の提供をしています。そしてその分は低関税(35%+マークアップ)で輸入をする、というのが約束です。マークアップとは入札する国内商社によるオークションのような入札形式で1㎏50円~300円程度上乗せされます。これを自由貿易ではなく国家貿易として、誰もが輸入出来ない状態、国がコントロールできる状態にしています。つまりはアメリカなどが自由貿易を推し進めていますが、牛乳、バター、脱脂粉乳に高関税をかけて日本の市場を守るためにカレントアクセスによる限定的かつ低関税な乳製品輸入を認めているのです。日本全体の生乳生産の約25%がバター、脱脂粉乳に向けられています。この日本国内での販売シェア25%が自由貿易になりもし無くなれば日本酪農全体の壊滅となります。
またチーズはすべて自由貿易の品目で、その性質上、牛乳などの市場価格に影響を与えません。関税はチーズの種類でも変わりますが30%程度です。そのためチーズに関しては、安い輸入チーズと高い国産チーズの図式となっています。また外食残業のチーズはほぼ輸入です。
余談ですが、カレントアクセスの輸入の際に国内商社からマークアップとして上乗せされた金額は我々酪農家の補助金の原資となっています。最近は為替の影響でそれほど多くない金額ですが、一時期は大変大きな金額でした。平成29年は136億円も売上ていて、我々の受け取る「加工原料乳生産者補給金制度」(375億円)の大きな一助となっております。
以上の事から輸入はバターに重きを置いて続けるべきかと思っております。ただし、その時世時世で需要が変わる事もあると思いますので国内の生産状況を鑑みて補完が必要なんだと考えます。なので今後も輸入状況は注視してまいりたいと思っております。

「国は牛を殺させるな!」
生乳需給の安定化を目指す「酪農経営改善緊急支援事業」いわゆる早期リタイヤ事業の事です。酪農家が行う経産牛の早期屠畜の取り組みに対し、1頭当たり15万円の奨励金を国費から交付する補助事業です。
牛を殺処分すると国が補助金を出すと理解している方が多いと思います。これは間違った表現です。殺処分ではなく屠畜(とちく)といってお肉にするため食肉処理場でお肉にすることです。殺処分と聞いてただ単に命を奪って埋めている、と想像している方がいますので勘違いされないようお気をつけください。あとこれは畜産すべてに言えると思いますが、我々畜産農家はすべての家畜を畜産品として食卓に届けるために飼っています。ですからその時期が早いか遅いかのタイミングの違いだけで基本的には全頭食卓に届けたいのです。ただしその時期は生産者で決めます。
この政策は牛乳余り問題を解決すべく酪農生産者の中で行われていた生産抑制に端を発します。生乳を減産するために出来る事は大きく言うと二つ、搾乳頭数を減らすこと、エサを変える事の二点だと思います。しかしながらこの酪農危機の中で高いエサ代を払って搾乳量を減らすというのは難しく、頭数を減らすという選択肢を酪農家の上部団体が決断しました。そのため以前から一頭屠畜すると5万円の補助金が出る(原資は酪農家自身の拠出金)助成を行っていました。それに対して国が後押しとして1頭15万円を助成することが決まったのがこの事業「早期リタイヤ事業」です。ですから一番最初に牛を減らそうと言ったのは酪農家の一部の上部団体なのです。しかしながら酪農家は一枚岩でななく、この事業については大変な批判があったと思います。私もそんな一人です。牛はモノではない。
ですが厳密に法的に言えば牛は「物」です。最終的にはお肉にするのが全て。しかしながら我々酪農家は物として飼っていません。一頭一頭個性があって家族同然に飼っています。そんな個性のある牛たちをまだまだ搾乳できるのに早々に屠畜してしまう、それも20万円なんていうはした金で。だから納得がいかないのです。だから牛はモノではない、モノ扱いするな!と訴えるのです。この悪魔のような政策を提言した人物こそ攻められるべきで、国は全責任を負うものではないと考えます。ちなみに聞いた話ではまだ事業の途中ですが、4万頭削減をかかげて本年3月から始めた補助事業ですが、1万頭前後の頭数削減になる予想で予算未達のまま終わるのではないかとの予想が多いです。せっかく付けてもらった50億円の予算なのに使い切れないなんてあってはならないのに。そんなことになるならもっと使い道はあったはずです。この件は今後、酪農業界内で強力に訴えてまいりたいと思っています。
私の訴えを聞いて応援してくださった方々には勘違いをさせてしまい申し訳ございませんでした。勉強不足でした。

「国は牛乳を捨てさせている!」
これは涙ながらに排水溝に牛乳を流している映像を見て国がそのように主導していると思っている方がいます。また全国的に牛乳を捨てなければいけないと思っている方もいます。
実際は北海道の一部の地域で限定的に廃棄されています。私の効いた話では数十件の牧場で一日あたり合計で20トンから30トン程度と聞いています。ですが、広い北海道での事、もっと他にもいるかもしれません。このことについては北海道の生乳生産を広く取り仕切るホクレンなどがちゃんと調査して発表すべきだと私は思います。しかしなぜ廃棄するのか、せざるを得ないのか、は皆さまよく解っていないのではないでしょうか。
これは生産抑制が原因です。結局、牛乳余り問題を解決するために生乳生産量を減らさないといけない、というのが根本です。そしてこの減産は、北海道内でも一律で行われていません。各地域、各農協で減産対応がバラバラだそうです。だから地域によっては生産量を伸ばしているとこもあるが、減産に真面目に取り組んでいて経営を圧迫している地域もある、とのことでした。そしてその中でもしっかりと減産要求に応えねばという農協においては集乳の際に計画数量から多くなってしまった時にはタンクから生乳を吸っていってくれない、という事も起こっていると聞いています。その分は廃棄せざるを得ない訳です。ですが、牛を減らす事は嫌だから、牛はモノではないから、搾るんだという酪農家がいます。私も同じ気持ちになると思います。また聞いた話ではこれからの減産においては計画量を超えて出荷した場合は罰金を科す事や、脱脂粉乳を買い取らせるなど、農協ごとに厳しすぎる要件も決まったというような話を聞いております。北海道内は広いので私も情報をすべて把握している訳ではございません。

いかがでしたか。私の知る範囲での現状の問題点の詳細をお伝えしましたが、聞いた情報が多く数字などは現状と少し違う部分もあるかもしれません。その際はご指摘いただきますようお願いします。真摯に直して参ります。しかしながらこのような現状を放置する訳にもいきません。今後は早々に需給の平定化、生産の伸ばせるような状況になるよう努力してまいります。

追記 2023/8/21
最後まで読んでいただきありがとうございます。いまだ酪農危機真っ最中です。エサ代の高騰に加えて電気代や燃料費も高騰。更に今夏の暑さで牛も参っております。苦しい中でも生産を辞めないで続けてくんだ、と歯を食いしばって耐えております。皆様、牛乳、乳製品を少しで結構ですので継続的に消費していただくようお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?