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【部門別に解説】 ヘッジファンド業界の王者シタデルの実態


■ はじめに

今回は、ヘッジファンド業界の王者であるシタデルの実態について分かりやすく解説を行いたいと思います。

シタデルは、1990年に当時22歳のケネス・グリフィン氏により創設されたヘッジファンドで、設立以来の収益は659億ドル(約13兆円)と、「史上最も多くの収益を上げたヘッジファンド」というタイトルを持ちます。(出典: LCH Investment NV の推定、2022 年 12 月31 日時点)

同じくケネス・グリフィン氏により設立された組織として、マーケットメイカー(値付け業者)のシタデル・セキュリティーズがありますが、ヘッジファンドのシタデルとシタデル・セキュリティーズの経営は分離されており、また直接的な資本関係はありません。今回はヘッジファンドのシタデルに限定して解説を行っていきます。

■ 王者シタデルの実態

シタデルは、世界中から優れた人材を獲得することを最重視し、彼らに専門的なトレーニングを施した上で、様々なアイデアを吸い上げて投資運用を行うことで、意思決定を極限まで分散化し、驚異的なリターンを安定して生み出し続けてきました。

シタデルが主催するサマーインターンシップ参加への倍率は500倍以上あるとされており、MITやハーバードなどの名門大学に入学するよりシタデルでのインターンを勝ち取る方が難しいとよく言われます。

そんなシタデルは実際にどのような投資運用を行なっているのでしょうか。ここでは、シタデルが運用する5つの部門を順番に解説いたします。

1.コモディティ部門(2002年創設)

現物市場の動向を正確に把握し将来予測に役立てるため、一日に10TB以上の膨大なオルタナティブ・データを収集し解析しています。
この部門は、複雑系の世界を正確に細かく捉え、高度なモデリングによって因果関係を解明し、市場において先行して取引を行なっています。

船舶追跡から石油貯蔵レベルや農作物の収穫量に至るまで、供給、需要、貯蔵、輸送に関するより多くのデータがこれまで以上に入手可能になりました。一次産品市場はよりグローバルにつながっており、天然ガス市場は肥料生産に影響を与え、農業市場はガソリン生産に影響を与えます。

https://www.citadel.com/what-we-do/commodities/

中でも、このコモディティ部門の内部で運用されている欧州のエネルギー取引チームは、昨年2022年の1年間で、$8billion(約1兆4000億円)という巨額の収益を生み出しました。彼らは上記のようなオルタナティブデータを基に、公的な気象機関よりも「正確に」「将来にまでわたって」天候を予測することで、エネルギー市場において先行して取引を行ないました。具体的には、公的機関の予測が来週が「曇り」の場合に、自前の予測では「雨・雪」になるとされたら、天然ガスや電力先物を大量に購入します。そして、公的機関の予測が修正され遅れて投資家が入ってきたタイミングで保有していたポジションを彼らに売りつけるのです。

2.クレジット・コンバーチブル部門(1990年創設)

そもそもシタデルは、創業者のケン・グリフィン氏が、インターネットが普及する以前、ハーバード大学在学中に学生寮にアンテナを設置し、転換社債の裁定取引を開始したことから始まりました。このクレジット・コンバーチブル部門はシタデルの起源そのものなのです。

この部門は、社債、転換社債、優先債およびハイブリッド債、クレジットおよび株式デリバティブ、銀行ローンおよびローン担保証券 (CLO) などのクレジット商品を扱います。発行体や、発行体の行う事業を深く理解することを重視し、ファンダメンタルズ分析と定量的分析の両方を組み合わせることで、本質的なリスクと比べ過大にリスク評価されているクレジット商品、つまり本質的な価値に対して割安に放置されている投資機会を発見し、資本を投下します。

2023年6月14日には、予想される景気後退に備えクレジット部門を強化するというケン・グリフィン氏の発言が報道されています。

3.エクイティ部門

シタデルのエクイティ部門は、全体で400名以上の専門家を抱えるシタデル最大の部門です。この部門の中は、更に以下の4つ部門に分かれており、それぞれが独立して株式のロング&ショート戦略を実行しています。

⑴ グローバル・エクイティーズ(2001年創設)
⑵ サーベイヤー・キャピタル(2008年創設)
⑶ アシュラー・キャピタル(2018年創設)
⑷ インターナショナル・エクイティーズ(欧州&アジア部門を統合し誕生)

それぞれの部門には特徴や独自のカルチャーがありますが、いずれの部門も株式市場全体の動き(ベータ)には賭けをせず、ボトムアップ・アプローチによって各株式の固有の動き(アルファ)を取りにいくマーケット・ニュートラル戦略を取っており、一つひとつの企業や事業を深く理解するファンダメンタルズリサーチと財務分析が投資の基になっています。

エクイティ部門の中でも更に上記のような4つの部門に分かれる理由としては、シタデルにおいてエクイティ・ビジネスが発展してきた経緯があると同時に、部門を細かく分けて独立させることで意思決定を分散させることが目的としてあると考えられます。

4.債券&マクロ部門(1999年創設)

この部門では、金利(金利スワップ、ソブリン債、物価連動債)、通貨、新興国市場を対象に、マクロ及びレラティブバリュー戦略を取ります。定量分析と定性分析(マクロ経済と各国の金融政策への深い理解)の両方の角度からアプローチし、市場に現れる歪みを捉え、相場の方向性に左右されずに収益を安定して生み出すことを重視しています。

このようなマクロ戦略で成功しているプレイヤーとしては他に、旧UFJ銀行の日本国債のディーラーだった浅井将雄氏が共同創業した Capula Investment Management や、英国ヘッジファンド業界において長者番付トップのMichael Plattが創業した BlueCrest Capital Management などがあります。マクロ戦略では、株式ロング&ショートのように緻密なリサーチを積み上げていくボトムアップアプローチとは大きく異なる、金融市場を俯瞰的に捉え、他の市場参加者との駆け引きを制するセンスが求められます。

5.クオンツ部門(2012年創設)

この部門の正式名称は、Global Quantitative Strategies (GQS)で、膨大な量の森羅万象のデータを収集・入手し、それらを高度なモデリング技術によって解析することで、市場に先行する指標を見つけ出しています。取引対象は、株式、先物、債券、通貨商品など多岐にわたり、市場に先行する指標が見つけ出せる限りにおいて、縦横無尽に取引を行っています。

GQSは2012年に創設されており、他の部門と比べると歴史は浅いものの、この部門で働くクオンツ・リサーチャーのうち60%近くが博士号を持っており、また近年世界の名門大学にてGQSが活発に理系人材をリクルーティングしていることからも、急成長中の部門であることが分かります。

GQSと競合するプレイヤーとしては、Two Sigma、D. E. Shaw、Renaissance Technologiesなどがあります。これらのファームと比べるとGQSは遅れて立ち上がったと言えますが、今日のGQSの成功ぶりを見ると、優れた人材を集めて合理性を徹底的に追求することで、どんな戦略・領域においても優位性を確立してしまうケン・グリフィン氏の手腕が伺えます。

以下の採用プロモーション動画ではGQSの責任者であるNavneet Arora氏がインタビューに応じており、GQS内部の様子が伺えます。

■ おわりに

以上、ヘッジファンド シタデルが運用する5つの部門を解説しました。今まで、シタデルが実際にどのような運用を行なっているのか十分に解説される機会が少なかったと思います。

今回の記事を通して、シタデルへの理解を深めていただけたのであれば幸いです。今後とも当アカウントではシタデルに関する情報を継続的に発信してまいりますので、ぜひフォローのほどよろしくお願い致します。





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