”邪道”の大切さ~当初予算発表を迎えての雑感(2014.2.14のFBノート)

26年度の当初予算の発表の時期を迎えました。この時期、いつも予算について思うことがあります。

県の予算編成は秋口から始まります。9月頃から仕込みに入り、10月に要求し、その後、財政課長から総務部長、副知事、知事と協議を経て、2月上旬に決まっていきます。どこでもこんな感じだと思いますが、このスケジュールだと次の年にやることを前の年の夏頃には固めていかないといけないことになります。

つまり、予算の執行が年度の途中から後半になる場合、1年~1年半も前に考えたことをやらないといけないということになるわけです。時代が変化する中で何とものんびりしたというか、のろまな話ですらあります。

思いついたらすぐにやらないと気が済まないせっかちな私は、とても待っていられず、総合政策課時代も、商工政策課の4年間も、そして地域医療推進課の今年も、その年に考えたことをその年にやってきました。

長期構想の策定を担当した総合政策課時代の将来構想研究会、商工政策課時代のネットショップ支援やBCP普及、月例の経済情勢の定点調査、今年であれば小児在宅医療などがその例です。いずれも自分としては一定の成果を上げた、あるいは上げ始めている仕事だと思っていますが、春先には影の形もなかったものばかりです。

そのほとんどは、春からいろいろな人にあったりしているうちに、6~7月頃になってひょんなきっかけで必要性に気がつき、夏頃から準備し、秋口から実行に移していきました。そのうえで、時には補正予算を取ったり、さらに大きな事業にするために翌年度の当初予算でまとまったカネを取っていきました。

こういうのは、いわば予算で議論していないことをやるわけで、そんなことやっていいのかとか、やれるのかとか言われたことが何度もありました。でも、そもそもカネをかけずにできることがヤマほどあります。既定の事業のやりくりで簡単に捻出できることもあります。さらに、探してみると、たいていどこかに新しい課題を検討するためのフリーハンドの予算があります。自分の課になければ他から譲ってもらうこともできます。国からの基金など、年度途中で活用できるものも結構出てきます。理屈をつけて使えるカネも実はいくらでもあります。

要はやろうと思うか思わないかだけなんです。やろうと思えば、不思議なことにどこからでもカネは拾ってくることができるし、実際にどうにでもなる。逆に、できない理由が先に立つのは、やる気がない時なんですね。

まずは計画を立てて、実施方法を考えてというのが行政の本筋だという人もいます。でも計画を立てるというのは、実際にやってみて、その分野や事業の見通しが立っていないと作れないことがほとんどで、計画のための計画は単に言ってみただけということになってしまいます。これも自分自身、何度も経験してきました。

先日、楽天新春カンファレンスでの自治体勉強会で、楽天大学の仲山さんと私でお話をしていた時に、岐阜県ではネットショップ支援の枠組みの制度設計をどうしたのかというおたずねがあって、制度設計はしてませんというようなお答えをしたところ、仲山さんが、「楽天の会社のコンセプトで「仮説→実行→検証→仕組化」というのがあるが、「制度設計から入るのは「仮説→仕組化→実行→検証」で、順番が違いますよね」というようなコメントをされました。

まさしくそうなんです。 正しいのはやはり「仮説→実行→検証→仕組化」なんです。まず多分こうであろうという段階でトライしてみて、そこで問題がわかり、随時修正して、その経験を踏まえて制度や仕組みにしていくということじゃないと、うまく行かないことの方が多いのです。

実際に、岐阜県のネットショップ支援事業を立ち上げた時、今の事業の中核となっている県内ネットショップの集まりの「ぎふネットショップマスターズ倶楽部」の発想は全くありませんでした。なぜなら、店舗間の結びつきが店舗運営でどれだけ重要なことかは、事業を始めて店舗の皆さんと話してみるまでわからなかったからです。

やってみて初めて、店舗間の結びつきが成長のために不可欠であることに気がつき、しかも、県のような広く声をかけられる力がないと組織の立ち上げすら難しいということがわかり、とにかくやってみようと思ってマスターズ倶楽部を立ち上げました。でも、正直言うと、この段階では、どうやって活動すればいいのかの見通しははっきりしていたわけではありませんでした。やってみてから考えよう、始めてみれば見通しは立つと思っていました。

役所の中で言えば、「十分に熟していない事業」だと一蹴される典型例です。それはわかっていたので、文句を言われないように、既定の事務経費内でできる「ゼロ予算事業」として始めました。

案の定というか、最初盛況裡に始まったマスターズ倶楽部は、半年ほどで壁にあたりました。これからネットショップを始めようという人から営業目的のコンサルまでもが加わっていたこともあって、店舗さんから不満が出る自体に陥りました。いわば「失敗」です。

でも、ここからです。そもそもカネがかかっていないので、すぐに軌道修正し、メンバーを思いきって減らして純化を図りました。小規模の勉強会中心の運営に切り替え、それが徐々に好評を博し始めます。そこから再び「面白いよね」という声をいただくようになっていきました。

そんなトライアンドエラーを繰り返しているうちに、コアなコミュニティをつくることが大切なんだと言うことに気がつき、そのための取り組みをはじめ、次第にまとまった予算を取るようになって現在の形に至ります。「仮説→実行→検証→仕組化」のサイクルが何回か繰り返された結果です。

ホントの仕事の仕方って、こうじゃないかと思うんですね。特に公務員のような数年で異動するような人事があるところでは、自分のいる間に存分な仕事をしようと思うと、計画を立てて、予算を要求し、翌年のサクラの咲く頃からようやく取りかかるようでは、カタチにすることはほとんど不可能です。

それから、こういうスタイルで仕事をすると、必ず現場志向になります。新しいことをやろうという発想は、机の上ではまず浮かびません。人と話したり、いろいろなところを見たりしているうちに、こういう問題があると言うことがわかり、「だったらこうしたらどうか」と思うところから始まるんです。ですから、年度途中の新規事業は、ほとんど全て現場からしか出てこないんですね。

そういう仕事をせずに、前の年に決められたことをこなしていくクセがついてしまうと、こうして課題を自分で見つけに行くことをしなくなります。それが繰り返されると、気がついた頃には、現場も見ず、実態からかけ離れた空虚な仕事ばかりを、惰性でレールの上を流れていくようにしかできない職員になってしまうんです。

予算もないことをやるのは県民への説明責任を果たしていないのではないかという指摘もあります。そもそも予算を使わないか、既定の予算を活用しさえすれば、それは「説明された」範囲内だと思っていますが、そうでないとしても、大事なことは、いち早く実行して、その内容を発表し、新聞やテレビで取り上げてもらって多くの皆さんに知ってもらうことじゃないかと思うんですね。私は、いつも「発表しない事業はやったことにならない」と言っているのですが、それは説明責任を果たすことに他なりません。

失敗したらどうするのかという人もいます。失敗したらどうして失敗したかを素直に言って、すいませんと謝って方向を変えればいいんです。さきほどのネットショップマスターズ倶楽部の途中までの経過は、完全に「失敗」です。でも、それがないと成功のパターンがわからないのです。

何千万も何億もかける場合はもちろん慎重である必要がありますし、そのための準備も必要です。しかし、その準備自体が、小さなレベルのトライアンドエラーの結果ですし、そもそも大きな費用をかけるのでなければ、ある程度のトライアンドエラーは、私は十分許されるだろうと思います。

もちろん、年度途中で新しいことをやるには、現有勢力の中で、マンパワーをやりくりをすることも必要ですし、部下職員に無理を言っていることも多々あります。苦労をかけて申し訳ないなあといつも思います。しかし、それを上回るベネフィットが必ず世の中に与えられると思うので、いつも承知の上で無理を言っています。まずは、現有勢力の中でやって、成果が上がれば堂々と人を要求していけばいいんです。

こういう仕事の仕方は、役所では邪道だと思います。でも、やっぱり邪道じゃないとダメだと思うんです。

当初予算が発表されると、新しい年度の新しい事業が始まると誰もが思います。でも、実は、もう春の時点では古くなっていることも多いのです。なので、自由に政策課題にチャレンジすることを保証できるような予算があることは大事だと思うんですね。

県民生活の中にある課題を捉えた時に直ちに事業化して、将来の政策への道を開くような一定規模のフリーハンドの予算があって、これをしっかりと活用されるようになれば、役所は変わります。その先に、喜んでくださる県民の方がたくさんいる地域ができるのではないかと思うのです。

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