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人口減少をどう思うか。(2015.5.30のFBノート)

5月27日に地域人口学研究会を立ち上げました。ずっとライフワークとして取り組んできた人口の問題について、県職員という立場を超えて、いろいろな方々と問題意識を共有し、勉強していこうという会です。

当日開催した第1回目の研究会では、相棒の清水浩二くんが全体的な概論を、私が出生動向についての発表を行ったのですが、清水くんの発表に対する質疑応答の際に質問が出ました。

「人口減少はいいことなのか、悪いことなのか。どちらの立場をとられるのか。」という趣旨のご質問でした。これは大変重要なポイントを含んだ質問です。

人口の推計は、経済予測などに比べると極めて精度が高いもので、多少の差こそあれ、ほぼ外れるということがありません。程度からいえば、向こう数日から1週間の天気予報くらいの精度だと思っています。逆に言えば、ほぼ確実な未来として受け入れざるを得ないというのが人口の推計なのです。

今は人口が大きく減少していくという推計がされているわけですが、その人口減少に対していいのか悪いのかと問われれば、私の答えは「よくも悪くもない」です。確かに寂しいことは間違いありませんし、増えていった方が明るく感じるに決まっています。しかし、好むと好まざるとに関わらずやってくる未来、それが人口減少なのです。

たとえを出すことは私はあまり好きではありませんが、天気予報の話をしたついでに申し上げれば、明日の天気が「雨」という予報が出たときに、皆さんはどう思われるでしょうか。おそらく、「イヤだなあ」と思われるに違いありません。しかし、いいのか悪いのかと聞かれても、どちらかと言われれば悪いが、といって雨なんだからしょうがないとしか答えようがないのではないでしょうか。

人口も実は同じなのです。きちんと分析し、勉強していくとわかりますが、人口を増加に転じさせるというのは、数年でできるようなことではありません。現実的に言えば、努力を重ね、出生率が上がり、それが世代を超えて100年くらい続いて、ようやく増加に転じるというレベルのものです。なので、いわゆる少子化対策はそれを理解したうえで、自分が生きている間に目に見えた成果が出ることはおそらくないという前提に立って、結果が見えないけれども耐えて取り組み続けるという性格のものです。

他の地域から移動させようという話もよくあります。それ自体は正しいことです。しかし、全国津津浦々、時間差こそあれ同じように人口が減っていく中で、せいぜい10年程度の時間差を生じさせるのが精一杯です。多少の時間差を稼ぐということをわかってやるべきことなのです。

私は人口減少対策には、①対応戦略と、②適応戦略があると、申し上げています。

①はいわゆる少子化対策で、人口減少という現象自体を消してしまおうというものです。しかし、先ほど申し上げたように、極めてうまくいったとしても、効果が見え始めるのが最低でも30~50年先で、恩恵にあずかるには約100年はかかります。

これに対して、②の適応戦略は、人口減少を所与のものとして受け入れ、人口減少時代に合わせた暮らしやビジネス、地域のあり方を考えていこうというものです。

地域の経済を維持するために、人が減るなら交流人口で補う。商圏人口が減り、国内市場が縮小するなら少量でも利益が上がる商品を作り出したり、ネットを使って、人口減少のスピードが遅い都市部や、人口が増大している海外に売る。高齢者が増えるなら元気な高齢者が働ける職場を作る。といったようなものです。私自身は、岐阜県長期構想の策定時代から一貫して、こうした適応戦略が最も重要なのだと言い続けています。

明日から当分雨だという天気予報が出ているときに、偏西風の流れを変えるための対策を考えるよりも、考えるべきは、傘を準備するのか、カッパにするのか、はたまた外出を控えるのか、例えていえばそういうことです。

日本も岐阜県も、人口減少が本格的に始まって、まだ10年ほどしかたっていません。しかし、最低でも21世紀中は人口減少が止まることはないことを考えると、まだ始まったばかりなのです。日本全体の人口は2100年には現在の1億2800万から5千万人に、少子化対策がうまくいっても6500万人で、減少の与えるインパクトはほとんど変わらないのです。その中でどう対処するかが問われています。

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我が国を代表する人口学者で国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆さん(岐阜県出身)は、今から7年前の2008年に書かれた「人口減少社会”10秒前”に想う」という随想の中で、緊急地震速報が鳴り響いたときに、塀から離れる、火を消す、身構えるという行動をとるだけでも被害を抑えることができるように、人口問題においても、30年後の人口の様相を変えることは不可能だが、その時を思い、火元を確認し、頭を守ることはできるかもしれないとし、「その時」の状況についての想像力が必要だと書いていらっしゃいます。

岩澤さんは人口問題における「10秒前」とは30年くらい前をいうのではないかとされていますが、30年後は単身者、特に単身高齢者の増大、未曾有の規模での死亡者の増加、女性高齢者が中心を占める社会の到来という時代になります。今回立ち上げた地域人口学研究会は、まさしくこうした次の社会の姿を「確実な未来」として受け止めたうえで、自分や地域がどう対処すべきかを考えるのが目的です。正しい認識を広く共有できるように、志ある仲間たちと勉強し続けていきたいと想っています。

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