地域の商業振興とは~これからの産業政策のあり方(2015.1.8のFBノート)

最近、商業振興という話題で人と話をする機会があった。

地方自治体で産業政策に携わった経験のある者であればある程度わかることであるが、商業振興は極めて伝統的な分野であり、どの自治体でも多かれ少なかれ取り組みがなされている一方で、これほど手詰まり間のある分野もない。政策にイノベーションはほとんどなく、旧態依然とした取り組みが繰り返され、担当者自身が割り切れないものを抱えたまま仕事をしていることが多い。

私自身は、飛騨古川の商店街にある自転車店に生まれ、店舗兼住宅の自宅で育った。公務員だが「門前の小僧」としての肌感覚はある。それだけに、地域の商業、商売に関しては、何とかしたいという思いが今も強い。そして、そんな思いで商工労働部時代、考え方だけでも変えることはできないものかと政策に取り組んできた。

その中で、ネットショップ支援事業を自ら立ち上げる機会に恵まれ、それを通じて、商業振興、ひいては産業振興というものは、やはり役所の考え方を変えるべきであり、実際に変えることはできるという確信を持っている。

その当時、今から3年前になるが、民主党政権下の「小さな企業未来会議」という会合の委員をやった際に意見を提出したことがある。これに加筆をし、この際、備忘的に残しておきたい。

------------------------------------------------------------

地域の商業振興、商店街振興という観点と、産業政策のあり方という観点から意見を述べさせていただく。

テーマでもある地域の商業振興という点であるが、産業政策に携わっている立場で、国も地方も含めて、きちんとした商業政策は打てていないのではないかと、以前から思っていた。

国も県もそうだが、商業政策は、いわゆる「中心市街地の活性化」という呪文のような文句の下で、まちなかのインフラ整備をするか、「商店街振興」の名の下に、地域の商業全体ではなく商業集積地域に対象を絞り、商店街のイベントや空き店舗対策、アーケードなどの補修に補助金を投ずるというものが大半で、これは長年変わっていない。

これらはいずれも、商店街へ来る人を増やす対策である。確かに、商店街衰退の原因の大きな部分は商圏人口、あるいは商圏内の就業人口の減少であり、その点では客数増加の対策はわからないではない。

しかし、現場に行けばすぐわかることだが、商店街ではイベントの時は売り上げが多少上がっても、それが長続きすることはないという声がほとんどだ。それどころか、イベントで人が来ても、売り上げが上がるわけではないという声も多い。つまり、よく言われる「にぎわいづくり」では恒常的な売り上げ増に結びつかないことはほぼ常識である。これはなぜなのか。

当たり前だが、消費者は買う気にならなければ財布は開かない。何らかの「買う理由」が必要である。だから、商売をしている人は、消費者の買いたいと思う心を動かすために、商品やサービスそのものにせよ、商品の魅力の訴え方にせよ、売り方の工夫にせよ、消費者を買う気にさせるために相当の努力をしなければならない。それはお店の中で、商売をしている人自身がすることだ。

ネットショップの世界では、売り上げはアクセス数(客数)×転換率×単価で決まるとされる。このうち、転換率とはアクセスしてくれた人のうち、何人が購入してくれたのかという率をいうが、アクセスがいくら稼げても、ページの見せ方が悪かったり、商品の魅力の語り込みがなければ、客は買う気にならず、転換率は上がらず売り上げにはつながらない。

イベントやまちなかの整備で集客を増やすのは、アクセス数を増やす対策である。しかし、そこに店自身が努力して転換率を上げる工夫がなければ売り上げにつながらない。そして、その工夫は、結局、各店舗が自ら知恵を絞って努力しなければならない世界なのである。

その点、「商店街の敵」とされてきた大型店では、実は相当の努力が行われている。

岐阜県にある大型のショッピングモールのマネージャーに話を聞く機会がよくあるが、彼らの仕事の多くはテナントの指導だ。毎日売り上げをチェックし、数字が悪ければ、呼んで具体的にアドバイスを送り、店の導線やポップの作り方、商品の選定まで口をはさんで売り上げを上げる努力を促す。モールは出店料とマージンで売り上げを上げる構造になっているので、店舗の売り上げが上がらないことにはモールの売り上げも上がらないから、モール運営者も必死なのである。単に規模のメリットだけで、あるいは安さ勝負だけでやっているのでは決してない。

では、翻って、商店街ではその努力はなされているのだろうか。モールのマネージャーのような人がいない分、自分で努力しなければならないが、行政はその努力に対してきちんとしたサポートをしてきたのだろうか。

岐阜県は2009年から、ネットショップの支援を産業政策・商業政策の重点に位置づけて取り組みを進めてきた。ネットを使うことで、地域外、特にマーケットの大きい都市部からの売り上げを地方にいながらにして上げることが目的の政策であるが、商業政策を変えたいという思いがあった。そして、その中で、我々自身が産業政策のあり方を学んできた。

世の中には、ネットショップを出せば簡単に売れる、ネットに商品を載せれば世界中に販路が広がると思っている人が多いが、それは間違いである。ネットはショップを出しただけ、商品をアップしただけでは全く売れない世界である。しかし、売り上げを上げるための正しい努力ができれば、売り上げを伸ばすことができる例を私自身多く見てきた。

その努力とは、お客に買いたいという気を起こしてもらうためにはどうすればよいのかということについて、多くの人たちと交流し、学び、ヒントをつかみ、自ら脳ミソから汗が出るほど考え、トライアンドエラーを繰り返し、改善に改善を重ねて売り上げを上げていくというものである。大変厳しく、終わりのない道であるといっていいが、これなくして、売り上げを上げていくことは不可能である。

しかも、これはカネをもらったからできるというものではない。逆に、カネがなくても、自らのアタマと前に進もうとする意欲があれば、必ずできることである。

では、それに対して、行政がする支援とは何なのか。補助金や助成金を出すことではないことは明白である。カネを出すということと、商売をやっている人が自ら考えるということは全く次元が違うからである。

やるべきことは、自ら考えるいろいろなきっかけを提供することだ。特に、一商店主、一中小企業ではなかなかできない機会をつくりだすことだと思う。

例えば、多くの人と交流する機会の提供である。新しい価値は異質なものの組み合わせからしか生まれない。同業種の交流というのはいろいろな団体や組合があるが、異なる業種、異なる地域の人たちと知り合い交流する機会は決して多くない。しかも、それは一商店主、一中小企業が自ら作り出すことは困難だ。しかし、行政の立場からすれば、それを行うのは容易である。役所には、広域で、いろいろな団体や企業に一度に声をかけることができる強みがあるからである。

学ぶ機会づくりでもそうだ。遠くまで行って、いい講師の話を聞こうとするにはそのチャンスを見つけるだけでも大変であるうえに、遠くまで出かけるのが難しいこともある。そうしたセミナーや講習、勉強会に参加する機会を地元でつくることができれば、負担はぐっと下がる。その機会づくりも行政は得意技である。この話を聞きたい、この人に学びたいという声に応えて機会を提供するというのはとても大きな政策である。

そして、もう一つ大切なのは、努力を続ける人たちを支えることだ。自分一人で考えに考え、悩みに悩んでも売り上げが上がらず、心が折れそうになる時が必ずある。そんな時に、伴走し、支える存在をつくることは極めて重要な取り組みである。やり方はいろいろあるが、訳知り顔の「先生」を連れてきて数回こっきりのコンサルをさせることではない。自らの強みを気づかせ、頑張って次はこれをやってみましょうよとアドバイスしてくれる息の長い伴走者、あるいは、業種を超えて、悩みを共有し、切磋琢磨し合える仲間をつくることである。

こうした政策を実行に移していくためには、産業政策に携わる職員が、現場で語り、誰が何に悩んでいるのかをつかみ、役所の強みは何かを考え抜かないといけない。机の上で補助要綱を作り、申請書をチェックして、補助決定を行い、実績報告書をチェックして支出するという遠大な時間をかけた補助金の仕事とは全く違う仕事の仕方をしないといけないのである。


人口減少に加え、グローバル経済が深まり、世界の一番安いところでモノをつくり、世界中に売るということがごく普通になることで、競争の激化に見舞われている。中小零細企業もその競争の中に巻き込まれているし、今度も脱することはない。その中にあっては、「愚直に汗水垂らして働いてさえいれば報われる」という時代は終わったと断言していい。

今の時代の中で商売をするということは、知恵の勝負をするということである。ただ愚直に働くのではなく、アタマを使い、考えに考え抜き、それを実行に移していく努力を重ねるしかない。一発逆転ホームランもない。しかし、その苦労を乗り越え、頑張っている商店、小売業、メーカーが県内に多数あるのも事実である。

以上を踏まえれば、商店街振興も、地域の中での商業振興も、今一度、「モノやサービスを売る」という原点に立ち返ることが必要である。そして、消費者の心を動かせるだけの努力を促し、中小企業・商店の人たちを励まし、同じ目線で利益を増やす支援をするのが今後の産業政策の道である。

岐阜県でももちろん十分ではないが地に足のついた政策に転換できるように努力している。国においても、補助金を出せば終わりというような政策ではなく、中小企業とともに汗をかく政策を期待したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?