議会答弁を書く(2014.3.6のFBノート)

県議会の一般質問が始まりました。議会の対応は、県によっても市町村によっても、あるいは首長によっても大きく異なるものですが、岐阜県の場合は、事前に質問の内容をいただき、担当課が答弁原稿を書き、知事や部長まで夜遅くまで協議して内容を詰めていくというパターンです。

私は今年こそ少ないものの、ここ10年ほどは、議会答弁を書く機会が多く、おそらくこれまでに知事答弁で80~90本、部長答弁まで入れると200本近く書いているのではないかと思います。役所に勤める者にとって、議会の対応は大変ではありますが、自分が書いた案をそのまま知事が答弁し、県政の方針になるということもよくあって、県政の一翼を担っている醍醐味や実感が得られる貴重な機会でもあります。

もちろん、自分の考えと知事や部長の考えが異なる時は、根本的に書き直したりすることもあるので、やっぱり大変な作業ですが、そんなケースはさほど多くはありません。とすると、コツをつかんで書くというのは結構大事なことです。答弁を書くにはいくつかポイントがあると思っています。今でも、必ずしもうまく書けるわけではありませんが、これまで数多く答弁案を書いてきた経験から、一部をご紹介します。

<アタマで考え、口で話してみる>

答弁を書く時に、パソコンに向かってうーんと考え始める人が多いですが、これは失敗の元です。答弁はスピーチの原稿です。話す言葉であって、読む文章ではないんです。答弁を書くのに最もよい方法は話してみることです。自分が知事だと思って話してみるんです。

別に声に出さなくても、アタマの中で話してみればいいのです。そうすると、言いたいことは何かが自分の中でよくわかってきます。うまく話ができない時、話がつながらない時は、そもそも自分の考えがないか、情報が整理できていないときです。その時は考え直したり、調べ直したりする必要が出てきます。データがいるなと思えば、その場でデータの調査も始めないといけません。

でも一旦言葉で話せるようになれば、あとはそれを文字に落とすだけです。答弁は大演説ではないので、普段しゃべっている長さからすると、実は時間はわずかです。だから、そこからの作業は短くて済みます。

何よりもアタマで考えるのはどこでもできます。風呂に入っていても、メシを食べていても、それこそ呑んでいてもできます。実は私は呑んでいることが多くて、家で一杯やるとかえってアタマが整理できます。アタマの中で話を作り、それを文字に落としてラフ原稿をつくり、翌朝、冷静なアタマでそれを直していくことがよくあります。

私は自分のシマや係の職員に答弁を書いてもらう時に、ワープロに向かう前に、「どんな内容か話してみて」と言って言葉で語ってもらうことがよくあります。これがすごく大事なんです。ここで詰まる場合には、自分だったらこんな内容にすると話をします。そんなやりとりをしてから作業を始めると、楽になります。

また、こういうやりとりをすると、難しい問題が早期に明らかになりやすいのです。答弁はごく短くても、質問をきっかけにかなり議論することがよくありますが、ペーパーをつくっていると、時間をロスします。言葉でやりとりをしておくことはそうした時間のロスを削減することにもつながります。そして何よりもいい政策につながるきっかけになります。

また、こういう口で話すということを、普段、何でもない時に、自分のやっている仕事についてやっておくことも大事です。考え方とか理念とか、やっている内容を口でしゃべるんです。呑んでいる時の会話でも、お客さんと話す時でも、職場での打ち合わせでもいいので、仕事を口に出しておくと、それが答弁を書く時に役に立ちます。いわばトレーニングですが、それは、いい仕事をするために大事なことです。

<シンプルに答弁を書く>

役所勤めの人間のクセは、文章を起承転結で書くことです。枕詞のような語りが入り、それを受けて制度とか事実とかを書き、その後に答弁の本旨にあたるところが来て、最後にまとめの言葉が入るというパターンです。実際に、議会答弁を聞いていると、全体の7~8割はこの形式です。しかし、これは答弁を書く上では天敵です。

このパターンでやると、まず間違いなく答弁が冗長になります。最初の枕詞と、最後の締めはカットしても問題ないことがほとんどです。特に最後の締めは気になり始めると、ヤメテくれーと言いたくなります。ですが、どうしても体に染みついているパターンで書いてしまうんですね。自分の目線では1本の答弁だからいいですが、知事が何本も続けて読み上げていくと次第に聞いているのがイヤになってきます。

数年前、商工政策課の課長補佐だった頃、政策企画の課長補佐会議でこの問題を取り上げ、シンプルな答弁を書けるように申し合わせをしたことがあるのですが、その際に「木で鼻をくくった答弁を書こう」ということを言いました。言葉はよくないですが、要は「「どうだ」と聞かれたら「こうだ」と言おう」と簡単に言うとそういうことです。

こうだという結論だけシンプルに書こうとする心構えを持つと、起承転結パターンを崩しやすくなります。前提やご挨拶みたいなところはカットしてシンプルに書こうとすると、アタマが整理され、議論のポイントが絞れるんですね。そして、自分のやっている政策の何がポイントかよくわかるようになります。

逆に「主語と述語の対応」とかは意外と気にしなくてもほとんど問題になりません。これは話し言葉だからです。むしろ、話のリズムの中で、最も伝えたいことをどう効果的に伝えるかを考えた方がいいと私は思います。主述の対応に異常にこだわる人が時にいますが、じっと観察していると、たいてい「起承転結」の権化であることが多いですね。

慣れないうちは、なかなかポイントだけを絞って書くことができません。こういう時はひとまず長く書いて、目標の行数を決めて、どんどんそぎ落としていく作業をします。 細かく文字を削っていると、いかに贅肉が多いかよくわかります。

それでも、どうしても贅肉が多くなってしまう時は、たいていやっている事業の中身がないのをごまかそうとしている時です。無意識にでもそうなってしまいます。でも、これは読んでいても、聞いていてもすぐわかります。中身がない時は、思い切って、やってませんというのも手です。上司がそれを通す度胸があるかどうかは別にして、コトを起こすのにいいチャンスであることがよくあります。

以前に約束してできていない時は謝るしかありませんが、そもそも問題意識を持っていなくてやっていない時は、これまでそうした意識がなかったのでさっそくとりかかりたいと言った方が岐阜県にとってプラスです。質問した議員にとっても大きな成果であるはずです。実際に、私もそういう答弁案を書き、上司も賛同してくれて、議場での答弁になり、事業につながったケースがあります。

<禁句を決める>

上で書いた政策企画の課長補佐会議で申し合わせをした時に、もう一つ言ったことがあります。それは禁句を決めようと言うことでした。私は答弁には使わない方がいい禁句がいくつかあると思います。

最たる例は「いずれにいたしましても」です。この言葉は語調と整えるには誠にいい言葉ですが、よく考えてみると、「いずれにいたしましても」というのは「ここまで話してきたことはどうでもいいことですが」と言っているのと同じです。だったら、はじめから言わなければいいんです。そもそも聞いている人に失礼です。

実際によく読み返すと、この言葉を使う時は、それまで言ったことをカットしても問題がないケースがほとんどです。一発言っておきたいが、決定事項とわからないようにしたいというカモフラージュのために使うという高等作戦の時でなければ、 やめておくに越したことはありません。

「議員ご指摘のとおり」というのもあります。もともとは議員の先生をヨイショしようという意識から始まったものだろうと思いますが、議会でのやりとりを聞いている人はその話を知っているわけで、わざわざ復唱する必要は全くありません。答弁が冗長になる原因です。

「そうしたこと」といったまとめ言葉を避けることも大事です。私は「こうしたこと」「そうしたこと」でまとめるクセがあって、なかなか脱却できていませんが、これはあまりいいことではありません。聞いていると、どこの話だったかわからなくなることが多く、独りよがりな答弁になることが多いからです。

答弁の作業は大変ですが、公務員としての資質を高め、政策をブラッシュアップするためには大変いい機会だと思います。前向きに捉えて、県や自分のプラスにつなげることが大事だと思いますね。

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