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(8)「自分で詰める水」で感じる無印良品の心意気

空のボトル、税込190円。

久しぶりのシルバーウイーク。わが家は安近短で済ませています。連休3日目、イオンモール土浦にある無印良品で棚を見ていたら、思いもしないモノが売られていました。飲み物の棚にひっそりと佇んでいたのは、空のボトル。「自分で詰める水のボトル」と名付けられていました。

330mlの水が入れられるそのボトルは、さながらウイスキーのスキットル(携帯缶)を透明にしたかのよう。無印らしく、飾り気がない素朴ないでたち。イメージはこんな感じです。

無印良品では、2020年7月から一部の店舗に給水機を置き始めたとのこと。残念ながらイオンモール土浦の無印良品にはなかったものの、近くではイーアスつくばの無印良品にはあるそうなので、その日の夜に行ってみました。
※2020年9月現在、茨城県内で給水機が設置されているのはイーアスつくばの無印良品のみです。

店内で写真を撮影するわけにもいかないので掲載できませんが、給水機は店内奥にあるレジのそばにありました。無印らしく、シンプルなつくり。ありものの給水機を置くのではなく、給水機を一から作るところがさすが。早速190円払ってボトルを買い、給水機で水を入れてみました。

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程よく冷えていて、普通のお水でした。

「店舗でもらえる水」って?

専用のボトルを買って水を詰める、というこの行為。一見新しそうに見えて、実はそうではないということに後になって気づきました。大手スーパーが大型の専用ボトルを販売し水を無料または低価格で提供するサービスは、以前から行われていました。大型スーパーは主に家庭用や料理用を意図していると思われますが、今回無印良品が提供しているのは主に個人向け。なお、イオンでは2020年10月20日以降サービスを終了するようです。

https://www.waon.net/service/delicious-water_free/

今回無印良品のエコシステムがそれまでの大型スーパーと比べて斬新に見えるのは、以下の点にあると私は思いました。

(1) 個人向けに特化している
大型スーパーで配っている水は、主に家庭用・料理用を意図して大型のボトルを販売していました。今回無印良品が作ったボトルは330ml。飲んでみるとわかりますが、大人の男性がちょうど飲み切れるサイズにしているところが特徴です。

(2) 社会的な課題に訴えている
無印良品は「プラスチックごみ対策の一環として給水サービスを始める」とうたっています。

無印良品は、今回のこの商品に合わせてアプリの提供も始めています。上で紹介したサイトにも書かれていますが、アプリでは水を飲んだ量や、給水が受けられる箇所の検索ができるようになっています。飲んだ量を登録すると、削減できたCO2量などが出てきて「ちょっといいことしてる」感を出しています。

ちなみにイーアスつくばでアプリを立ち上げたところ、無印良品以外の給水場所として登録されていたのが「印旛沼公園」でした。さすがにそこまでは行けないな・・・。ここら辺は給水に応じられる自治体との連携が鍵になりそうな気がします。つくば市に提案してみようかしら。

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ただ、そもそも店舗で配る水が安全なのか?という疑問もわいてきます。これに対しウォーターサーバーを手掛けるザ・トーカイが指摘しています。

まぁ、これを言い始めたら「ウォーターサーバーも手入れを怠ったら同じことが起こるでしょ?」となりそうな気もしますが。ここら辺は好き嫌いが分かれるところかと思います。

脈々と受け継がれる無印良品のDNA

このボトルに出会って、思い出した本があります。日経ビジネス副編集長の鈴木哲也さんが書いた「セゾン」という本です。

この本には、幾多の困難を乗り越えて西武百貨店をはじめとする(今はなき)セゾングループを一代で築いた故・堤清二氏の生涯が描かれています。無印良品は、元々西友のプライベートブランドとしてスタートし、その設立には堤氏が深く深くかかわっています。この本の第一章は、無印良品。無印良品がなぜあのような世界観を作っているのか、この本を読むとよくわかります。気になる方はぜひどうぞ。

この本の中に、堤氏の無印良品に込めた思いが伝わるくだりがあります。

「無印良品とは何か?」
 1984年12月29日。西友の商品企画室ミーティングで、堤が発言した内容のメモが残っている。
 この時期は、青山出店のブームが一段落し、やや減速しはじめていた頃だ。アイテム数が拡大して、
無印良品のコンセプトが拡散しつつあった。
 そこで堤は出席者に対し、謎かけのような質問をした。

「もういっぺん、無印良品とは何かをはっきりさせる必要がある。それは、①合理化なのか、②新生活
運動なのか、③消費者の自由を確保することなのか、④ファッション・デザイン性なのか」
「それがはっきりするまで、新アイテムは追加しなくていい。コンセプトが曖昧になったら終わりで
ある」

 出席者にしばらく考えさせた後、堤はこう述べた。

「やはり、③商品者の自由の確保が中心であり、①②④は要素ではないか。無印良品は反体制商品だ。
自由の確保を忘れて消費者に商品を押し付けるようになったら、その段階で無印良品は『印』、
すなわち『ブランド』になってしまう。」

鈴木哲也. セゾン 堤清二が見た未来. 日経BP社, 2018, p.42-43.

堤氏が発言してから35年経過した今でも、無印良品はこの思いを受け継いでいるように思えるのです。

他のお店なら、おそらく「○○ボトル」とか名付けそうなものですが、「自分で詰める水のボトル」と名付けているところ。

ボトルに装飾がほぼないところ。

どこかしらの山のそばで汲んできた水ではなく、水道水にフィルターを通しただけの水を提供しているところ。

ただ単に水を売るのではなく「普段からペットボトルに頼らずに水を飲む習慣」を提案しているところ。

このいずれも、堤氏の思いに相通ずるものがあります。ただ単に安いものを揃えるだけなら他のところでもできるでしょうが、社会にきちんと向き合っているからこそ、こういった企画が社内を通過し、世に出せると思うのです。

だから「無印めぐり」はやめられません。


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