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林地残材をパーティクルボードに・永大産業(株)

木質チップ市場が大きく揺れている。製紙用、木質ボード用、燃料用とすべてのチップ需給がタイトになっているが、とくに深刻なのが木質ボード用だ。昨年秋以降、木質ボード用チップ価格は上昇を続け、現在では約3倍にまで上昇している。とりわけ、木質ボード生産量の約4〜5割のシェアを持つパーティクルボード(以下PB)メーカーの危機感は深い。チップ不足のため、稼働停止を余儀なくされるPBメーカーも出ている。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、総合建材メーカーである永大産業(株)敦賀事業所(福井県敦賀市)のパーティクルボード工場(田中修工場長)を訪れた。田中工場長と八田富夫素材課長、そして本社(大阪市)PB事業部・山田文雄主管との意見交換を通じて、国内の林地残材を視野に入れた永大産業の新しい資源活用ビジョンが明らかになる。

サーマル用チップとの競合激化、解体材不足も深刻

木質ボードとは、細かく砕いたり繊維化した木材から製造されたボードのこと。その原料となるのは、建築解体材、製材・合板工場残廃材、林地残材・小径木などである。PBメーカーは、木材リサイクルのトップランナーと言える位置づけにあり、これまで原料不足に悩むような事態はなかったのだが――。

遠藤教授
PB用チップがなぜこれほどまでに不足しているのか。

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廃材チップについて説明する山田主管(左)

山田主管
弊社のPB用チップの大部分は建築解体材などからつくる廃材チップだ。この廃材チップをさらに細かく切削してプレス成型したのがPB。だから回収されたものと同じ物質(木材)をつくれる。これをマテリアルリサイクルと呼んでいる。ところがリサイクルには、サーマルリサイクル(Thermal Recycle)といって、マテリアルリサイクル(Material Recycle)ができなかったものを燃やして、その熱を発電や暖房に利用する方法がある。実はPB用チップ不足の一因は、このサーマル用チップとの競合にある。

田中工場長
永大産業敦賀PB工場は、1年中ほぼ休みなく稼働している。敦賀周辺にはバイオマス発電施設などがないため、チップ業者(中間処理業者)はいつでも敦賀工場へ廃材チップを搬入できるというメリットがあった。そのため3年前まではチップはむしろ余り気味だった。それが2年前から急速に足りなくなった。

八田課長
ある試算によれば、チップそのものの需要は数年前に比較すると約1・2倍に増加している。今後も、約1・9倍の増加が予測されている。その中で、マテリアルリサイクル需要は約1・1倍にとどまっているのに対して、サーマルリサイクル利用は約2・2倍増の需要が見込まれている。

遠藤
石油、石炭価格の高騰で、サーマル利用向けの木材チップの需要が高まっている。政府もサーマル利用を後押ししている姿勢が窺えるし、これではますますチップ需給はタイトになる。

山田
さらに、改正建築基準法の影響がもろに出ている。新築戸数の半分が廃材になるので、新設住宅着工戸数のダウンは廃材チップ供給量に大きな影響を与える。加えて、軸組住宅の柱などのサイズが細くなっているため、解体材の出材量も減少している。

中間ランクも製紙用に、資源配分のバランス崩れる

遠藤
住宅が建たないと内装用下地材や家具用材として使われるPB製品も売れなくなる。泣きっ面に蜂だ。ところでリサイクル以外でチップ需給を引き締めている要因はあるのか。

山田
ある。製紙メーカーとの競合だ。丸太にA材(製材用)、B材(合板・集成材用)、C・D材(チップ用)という用途別区分があるが、実はC材にはさらにa、b、c、dの用途別区分がある。これまではaが製紙メーカーへ、b・cが木質ボードメーカーへ、dが燃料へ利用されていた。しかし最近では、「aに近いb」が製紙メーカーへ向けられるようになった。D材は林地残材と呼ばれ、ほとんど活用されていない。

八田
廃材チップにも3ランクある。上(柱などを原料にしたチップ)が製紙メーカーへ、中間(胴縁など下地材を原料にしたチップ)がPBへ、下(砂や粉の混じったチップ)が燃料用だ。これまではチップ工場の従業員が、釘抜きなども含め手作業で上・中間・下の仕訳をしてきた。ところが、燃料用の需給が逼迫した結果、中間の仕訳が省かれ「上」と「下」の2通りの仕訳になりつつある。これまでは「中間」チップが木質ボード用チップのベンチマーク(基準)だった。これよりも質の悪い廃材チップが入るとPBの品質が下がる。メーカーにとってはこれが心配だ。

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林地残材活用の必要性を説く田中工場長(左)と八田素材課長

遠藤
なるほど。企業間競争によってA〜D、a〜dの境界線がファジーになっているわけか。となると、新たなPB用チップを探す必要が出てくる。

木質ボード業界が未利用材の新たな受け入れ先に

森林の伐採・搬出現場では、今年の春頃からちょっとした異変が起きている。木質ボードメーカーの原材料担当者が、山に入り始めたというのだ。伐採跡地の根株、枝条、端材、未利用間伐材などを見て、「もったいないもったいない」を連発。中には、移動式チッパーを持ち込んで山元でのチップ化を試すメーカーも出始めたという。それだけ木質ボード用のチップが足りないということだ。

山田
バイオマス・ニッポン総合戦略では年間340万トン(680万m3)の林地残材が未利用とされている。木質ボード業界はこれをどうチップ化していくかを検討する時期にきた。そこで8月22日に、日本繊維板工業会は林野庁長官に「木質資源のマテリアルリサイクル優先社会の実現について」の要望書を出した。

遠藤
その要望書は、林地残材や未利用間伐材の有効利用先として、木質ボードも視野に入れてほしいという趣旨だったと聞いている。行政の縦割りから言えば、木質ボード業界は林野庁の管轄外になる。それなのに繊維板工業会の要望を長官が受け取ったのは異例のことだ。林野庁も林地残材の新規受入れ先として、木質ボード業界に期待していることの表れかもしれない。

小径木利用はPBの商品性向上につながる

八田
欧州のPB業界は、小径木を利用してきた歴史を持っている。日本のPB業界も、この原点に立ち返るべきだ。小径木は生材なので切削性もよい。PBの商品性の向上にもつながる。それに林地残材は、廃材チップの「中間」の代替に十分なれる。

遠藤
PBの品質を維持するためにも、林地残材の利用は重要な課題だ。問題は、林地残材を市場ベースでどうチップ化するかだ。一般的に、PBチップの工場着値価格は、従来は1〜3円/絶乾kgだったのが、最近では5〜10円前後(同)で推移している。ちなみに、MDFチップで10〜15円(同)、製紙用チップで17円程度(同)が相場だ。コストという視点からすれば、林地残材のPB用チップ化は現時点では難しい。

山田
できない条件を並べても問題は解決しない。当面は補助事業も取り込みながら、森林組合やチップ業者と連携するかたちで林地残材をPB用チップ化するビジネスモデルをつくりたい。

遠藤
数は少ないが林地残材集荷を視野に入れた素材生産を始めるチップ業者が出始めた。また、A材から林地残材まですべてを販売して、トータルコストの中で林地残材集荷を位置づけようとする素材生産業者もいる。

山田
林地残材が利用されれば、伐採跡地への再造林もしやすくなる。川上、川下双方にとってメリットは大きい。

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出荷を待つパーティクルボード

遠藤
これまで伐採された木材は、A材(製材用)、B材(合板・集成材用)、C材(製紙チップ用)という括りで利用されてきた。しかし今後は、D材(林地残材)の有効利用に川上・川下が連携して取り組んでいく必要がある。

山田
D材の”マテリアル”としての価値向上のためにも、永大産業は森林と木材の循環的利用を真剣に考えていきたい。

(『林政ニュース』第349号(2008(平成20)年9月24日発行)より)

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