消費者目線で不況を超える!平田・ナイス社長の展望(下)
(前回からつづく)消費者目線からの改革を続けるナイス(株)(横浜市鶴見区、平田恒一郎・代表取締役社長)は、〝未曽有の不況〞の中でも、堅調な業績を示している。住宅市場の急変に敏感に対応できる柔軟さがあるからだ。平田社長は、国産材の利用拡大についても、従来のしがらみにとらわれない発想が不可欠だと強調する。
マンション契約好調、「消費者が買える家」が基本
遠藤教授
「100年に一度」と言われている今回の不況をどうみているか。
平田社長
昨年8月頃に世界経済が崩壊するかもしれないと思い、9月5日付で社内体制を刷新し、マンション販売について強化を行った。それにより当社のマンション契約件数は、昨年の1月から8月は月平均80戸前後だったものが、9月から今年3月は150台に回復した。4月、5月も150戸、160戸を維持しており、需要はある。
1990年代初めのバブル崩壊時は、マンションが全く売れなかった。当時は、団塊の世代が住宅を取得してしまっていて、マンション契約件数が月に4戸というときもあった。それに比べ、今は団塊ジュニアが住宅取得期に入っている。もちろん格差や二極化があり、業界内の淘汰も進んでいるが、生き残ったところにはチャンスがある。まだ楽観はできないが、ビジネスの現場感覚からいうと、景気は2〜3月が底で、徐々に回復基調にあるのではないか。
遠藤
5月の新設住宅着工戸数は6万2805戸に止まり、6カ月連続で前年割れとなった。住宅供給のあり方が問われている。
平田社長「庶民のための家づくりを追求していく」
平田
いい家とは何か。極めて単純な答えになるが、それは「消費者が買える家」だ。平均的なサラリーマンが住宅ローンを組める範囲内で、できうる限り魅力的な家を提案していくことだ。そのためには徹底的なローコスト化が必要になる。また、個性のない画一的な住宅ではなく、セミオーダー型の家づくりが求められる。当社の一戸建て住宅では、ドアの色も床の色も3種類ずつ用意して、消費者に選んでいただいている。
「耐震博覧会」に延べ50万人、家を「凶器」にするな!
遠藤
木材市売会社として発足したナイス(株)は、ビジネス領域を拡大する一方で、国産材の取り扱いシェアが相対的に低下し、現在は20%程度と聞いている。今後、国産材の取扱量を増やしていくための課題は何か。
平田
すでに述べたように、住宅の構造躯体に使われる木材は、大壁の中に隠れるのでスギの集成材で十分だ。一方、国産材の色艶や香りなどを活かすには、内装材の需要を開拓すべきだろう。そのためには、発想の転換が求められる。例えば、2×4住宅でも国産材の大黒柱があっていい。構造材ではなく、意匠としての付け柱でいいから大黒柱を使う。そのような家を望む消費者がいる。また、店舗の内装に国産材を活用することも重要だ。最近は居酒屋に行っても、木材をうまく使っている実例に出会う。こうした取り組みを木材業界はもっと見習った方がいい。業界内だけで考えるのではなく、異業種とのコラボレーションが重要だ。内装に関しては、インテリアコーディネーターとの連携が不可欠になっている。
遠藤
ナイスが平成14年から開催を続けている「住まいの耐震博覧会(「ナイスわくわくフェア」を改称)」には、毎回多くの消費者が訪れている。来場者の反応はどうか。
「住まいの耐震博覧会」では、構造材やフローリング材、家具材など、あらゆる木材が一斉に展示される。
平田
今年は8月8・9日に、東京ビッグサイトで開催する。リピーターも多く、これまでに延べ50万人が訪れている。今回も内装材や壁材、銘木など様々な木材を展示し、見て・触れてもらうことにしている。最近は「国産材コーナー」も拡充しており、来場者は一様に木はいいと言う。
遠藤
単なる企業フェアではなく、住宅の耐震性向上をメインテーマに掲げ続けているところがユニークだ。
平田
平成7年の阪神・淡路大震災では、地震後5分以内に建物の下敷きになって亡くなった方が多かった。また、19年の中越沖地震では、道路を歩いている女性が建物の倒壊によって亡くなられた。このような不幸を二度と繰り返してはならない。
全国に約4700万戸ある住宅のうち、約1150万戸は昭和56年の「新耐震基準」以前に建てられた既存不適格住宅とされている。阪神・淡路大震災級の地震が起きたら、倒壊する危険性が高い。私たちの命を守るための「家」が「凶器」になるような事態は、早急に改めなければならない。
プロのレベル低下に懸念、木材のよさに甘えすぎるな
遠藤
国産材による家づくりを支えるのは、地元の大工・工務店だ。ナイスは、彼らのサポートビジネスも行っているが。
平田
地元の大工さんや職方さんが、やりがいや生きがいを感じられる仕事づくりを心がけている。今、最も懸念しているのは、現場の技術力や施工に対する責任感が低下していることだ。本物のプロといえる親方や工務店の社長がいても、営業や業界のつきあいなどに追われ、現場に足が向かない。そして、経験の浅い職人で大半の作業が行われている。
一方で、大工・工務店の技術力を必要としない住宅工法が出てきた。スケルトンをフレーマーが建て、内装業者が入れば家ができる時代になった。ローコスト住宅が普及している背景には、施工の合理化などが急速に進んでいることがある。
こうした中で、地元の大工・工務店にどう力をつけてもらうかが大きな課題だ。技術力のある親方・社長には、頻繁に現場に行っていただきたい。消費者もそれを望んでいる。
木材は、素晴らしい材料だ。だが、それに甘えて生産も流通も改革が足りなかった。木材のよさをもっと研究して、プロとしての提案力を高めていかなければならない。日本の林業と、木造住宅をよくするという思いのある人達で力を合わせるときが来ている。
『林政ニュース』第369号(2009(平成21)年7月22日発行)より
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