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ヒノキへの原料転換進める新栄合板工業(株)

ロシアの針葉樹丸太輸出に対する80%課税のニュースは、日本の合板業界に大きな衝撃を与えている。業界の一部には、他の外材利用への転換を検討したり、ロシア極東に単板工場を開設することを考え始めたメーカーもある。今後、この問題はどう展開していくのか。また、ロシア材に頼らないオール国産針葉樹合板の可能性はあるのか。現場の生の声を探るべく、遠藤日雄・鹿児島大学教授が新栄合板工業(株)(松元孝守・代表取締役社長、熊本県水俣市、以下「新栄合板」と略称)を訪ねた。 

ロシア材80%課税の影響深刻、代替材の有力候補は?

  新栄合板は、九州唯一の合板メーカーだ。主として南洋材と北洋材を原料に型枠用合板と構造用合板を製造してきたが、6年前からスギを使い出した。昨年度の丸太消費量は24万㎥、うち北洋カラマツが65%、スギが32%、残りは南洋材。今年のスギ消費量は10万㎥を見込んでいる。 

遠藤教授 
  ロシアは、早ければ2009年から課税するという。 

松元社長 
  かつて、インドネシアでみられた資源ナショナリズムの再燃だ。工業化によって国力アップを図りたいのだろう。今後、外国との合弁による単板製造工場の開設などが考えられる。

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丸太の説明をする松元社長(右) 

遠藤 
  かりに80%の課税が実現したらどうなるか。現在、北洋カラマツの水俣港着値は㎥当たり150ドル前後、これが80%課税になると210ドル程度になる。メーカーとしてどうするか。 

松元 
  アップ分は合板価格にオンせざるをえないが、問題は市場がそれを受け入れてくれるかどうかだ。 

遠藤 
  OSBなど合板以外の木質ボードとの競争も激しくなる。 

松元 
  そのとおり。事実、昨年、合板価格の高騰によってOSBが輸入された。私たちは木質ボードの市場で、品質がよく価格がリーズナブルな商品を提供できないとやっていけない。 

遠藤 
  となると、北洋カラマツに代わる樹種を探すことが課題になる。一部の合板メーカーでは、米マツを剥き始めたと聞いている。 

松元 
  樹種そのものはたくさんある。ラジアータパイン、米マツ、ポプラ、ユーカリ、アカシアマンギューム、カメレレなど。しかし問題は、価格と強度と供給力だ。市場で認知してもらえる兼ね合いの中で、これらの樹種をいかにまぶして合板をつくるかが課題だ。 

北洋カラマツあってのスギ、強度問題が悩み 

  新栄合板では、合板用スギB材をいくつかの事業体から仕入れている。購入している丸太は、末口径16㎝以上で長さは2m及び4mとしているが4mが圧倒的に多い。その4m材の工場着値は1万500〜1万1500円、2m材は7000円だ(いずれも㎥)。 

遠藤 
  昨年の合板用スギ丸太の消費量は114万㎥といわれている。今後さらに増加し、300万㎥になるとも予想されている。かりに、北洋カラマツとスギが半々になった場合、現在のスギの工場着値は安いと思うがどうか。ちなみに、米マツは2万1000円、北洋カラマツは2万2000円、ラジアータパインは2万円(いずれも㎥)が最近の外材相場だ。 

松元 
  ちょっと待ってくれ。合板原料としてのスギは、北洋カラマツあってのスギだということを忘れないでほしい。 

遠藤 
  どういう意味か。 

松元 
  構造用合板にスギを使う場合、強度を担保するために、表板(フェイスとバック)には北洋カラマツを使わざるをえない。強度的に、スギは「アンコ」の役割しか果たせないのが現状だ。一定の強度を満たすスギが90%以上安定的に供給できるという条件があれば話は別だが。 

遠藤 
  現在、その問題に関するJASの議論がされていると聞いている。改正次第ではスギの比率が増えるのではと期待している。それはさておき、では北洋カラマツに代わる国産材はあるのか。 

松元 
  ある。国産マツ類とヒノキだ。九州にはマツ類はないからヒノキだ。

ヒノキに十分な可能性、効率的集荷システム構築を 

  松元社長は、遠藤教授を丸太置場と合板工場へと案内した。丸太置場には大量のスギがストックされているが、その一角にヒノキの丸太が積まれている。曲り材が多い。 

遠藤 
  合板原料としてのヒノキはどうか。 

松元 
  今年に入って使い始めたが悪くはない。6月は400㎥を使った。北洋カラマツの代替材として、十分可能性はある。 

遠藤 
  使い勝手はどうか。 

松元 
  単板の乾燥過程で発生する臭いは異常だ。耐え切れないほどだ(笑)。乾燥の温度を下げるなどの工夫をしている。 

遠藤 
  最近のヒノキの値段をみると、スギよりも安いケースが出てきてる。水俣近辺の森林組合系統共販所の6月の2回市では、ヒノキがスギより安かった。森林所有者にしてみれば、昭和50年代中頃までのヒノキ役物全盛期が忘れられないだろうが、もうそんな夢は捨てたほうがいい。ヒノキがムクで生き延びる道は土台角ぐらいしかない。となれば、新たに浮上してきた合板原料としてのヒノキを世に出す方法を真剣に考えるべきだろう。 

松元 
  ヒノキは安定供給がスギより難しい。資源分布も局地的だ。九州では、鹿児島県北、熊本県球磨地域、長崎県と佐賀県の一部。これを量的にまとめて供給できる物流システムの構築が必要だ。 
  合板メーカーや集成材メーカーの近くの山を優先して伐採するのではなく、遠隔地からも出材できる仕組みがいる。遠い分、輸送コストがかかるが、そこに補助金を充てるなど、支援措置を講じていくべきではないか。

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ヒノキの単板

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現在、国内の針葉樹の蓄積量は、スギ10億8700万㎥、ヒノキ3億8700万㎥、マツ類3億1900万㎥となっている。このうち、ヒノキとマツ類を表板に使えば、オール国産材の針葉樹合板の製造が可能になる。新栄合板の取り組みは、その可能性が強いことを示している。

『林政ニュース』第322号(2007(平成19)年8月8日発行)より)

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