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国産材を安定集荷・住友林業フォレストサービス

今年6月に本社を愛媛県新居浜市から東京に移した住友林業フォレストサービス(株)(作田公一・代表取締役社長)が、国産材原木流通の担い手として存在感を発揮し始めた。同社は、今年4月に親会社である住友林業(株)の国産材製品販売部門を引き継ぎ、山林の管理から製品の加工・販売まで、事業分野を一気に拡大。住友林業グループの中核企業として、地歩を固めつつある。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授が作田社長を訪れ、新たな国産材ビジネスの可能性と事業戦略を聞いた。

山のノウハウ・人材に強み、差別化の中核は森林企画部

住友林業フォレストサービスは、昭和55年に四国林業(株)として発足。住友林業の社有林(四国・九州・北海道)管理のサポートと、社有林から生産される木材の取り扱いや、造林・伐採作業の請負を主たる業務としてきた。現社名に変更したのは、平成5年。これを機に、国産材ビジネスの拡大に踏み出している。

遠藤教授
いわゆる商社が国産材の流通に参入するケースが増えている。新しいビジネスチャンスととらえているのか。

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作田公一・住友林業フォレストサービス(株)社長

作田社長
当社はもともと住友林業の山林部が行う社有林の管理を補完することを目的につくられた会社であり、山林事業に関するノウハウや人材の蓄積がある。残念ながら山林事業は長い間苦しい経営状況が続き、縮小均衡の状態だったが、ようやく国産材ビジネスを前に進める時期が来た。
我々の強みは、原木の集荷力にあると自負している。これを「住友林業の家」づくりにまでつなげて、川上から川下まで一貫した国産材の流通・販売体制を構築したい。それをベースにして生み出された利益を、いかに山に還元していくかが課題だ。

遠藤
今年6月の本社移転など、社内体制の見直しを進めているようだが。

作田
従来の営林部を「森林企画部」に改称し、山林管理と原木販売を担う新しいセクションにした。山に近いところで、新しいビジネスを立ち上げる企画部隊という位置づけだ。「新生産システム」の四国モデル地域についても、この森林企画部が担当しているし、林地残材の有効活用を図る「木質資源利用ニュービジネス創出モデル実証事業」にも参画している。

10万m3ずつ増え50万m3集荷へ、立木買いはしない

遠藤
国産材原木の集荷状況について聞きたい。

作田
集荷量が伸び始めたのは、最近のことだ。3年前は16万m3だったが、2年前は26万m3、昨年は36万m3と10万m3ずつ増えてきた。今年は50万m3を目指している。

遠藤
スギ生産量日本一の宮崎県森連の原木取扱量は、昨年で41万m3だ。それを上回る集荷力とはすごい。急速に取扱量が伸びた要因は何か。

作田
最大の要因は、合板用にスギが使われ始めたことだ。従来からの製材用原木に加えて、合板用原木の集荷活動に力を入れ始めたことにより、取扱量が飛躍的に伸びた。例えば、徳島県にある住友林業クレスト(株)、小松島事業所(第346号参照)の合板用原木集荷は、すべて当社が窓口になっている。小松島事業所での国産材利用量が増えるのに伴って、当社の集荷量も増えている。今年の5月からは、月間ペースでスギを1万m3、ヒノキを1000〜2000m3納めている。また、セイホクグループを中心に全国の合板メーカーにも国産材原木を納入している。これが小松島事業所に匹敵する量になってきている。

遠藤
原木は素材生産業者から購入しているのか。

作田
そうだ。原則として、立木買いはしない。素材生産業者に工場着の値段を示し、直送してもらうか、中間土場へ出荷してもらっている。原木市場で買うケースもあるが、その割合は減少している。

国産材の世界に足場のない商社の参入は難しい

遠藤
国産材原木の大量集荷を進める上で、どのような難しさがあるか。また、外材を扱ってきた商社が国産材流通に参入できる余地はあるか。

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作田
当社の東京事業部が東日本で原木の集荷活動を行っているが、最初の1年間はまったく扱えなかった。北海道・四国・九州の各事業所は、住友林業の社有林とかかわっていたこともあり、地域の森林組合や素材生産業者とのつながりがあった。しかし、そうした下地のないところで、いきなり原木集荷を始めるのは難しい。王子木材緑化(株)や日本製紙木材(株)、物林(株)(旧・三井物産林業(株))など、国産材の世界に足場のある会社は別として、一般的な商社が国産材原木の集荷活動で機能できるかというと簡単にはいかないだろう。高い値段を提示して1回・2回は原木を集められるかもしれないが、安定的な取引にはならない。
素材生産業者から原木を集めるのにはどういうアプローチや提案が必要なのか、また、集めた原木をどこに販売すれば山元に利益が還元できるのか。そうしたところを、先ほど述べた「森林企画部」が担い、素材生産業者や山林所有者、森林組合や行政などとの共同事業、共同活動を展開していくことにしている。

量と価格の安定へ、リスクは引き受ける

作田氏が住友林業フォレストサービスの社長に就任したのは、平成17年のこと。それまでは、一貫して米材の輸入業務に携わってきた。その作田社長の目に、国産材業界はどのように映っているのか。

遠藤
改めて国産材と外材の違いは何か。

作田
よく言われることだが、国産材は量をまとめると高くなる。外材は量が増えるとディスカウントがある。この違いは大きい。要するに、国産材は安定供給する仕組みがなかった。だから、大型で効率的な製材工場が成り立ちにくかった。
ただし、国内森林資源の充実もあって、ここにきて大型製材工場が増えてきた。さらに、合板という新しいマーケットができた。原木を出す方と使う方の規模が見合ってきた中で、当社の役割を発揮していけるのではないかと考えている。

遠藤
これまで国産材の価格形成機能は原木市場や製品市場が担ってきた。しかし、大量かつ直送の流通が主流になると、価格の取り決めはどうなるのか。

作田
安定供給を実現するためには、当社のようなところがリスクをとるべきだろう。例えば、昨年7月から、高知県香美市の中間土場で原木集荷を本格化させているが、ここでは仕入先にも売り先に対しても、当社がまず価格と量を示し、3カ月単位で契約していただいている。かりに原木を集荷できなければ、赤字になってでもかき集めて約束を果たすという覚悟だ。価格と量をあらかじめ保証しておけば、伐採事業の採算性がはっきりするし、立木を買う際の目安にもなる。製材工場や合板メーカーにしても、原木の手当てで頭を悩ます必要はなくなる。現在、この中間土場では、月に4000〜5000m3集荷していて、その4〜5割は小松島事業所向けだ。大口の販売先があることにより、当社としてもリスクを背負えるようになっている。

原木価格に一喜一憂せず、トータルメリットを追求

遠藤
そこまでリスクを背負って、メリットはあるか。

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作田社長「売り手と買い手のトータルメリットを追求する」

作田
目先の相場に左右されない安定集荷・安定供給を実現するためには必要だ。原木の値段が上がった下がったと一喜一憂していたのでは、計画的なビジネスはできない。国産材は安定供給できないという欠点をなくせば、トータルとしてのメリットが出てくる。それを山に還元して、資源の循環利用を実現していくことだ。
これも森林企画部が担当しているが、伐採から再植林、育林まで丸ごと引き受ける実験的な事業を行うことにしている。なぜ循環利用が難しいのか、自分達でやってみることで確かなデータを掴みたい。それを根拠に、有効な再資源化対策を打ち出すことにしている。

(『林政ニュース』第350号(2008(平成20)年10月8日発行)より)

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