見出し画像

消費者目線で不況を超える!平田・ナイス社長の展望(上)

全国16カ所に木材市場を有し、年間の木材総取扱材積が100万m3に達するナイス(株)(本社=横浜市鶴見区)。国内最大手の木材市場経営企業として業界をリードしながら、住宅資材の販売や工務店の経営支援、マンション・一戸建て住宅分譲、不動産仲介などにもウイングを広げ、業容を広げている。そのナイスが、改めて国産材の利用に力を入れ始めた。狙いは何か--。ナイスと持株会社・すてきナイスグループ(株)の社長をつとめる平田恒一郎・代表取締役社長を遠藤日雄・鹿児島大学教授が訪ね、「100年に一度の不況」の先にある、新たな住宅・木材マーケットの姿を展望した。消費者目線を貫徹する平田社長の〝先見力〞から、業界改革の方向が見えてくる。

「革命は辺境から」、関東初の市売りが世に問うたこと

木材業界ではよく知られているように、ナイスの起源は、昭和25年7月に関東で初めて木材市売市場を開設した市売木材(株)に遡る。「市売り不毛の地」と言われていた関東で、国鉄(当時)鶴見駅構内を借りて市売りを行うという革新性は、業界関係者の驚きと共感を呼び、以降、燎原の火のように、市売市場が全国にできていった。
その中で、市売木材は社名変更を伴いながら事業範囲を拡大(表参照)。現在は、ナイスを中核とし、住まいづくり全般をサポートする企業グループを形成している。

画像1

遠藤教授
関東初の市売りは、安い手数料と公開入札という非常に斬新な手法で行われた。

平田社長
当時の木材取引の中心地は木場であり、相対で売買が行われていた。要するに、買い手の顔を見て、木材の値が付けられていた。これに対し、市売市場は公開で木材を競りにかけ、一番高い値をつけた業者が落札するという極めてオープンなシステムをとった。これが支持された。「革命は辺境から起きる」というが、木場ではできないことが、鶴見でできたわけだ。

遠藤
その頃、大阪でも市売りが行われていたが、関西系の木材業者が関東に進出するという動きはなかったのか。

画像2

平田恒一郎・ナイス(株)代表取締役社長

平田
市売木材の社長をつとめた父(平田周次・ナイス名誉会長)に聞いても、創業時に関西の市売りをとくに勉強したということはなかったようだ。むしろ、若い連中が集まって、木材流通の変革をやろうという意欲が、関東初の市売市場に結実したのだろう。

「市売商報」の革新性を継承、変化への対応力が鍵

遠藤
ナイスの社風からは、前例にとらわれない革新性が強く感じられる。それは、市売木材のDNAを受け継いでいるからか。

平田
市売木材は、オープンな木材取引のビジネスモデルをつくっただけでなく、情報面でも画期的な仕事をした。それは、「市売商報」を発行したことだ。これはガリ版刷りで、ワラ半紙1枚に通信文と市況概況、そして価格表を載せるという簡単なものだったが、競りが終わったらすぐに、ダイレクトメールで関係者に送った。当時の木材取引はクローズドで、相場などはなかなか掴めなかったが、価格も含めて情報をすべてオープンにした。「市売商報」は昭和26年に第3種郵便物の認可を受け、現在では、タブロイド版4ページの「ナイスビジネスレポート」として、全国の取引先など約1万1000社に配布している。
また、市売市場が手形の取り扱いや支払いなど、金融機能を持つようになったことも大きな変革だった。

遠藤
時代の変化、ニーズの変化をキャッチする力がずば抜けている。

平田
要は、常に消費者目線に立つということだ。当社の経営理念は、「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指します」であり、これがブレることはない。
同じ業界で長くやっていると、だんだんと従来のビジネスを守ることが第一になってしまう。その点、当社は市売市場が本業でスタートしたのだが、本業の枠内にこだわらず、最もビジネスを広げており、多様化している会社になっている。それは、消費者の立場で自分達がやっていることを見直し続けてきたからだ。
市売市場というものは、基本的に需要が供給よりも多かった時代に成り立つビジネスだ。それが、外材が大量に輸入されるようになり、需給バランスが変わった。マーケットも様変わりした。住宅着工戸数は増えても、家のつくり方が変わったため、既存の木材流通では対応できなくなった。その結果、木材自給率が20%台に低迷し、日本林業が疲弊することになった。時代の変化に対応するためには、もう一度消費者視点に戻らなければならない。

石破農相に、国産材の利用促進を提言

ナイスとグループ会社の木と住まい総合研究所(株)(日暮清・代表取締役社長)は6月12日、連名で石破茂農林水産大臣に提言書を提出した。タイトルは「木造住宅における国産材利用の推進に向けて」。自民・公明の与党両党が議員立法で今国会中の成立を目指している「地球温暖化の防止等に貢献する木材利用の推進に関する法律案(木材利用推進法案)」の法制化にあたって、表のような施策を講じるよう要望した。併せて、国産材の利用を進めるためには、品質・性能の保証された良質乾燥材が不可欠であること、「○○県産材」というブランド化が国産材利用の拡大を阻む側面があること、住宅と木材に関する行政の縦割りを排除すべきことなどを求めている。

画像3

遠藤
「○○県産材というこだわりをなくせ」という主張は、国産材需要拡大の核心を突いた論点だ。

平田
政府が実施している世論調査の結果をみても、木造住宅に住みたいという消費者ニーズは強く、3人に1人が国産材が使われていることを重視すると回答している。したがって、国産材でいい家を、できるだけ安く建てられるようにすることが基本だ。そのときに、地産地消を意識することは重要だが、必要以上に「○○県産材」にこだわりすぎると、いい家をつくるという目的からみて、かえって足枷になることがある。国産材というオールジャパンの捉え方でいいのではないか。
当社が木材市場を全国展開した最大の理由は、いい材をより安く入手できるようにすることが、消費者のメリットになるからだ。例えば、当社が福岡に木材市場を開設したことで、秋田からスギの良材がもたらされるようになり、価格も購入しやすいものになった。

遠藤
確かに、ナイスの福岡市場で秋田産の割角が買えるようになったのは、1つの流通革命だった。

見映えより品質・性能、国産集成材は有望

平田
新しい試みをすると、それまで権益を持っていた人にとっては、商売の土台が崩れていくことになる。当然、抵抗もある。関東初の市売市場を開設したときもそうだった。しかし、世の中はどんどん変わっていくから、固定観念にとらわれず、頭を柔らかくしておかなければならない。例えば、みんなが靴をはくようになって、下駄屋も足袋屋もなくなった。消費者の生活スタイルがどう変わっていくのか、その中で国産材をどう活かしていくかを考えなければならない。
今、選ばれている家は、ほとんどが大壁造りだ。柱などの構造材は、壁の中に入ってしまうから、見ることができない。したがって、見映えよりは品質・性能が優先されるので、構造計算のできる集成材が求められるようになる。こうしたニーズにマッチした国産集成材は伸びるだろう。私自身は林場で育ち、木の香りが大好きだが、現代の家づくりを消費者の立場から考えれば、集成材などのエンジニアード・ウッドが不可欠になってくる。

(『林政ニュース』第367号(2009(平成21)年7月8日発行)より)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?