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不況を克服し新成長過程へ 古河林業と「三木」・上

長引くデフレ不況で、廃業・減産に追い込まれる企業が少なくない中、いち早く低迷期から抜け出そうとする建築・木材会社が出てきた。「国産材100%住宅」を建築している古河林業(株)(東京都千代田区、古河久純・取締役社長)と、同社にスギ集成材などを供給している三陸木材高次加工協同組合(岩手県住田町、中川信夫・代表理事、以下「三木」と略)が好業績を続けている。その背景にあるものは何か――遠藤日雄・鹿児島大学教授が、苦境打開の糸口を見つけ出す。

昨年は10%の伸び、長期優良が追い風――古河林業

2月18日、遠藤教授は中川理事長とともに、東京・丸の内にある古河林業のギャラリー(ショールーム)を訪れた。東京駅近くの一等地にあり、周囲には有名ブランド店が立ち並ぶ。その中に、純国産木造住宅の窓口があるのだから、存在感は抜群だ。遠藤・中川両氏を出迎えた古河社長は、最近の消費者ニーズの変化について話し始めた。

遠藤教授
昨年の新設住宅着工戸数が80万戸割れするなど、需要回復の兆しが見えない。ところが、「古河林業の家」は、建築実績が伸びていると聞いた。現状はどうなのか。

古河社長
昨年の前半は前年実績を下回る水準だった。だが、6月頃から注文が増え始め、11月の受注数は53棟になった。弊社の年間建築棟数は260前後なので、ひと月で50棟以上の受注というのは際立った伸びといえる。結局、昨年トータルでは前年比約10%増の建築棟数となった。今年は、300棟程度を建築する計画だ。

遠藤
何がプラス要因になったのか。

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古河久純・古河林業社長

古河
「国産材100%住宅」を求める消費者が確実に増えている。とくに、昨年6月に長期優良住宅普及促進法が施行され、耐久性の高い住宅の認定基準が定められたことが追い風になっている。

弊社の住宅は「オール4寸柱」にしているが、これが長期優良住宅の基準にそのまま該当した。維持管理の基準にも若干の修正を加えただけで対応でき、「古河林業の家」イコール長期優良住宅と認められたことが大きい。「次世代省エネルギー基準断熱」も標準装備しており、品質の高さを消費者に訴えやすくなったことが、受注の増加につながったのだろう。

遠藤
平成11年の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)施行などで、住宅部材の強度性能に対するチェックが厳しくなった。一般的に、国産材を使うことは難しくなったとされているが。

古河
もともと弊社は国産ムクの役物を使った純和風の家を建てていた。だが、品確法の影響などでグリーン材(未乾燥材)が使いづらくなり、一時は外材を使用していた。しかし、外材を使った量産型住宅では大手メーカーとの競合に巻き込まれるだけだ。何とか国産材でやれないかと考えたときに、「三木」がスギの集成材をつくり始めたことを知り、採用した。国産材に戻すにあたって、柱を3・5寸(10・5㎝角)から4寸(12㎝角)にして差別化を図った。

2度の危機を克服し黒字転換・フル操業――「三木」

スギ集成材生産の先駆けとして知られる「三木」は、平成10年に発足。岩手県・気仙地方の林業・木材産業を支える中核工場として稼働しているが、これまでの道のりは平坦ではなかった。操業1年後には早くも経営危機に陥り、中川氏が理事長に就任して立て直しを図った。そして操業が軌道に乗り、中川氏が理事長職を退任してから5年後の平成19年、ラミナ生産を行っている協同組合さんりくランバー(住田町)とともに再び経営危機に直面(第344号参照)。中川氏が理事長に復帰して、再生に取り組んでいる。

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中川信夫・三陸木材高次加工協同組合理事長

遠藤
「三木」は、破綻危機に2回も見舞われたが、現在の経営状況はどうか。

中川理事長
住田町からの支援もあり、おかげさまで20年度、21年度とも黒字決算を計上できた。今年度も受注に応えきれない状況で、1月からは2シフト半のフル操業を続けている。2月の製品出荷量は約2200m3で、3月も同レベルの注文をいただいている。

遠藤
好調の原因は何か。

中川
住宅メーカーの国産材シフトがはっきりしてきた。当組合の有力取引先で、古河林業と同じくスギ集成材と4寸柱を採用しているスモリ工業(株)(宮城県仙台市、第370371号参照)も前年を上回る建築実績となっている。やはり、長期優良住宅制度の影響で、構造のしっかりした国産材住宅が選ばれている。

住宅部材の集成材化加速、政権交代はチャンス

遠藤
スギ集成材の評価も高まっているのか。

中川
そうだ。すでに国内で建てられる住宅に使われる柱の75%は集成材になっている。非構造材である間柱もフィンガー・ジョイント(FJ)のスギ集成材が一般的になってきた。国産材化率が7割に達している住友林業(株)(第382383号参照)は、根太や大引も集成材にしようとしている。

遠藤
今のデフレ不況を克服するためには、何が必要か。

中川
住宅メーカーの「国産材シフト」という新しいニーズを確実に掴むことだ。国産材業界は、安定供給で応えなければならない。そのためには、山元に利益を還元できるコストダウンと適正な材価の設定が不可欠だ。国産材がプライスリーダーになれる戦略を描かなければならない。

古河
政権交代による混乱やとまどいがみられるが、新たなスタートを切るいい機会ともいえる。既存のシステムやしがらみが障害になって先送りにされてきた課題に取り組むチャンスが来ている。国産材の需要拡大へ、今こそ実行のときだ。(次回へつづく)

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古河林業の「和モダン」の家、外観にはスギのムク材を大胆に使用している。

(『林政ニュース』第384号(2010(平成22)年3月10日発行)より


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