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長期優良先導モデルで地域材を活用、三井ホーム

大手2×4住宅メーカーの三井ホーム(株)(東京都新宿区、生江隆之・代表取締役社長)が国産材の利用に乗り出している。昨年度の長期優良住宅先導的モデル事業に「地域材を使用した枠組工法住宅」が採択され、地産地消を打ち出した家づくりを展開している。その背景には何があるのか。遠藤日雄・鹿児島大学教授が同社を訪ねた。

国産材利用へ試行錯誤重ねる、物理的性能を重視

三井ホームは、平成5年の赤井士郎社長時代に、国産材でモデルハウスを建設した。当時は、米材の価格高騰で、代替材の活用が模索され、その有力候補として国産材が採用されたのだ。だが、〝2×4部材の国産材化〞は、目を引くような広がりをみせず、17年がすぎた。ところが、最近になって、2×4住宅メーカーが相次いで国産材を使い始めるという状況変化が生じている。

遠藤教授を出迎えた三井ホームの坂部芳平・技術研究所長は、これまでの取り組み経緯から説明を始めた。

遠藤教授
平成5年からこれまでの間、〝2×4部材の国産材化〞は空白期間だったとみていいか。

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坂部芳平・三井ホーム技術研究所長

坂部所長
いや、この表をみてもらいたい。国産材を本格的に使用するための試験は、継続的に行ってきた。とくに、平成10〜13年には、北海道産ランバーを広めようと取り組んだ。だが、ねじれが出るなどの問題があった。これまでは、試行錯誤の積み重ねだった。

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遠藤
これまでの経験を踏まえて、国産材を使う上で最も重視することは何か。

坂部
強度、耐久性といった物理的な性能だ。見た目の美しさよりも、まず安全で安心して住める家を保証できる部材ということが優先される。そのためには、乾燥が一番のポイントになる。一口に国産材というが、地域によって材の性質は異なる。その違いを踏まえた乾燥ノウハウが確立されていれば、2×4部材として利用できる。北米産のSPFが使われているのは、価格の安さもあるが、性能面での安定性が優れているからだ。

北海道・長野・四国・鹿児島で地域色を打ち出す

遠藤
三井ホームが長期優良住宅先導的モデル事業で進めている国産材の利用状況について教えてほしい。

坂部
弊社のグループ各社共通の提案として、縦枠材(スタッド)に地場のムク材あるいは構造用集成材を、また一部の地域では国産材だけでつくられた構造用合板を使用している。

遠藤
具体的にはどのような家づくりになっているのか。

坂部
三井ホーム北海道では、お客様自身が参加し体験する「道産林体感ツアー」を行っているほか、北海道の気候風土にあった建物仕様として、外部耐力壁には断面積の大きな部材を使用している。

長野中央ホームでは、お引渡し済みの5000棟のお客様に向けて、全社員で「つながる会」の活動を継続し、メンテナンスへの理解度を深めている。(財)建築環境・省エネルギー機構による「環境共生住宅」も提案し、敷地の緑化や室内環境の向上を進めている。

また、例年、水不足が発生する香川県・愛媛県では、新四国ホーム・四国中央ホームが、渇水時でも雨水・全館空調機からの結露水を利用して庭木への散水等ができるシステムを導入している。三井ホーム鹿児島では、構造材に地域材を使用するだけでなく、地元の竹炭・シラス(火山灰土)を主原料とした建材を使用している。

遠藤
それぞれユニークだ。地域特性の強い家づくりを心がけているのか。

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三井ホームが使用しているカラマツ集成材

坂部
弊社は「暮らし継がれる家」を基本コンセプトに、地産地消を進めている。単に国産材を使うというだけでなく、地域の材料と生活文化を組み合わせた住まい、あるいは暮らしを提案することが重要だ。例えば、四国では、200年は変色・風化しないといわれる「庵治石」を表札や照明などに使用し、長く住み継ぐシンボルとしている。

国産材も外材も同じ競争条件、地産地消が鍵になる

昨年の2×4住宅の建築数は10万戸を割り込んだものの、住宅市場でのシェアは着実に高まっている。不況と少子高齢化という逆風が吹く中で、日本を代表する住宅会社は、どのようなマーケット戦略を描いているのか。三井ホーム広報グループ長の仮屋茂樹氏が、見通しを語る。

遠藤
リーマン・ショックから長い調整期間を経て、東京・首都圏を中心に戸建て住宅に回復の兆しが見え始めてきた。今後の住宅着工の予測、その中での2×4住宅の位置づけについて聞きたい。

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仮屋茂樹・三井ホーム広報グループ長

仮屋広報グループ長
今年の新設住宅着工戸数は、80万戸に回復するとみている。おかげさまで、2×4住宅のシェアはずっと右肩上がりで上昇しており、昨年は約12%と過去最高になった。2×4住宅の性能面のよさや合理性が認知されてきていると考えている。

公共建築物木材利用法が成立するなど、木を使うことにはフォローの風が吹いている。事業環境は厳しいが、決して悲観はしていない。期待感の方が大きい。

遠藤
そこで、改めて聞きたい。国産材を使うということは、2×4住宅メーカーにとって〝売り〞になるか。

坂部
我々がまず考えるべきことは、お客様の生命と資産を守る家づくりをすること。それを担保できる構造部材を選択するということであり、その1つに国産材がある。
もっと正確に言うと、国産材というよりは地域材という捉え方だ。住宅部材の選択は、グローバルな視点で行っている。SPFもラジアータパインもホワイトスプルースも、弊社の家づくりに適しているものがあれば採用する。日本の地域材である国産材も同じ土俵に乗っているということだ。

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遠藤日雄・鹿児島大学教授

遠藤
開かれた競争条件の中で、国産材が使われるように努力すべきということか。そのために、最優先で取り組むべきことは何か。

坂部
性能の確かな国産材部材を、安定的に供給できるようにすることだ。とくに、デリバリーの問題が大きい。そのためには、地域の材を地域で加工して、地域で使うという地産地消が重要だ。遠距離輸送はエネルギーもコストも掛かり増しになる。〝地域内の循環〞が、キーワードになるだろう。

(『林政ニュース』第389号(2010(平成22)年5月26日発行)より


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