見出し画像

プレカットNO1の偉容と先進 ポラテック滋賀工場・上

サブプライム証券化問題に端を発した世界的な金融恐慌が、日本経済の先行き不透明感を増幅させている。自動車など外需依存型産業が未曽有の苦境に喘ぐ中、住宅を中心とした内需の拡大に景気回復の期待がかかる。層の厚い団塊ジュニアが、これから住宅取得適齢期に入ることも好材料だ。ただし、現実は甘くない。住宅・木材業界を牽引するプレカット業界は再編淘汰の真っ直中。生き残りを賭けた熾烈な企業間競争を繰り広げている。
では、トップランナーの企業は、どのような事業戦略を描いているのか――この答えを求めて、遠藤日雄・鹿児島大学教授は、滋賀県琵琶湖環境部の中村喜一・森林政策課長を誘い、プレカット業界№1のポラテック(株)(中内晃次郎社長、埼玉県越谷市)が経営する滋賀工場(中根慎治工場長、滋賀県甲賀市)を訪れた。2人を出迎えたのは、同社の北大路康信・取締役プレカット事業部長。同氏は、木材を手がけて世界中を駆けめぐってきたコスモポリタン。加えて、明晰な分析力は住宅・木材業界でも群を抜く。その北大路部長から、新たな国産材ビジネスの構想が明かされる。

関西・中部市場の中心に2万5千坪/月の大型拠点

「ロハスフィールド」と呼ばれるポラテックの滋賀工場は、平成18年10月に稼働を開始した。木材プレカット分野で生産量日本一を誇る同社が、関西・中部市場に進出する拠点として新設した大型工場だ。甲賀西工業団地にある同工場の面積は8000坪(敷地面積は1万8000坪)。当初は、加工能力1万坪/月でスタート。その後、新しい構造用ラインを設置して、現在の加工能力は2万5000坪にまでアップしている。

遠藤教授
ポラテックは、茨城県板東市にもクリエイティブフィールド(第1工場)とテクノフィールド(第2工場)という最新鋭プレカット工場をもっている。さらに、滋賀県に進出した背景は何か。

北大路部長
関西・中部圏からの引き合いが増加し、新たな加工拠点が必要となったからだが、具体的にどこに進出するかが問題だった。一般的なプレカット工場の生産量は月間6000〜1万坪だが、弊社では2万5000〜3万坪が1つの単位と考えている。しかし、名古屋や大阪にこのような工場をつくると、弊社のシェアが局地的に急上昇してしまいバランスが悪い。そこで関西・中部圏を見渡せる中心部に工場を設置しようということで、滋賀県や三重県で候補地を探していたときにこの工業団地を知り、進出を即決した。

画像1

滋賀工場の概要を説明する北大路部長(左端)と中村課長(右端)、遠藤教授

中村課長
県内にはプレカットだけでなく、製材でも先進的な工場はほとんどない。日本一のプレカット工場ができたことは、企業誘致の先進事例としても非常にありがたく思っている。

北大路
滋賀県は関西で唯一人口が増えている県。弊社は名古屋・大阪・滋賀に営業所をもっており、当初は売上げ比率が4:4:2になると予想していたが、蓋を開けてみると3:3:4で滋賀が一番成績がいい。

中村
本県は、京都・大阪には通勤圏の距離にあり、昔から交通の要衝で人の流れも多い。県民性も開放的で、新しいものを積極的に受け入れる土壌がある。

住宅は地域密着が大原則、関東方式は持ち込まない

北大路部長は、遠藤教授と中村課長を工場内に案内した。30億円を投資して整備された加工ラインはコンピュータ制御により自動化されている。長さ240mに及ぶ広大な原材料置場には欧州やロシアから輸入された集成材が所狭しと積まれている。横架材プレカットの2工程は、他社の5ライン分以上の加工能力をもつといわれるだけあって圧巻だ。このほか、柱材、羽柄材、合板プレカットの最新鋭機械が設置されている。どの材がどの工程にあるのか一目でわかる表示装置もスグレものである。その中で、遠藤教授は、丸身のある国産ヒノキの柱角が置かれていることに気づいた。

遠藤
最先端のプレカット工場で、丸身のある柱角を見るとは意外だ。

北大路
住宅産業が地域密着型ビジネスであることの現れだ。ここは大量生産型の工場だが、画一的なモノづくりをしているのではない。関西・中部圏の住宅市場に、本社(埼玉県越谷市)のある関東方式を持ち込もうとしてもうまくいかない。名古屋では、大工が使いやすいように梱包や積み方を工夫しなければならない。大阪では、ヒノキの柱は丸身があっても安いものを求める傾向がある。そうした地域特有のニーズにきめ細かく対応することが大切だ。ここでは、農家住宅の丸太の梁(7mの大梁など)や大黒柱の加工も手がけている。

画像2

完全に自動化された工場内は騒音も埃もない

遠藤
ポラテックの家づくりに対する基本的な考え方は?

北大路
弊社はポラスグループという約20のカンパニーのトップに位置している。全国の住宅業者の中には、大手ハウスメーカーや大手ビルダーに比べて知識や情報の面で足りないところがある。そこに私どもの住宅コンセプトや情報などを伝えていきたい。ただし、繰り返しになるが住宅ビジネスは地域密着が大原則だ。画一的な押しつけはしない。我々のグループの(株)中央住宅も、本社のある越谷市を中心に車で1時間の範囲内でしか営業をしない。それ以上商圏を広げると、十分なサービスができなくなるからだ。

滋賀県産材の供給増に備え、集成材化など急務

遠藤
地域密着というコンセプトは重要だ。では、日本一のプレカット工場と滋賀県の林業・木材産業はどのようにかかわっていくべきか。

中村
本県の森林は、北にスギ、南にヒノキが多い。平成27年からは、造林公社の山が順次伐期を迎える。県内の素材生産量は、今の4万m3から飛躍的に増加する。これを滋賀工場でどう利用してもらうかが1つの課題だ。

北大路
このような最新鋭のプレカット工場が受け入れるのは、規格・精度・強度などが安定しているエンジニアードウッドだ。率直に言って、ムク材よりは、変化の少ない集成材がほしい。滋賀県には集成材工場はないが、例えば、奈良や大阪の集成材業界と連携するなど、県産材を活用する選択肢を増やしてはどうか。

中村
これまでは、他県と同じようにムク柱角を採材する山づくりを行ってきた。しかし今後は、枝打ちなどはできるだけ省いて、間伐にシフトしながら、集成材などの幅広い利用モデルについても検討していきたい。

遠藤
今の時期にラミナ挽き製材工場や集成材工場をゼロから立ち上げるのは難しい。それよりは日本一のプレカット工場と結びついたかたちで、新しいビジネスモデルを構築する方が現実的だ。

中村
県内には約170の製材工場があるが、いずれも小規模で乾燥機も少ない。他府県の関連施設を利用しながらプレカット工場へ受け入れてもらえるような仕組みなども考えていきたい。

北大路
その際、グリーン(未乾燥)材だけは、絶対に避けてほしい。グリーン材には曲がりや狂いがつきまとうので、住宅部材に使用すると厄介な問題が起きる。
私どもは、国産材を否定するつもりはまったくない。ただし、国際競争力をもち、〝実力〞で使えるような商品になっていただきたい。滋賀県産材が、市場メカニズムの中でも優位性をもてるようになることが、消費者から信頼される家づくりにつながる。

画像3

最新鋭工場の一画には手作業のスペースを設け、地域特有の加工ニーズにも対応している

遠藤
同感だ。「安くていいものがほしい」という基本的なニーズに応えるための努力が、まだ国産材業界には足りない。また、自分達を取り巻く状況がどのように変化しているかがよくわかっていない。そこで内外の最新事情に精通している北大路部長に聞きたい。日本市場と国産材の現状と今後を、どのように見ているか。(次号につづく)

(『林政ニュース』第359号(2009(平成21)年2月25日発行)より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?