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「椙」にこだわる木造住宅メーカー・シンケン

輸出主導型の成長モデルが挫折し、内需拡大による経済再生が模索されている日本。内需といえば住宅が大きなウエイトを占め、政府はさまざまな住宅建設支援策を開始している。しかし、少子高齢化が進む日本では、よほど「魅力的な住宅」でない限り、新たな需要は生み出せない。事実、新設住宅着工戸数は低迷が続いている。一方、日本には1000万haに達する人工林があり、スギやヒノキが伐採時期を迎えている。これを活用した住宅ビジネスのあり方を、「100年に一度の不況」打開に向けて検討すべきではないか。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授は(株)シンケン(鹿児島市、迫英徳・代表取締役)を訪れた。〝シンケンスタイル〞と呼ばれる同社の木造住宅は評価が高く、県内外に「いつかはシンケンで家を建てたい」と願う消費者が増えているという。その魅力の源は何か。迫社長の口からユニークな家づくり論が披露される。

提案型営業で大手と差別化、ムクでなく集成材を使う

遠藤教授
住宅ビジネスに参入したのはいつだったのか。

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家造りのコンセプトを説明する迫英徳・(株)シンケン社長

迫社長
32年前、27歳のときに始めた。当時は、殖産住宅(株)や太平住宅(株)との競争だった。大手住宅企業の営業はお客様の意向に沿うことが第一。しかし、それだけでいいのかと疑問をもった。弊社のお客様は40歳〜50歳代が大部分。彼らには「いい家」に対する先入観があった。寄棟造りで屋根は瓦葺き、南向きに葬式を出せる2間続きの立派な和室……といった具合に。でも、そんな和室いらないんじゃないの。お葬式は葬儀屋に頼めばいい。それより日当たりのいい場所に茶の間を造ったらと言うと、それじゃ頼まないと断られる。しかし、大手企業との差別化を図るためには、お客様の言いなりになるのではなく、違いを明確にする必要があった。その違いを、お客様に対する「提案」という形で訴えてきた。

遠藤
従来型の「いい家」を見直すことには、大工からも抵抗があったのではないか。


そうだ。大工は旧慣墨守の世界。例えば、柱と柱をつなぐ長押がどうだ、廻縁がどうだと言う。様式よりも居心地のいいところを造るのが大事だから、長押や廻縁なんてなくてもいいのではと指摘すると、「昔からこうやってきたんだ」と膨れっ面をする。でも、施主から長押や廻縁の必要性を聞かれたら、きちんと説明できなければならない。私も、自分で建てた家に説明がつかないときがあった。そのときは、自らの手で取り壊したこともある。

遠藤
〝シンケンスタイル〞の特色をひと言でいえばどうなるか。


シンプルで必要十分なものが揃っている家だ。価格は若干高くなっても、長期にわたって安心して住める資産価値の高い家づくりを目指している。

遠藤
日本には1000万haに達する人工林がありその4割がスギだ。スギを住宅に利用する仕組みを早急に整備する必要がある。


日本の木を使うということには大賛成だ。ただ、ムクを構造材に使うことには躊躇せざるをえない。年間3〜4棟を建てる大工なら、柱や土台などのムク構造材を選ぶ際、目配り・気配りができるが、棟数が多くなるとリスクが大きい。やはり、集成材の方が材料としての安定性をもっている。モノづくりにとって、材料が安定していることは重要な条件だ。また、住宅建築現場は大工に任せるわけだから、ムクを使って「よくできた家」と「あまりよくできなかった家」が建ったのでは施主に対する信頼性が失われる。誰が建てても均質な家になるためには、集成材を選択せざるをえない。

鹿児島県産材を活用し「椙BOX」を開発

迫社長は、「住み継がれる小さな家・椙BOX」というタイトルの冊子を遠藤教授の前に差し出した。「椙BOX」というコンセプトを説明する箇所には、次のように書かれていた。「杉の素材を科学的に分析し、杉特有の芳香や質感を残したまま、防火・耐震性能や建築部材としての精度を高めて、反りや割れなどの欠点を取り除いた杉材を、シンケンでは『椙』と読んでいます」。

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「椙BOX」のサンプルルーム(シンケンのホームページから)

遠藤
「杉では」なく「椙」という漢字を使った理由は何か。


杉という漢字の旁の部分が「割れ」や「反り」を暗示しているようでイヤだった(笑)。「椙」という漢字はラミナ集成材のイメージに合致している。

遠藤
なるほど。椙の旁は集成材の断面をイメージしているようにも見える。ところで、集成材に使用している樹種は何か。


14年ほど前からホワイトウッドの集成材を使い始めた。その後、レッドウッド、国産カラマツの集成材を使い、現在は鹿児島産のスギ集成材を使っている。

遠藤
使い勝手はどうか。


性能はとてもよい。集成材化できたからスギを使うようになった。どうしてもムクを使うんだったら強度を担保するために大きくして使わなければならない。でもそうなるとごつくなる(笑)。

遠藤
大工が腕によりをかけて建てた現し工法住宅には、太鼓に落とした太い梁を何本も飛ばして「どうだ!」というのが少なくない。だが、見てる方は、食傷気味になることがある。


「近くの山の木で家を造る」運動の趣旨には共鳴できるが、「近くの山の木」が本当に質がいいのかということは検証する必要がある。強度が足りなければ太く使うしかない。そうなるとやぼったい。そのジレンマから脱却する有効な方法が、スギをラミナにして集成材化して使うことだ。これを選択肢に入れれば「近くの山の木」運動も、もっと広がるのではないか。

遠藤
同感だ。確固とした家づくりのコンセプトがあってこそ、「近くの山の木」を利用する方法が生まれてくる。はじめに「近くの山の木」ありきではないはずだ。


建てた家には、「財産になる家」と「負債になる家」の2つがある。「財産になる家」とは、資産価値が上がるだけではない。施主が住んでみて満足の得られる家、人が見ていい家、アフターケアが行き届いている家のことだ。弊社は、「財産になる家」づくりに徹してきた。それが会社のイメージアップにもつながった。

遠藤
シンケンの場合、口コミで評価が高まっている側面がある。特に、団塊ジュニアの女性層に支持者が多いと聞いている。年間建築棟数は、どれくらいなのか。


鹿児島県内を中心に70〜80棟だ。棟数で勝負すると販売合戦に陥り、価格の叩き合いになる。棟数よりも中味で勝負したい。県外から注文があっても、お断りしているケースが少なくない。

シンプルで充足できる家、理想を追い続ける

事務所で対談を終えた迫社長は、遠藤教授をモデルハウスの見学へ誘った。大手企業のモデルハウスが立ち並ぶ中にシンケンの住宅がある。梁や柱を見せる現し工法だ。そのモデルハウスに隣接して「椙BOX」のモデルハウスがある。スギ集成管柱、スギ集成梁はもちろんのこと間柱もそのまま見せている。そのほか構造体として「Jパネル」などが使われている。非常にシンプルだ。


スギ集成材を材料にした家だ。商品性の高いスギ集成材が市場に出たからこそつくれた。構造用集成材はプレカットして金具で接合している。

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圧密したスギフローリングを張ったモデル住宅。
屋根で集めた太陽熱を床下へ送り込んでいる。

遠藤
この「椙BOX」を見ていると将来の日本の木造住宅の有り様を示唆しているように感じる。団塊の世代の夫婦2人住まいに向いている。ところで、迫社長が家づくりをここまで続けて来られた理由は何か。


理想を追うということに尽きる。理想がないと時代の変化についていくだけで精一杯だ。理想をもっているとブレない。もちろん理想は、時代の流れを的確に把握してバージョンアップしていく必要があるが。

(『林政ニュース』第363号(2009(平成21)年4月22日発行)より)

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