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都市型国産材ビジネスの拠点・LVLのキーテック

日本を代表するLVL(単板積層材)メーカー・(株)キーテック(東京都江東区新木場、松田一郎・代表取締役)が、国産材の積極利用に乗り出している。構造用LVL(商品名は「キーラム」)を主力商品とする同社は、今年4月に製造拠点である千葉県木更津市の工場脇に「LVLショールーム」を開設。LVLの認知度アップと間伐材・林地残材の有効利用を最優先課題に据えて取り組んでいる。「無限大の可能性を持つ」と言われるLVLと国産材が組み合わさることで、どのような相乗効果が生まれるのか。遠藤教授が、木更津工場を訪ねた。

国内トップの生産量、LVLの認知度アップに全力

キーテックの前身は、昭和33年に上野工業(株)を買収して発足した晴海プライウッド(株)であり、東京都江東区有明で合板工場を稼働させた。その後、38年には埼玉県八潮市に八潮プライウッド(株)が誕生。60年に両社が合併して(株)ケーヨーが設立され、平成3年に木更津市木材港でLVLの製造を開始した。ケーヨーは、9年4月に社名をキーテックに変更、木更津の工場は設備投資を重ねて施設を拡充し、今では首都圏で唯一のLVL・合板製造拠点となっている。

遠藤教授
LVLメーカーは、国内に何社あるのか。

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松田一郎・(株)キーテック社長

松田社長
構造用LVLを本格的に製造・販売しているのは、弊社を含め、西北プライウッド(株)(宮城県石巻市)、(株)オロチ(鳥取県日南町)、(株)ウッドワン(広島県廿日市)の4社だ。

遠藤
その中で、シェアはキーテックが最大になるのか。

松田
ウッドワンはニュージーランドで製造したLVLを輸入しているので、国内生産量では弊社が最も多いだろう。ただし、LVLという商品自体の認知度がまだ低く、生産量ももう一つだ。LVLは、寸法安定性・精度が高く、長尺通直材が得られ、用途に応じた加工や薬剤処理が容易など、多くの長所をもっている。もっとPRしていきたい。

遠藤
LVLも合板も、単板を積層接着してつくられるので、ユーザーからみると違いがわかりにくいかもしれない。

松田
確かに、かつてはLVLを「併行合板」と呼んでいた時期もあった。合板は、単板の繊維方向をクロスさせて積層接着し、面材として使用される。これに対して、LVLは、単板の繊維方向を揃えて積層接着するので、軸材として高い性能を発揮する。例えば、LVLを柱や梁に使えば、非常に広い開口部が得られる。

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LVLを梁に用いて広い空間をつくった木更津工場の事務所

遠藤
軸材となると、構造用集成材などと競合する。

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曲げヤング係数
バラツキのモデル図

松田
LVLの大きなメリットは、「バラツキが少ない材料」であることだ。集成材や製材と曲げ強度を比較するとよくわかる(図参照)。弊社のLVLの曲げヤング係数が120Eとか140Eと表示してあれば、それは最低限の数値だ。一方、集成材に同様の数値があっても、それは最高値を意味している。現在、LVLの価格は集成材の3割増しというところだが、この価格差が半分になれば、もっと需要が伸びていくだろう。

この2年でカラマツなど国産材利用量が急増

松田社長と遠藤教授は、工場内の視察に移った。事務所脇の土場には、スギ・ヒノキをはじめとする原木(丸太)がストックされていた。合板メーカーと同様、キーテックも原木調達の〝国産材シフト〞を進めている。しかも、主として首都圏近郊から出てくる間伐材を買い付けているところに特徴がある。

遠藤
国産材を使い始めたのはいつ頃からか。

松田
ここ2年くらいだ。それまでは圧倒的にロシア産カラマツを使っていたが、価格の高騰や輸出関税問題などもあり、安定的に調達することが難しくなってきた。

遠藤
国産材原木の集荷範囲は?

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キーテックの国産材樹種別集荷量

松田
当初は、北海道産のカラマツを仕入れていたが、現在は、長野・山梨から調達するカラマツ・アカマツが多い。スギ・ヒノキは、1都3県(東京・千葉・埼玉・神奈川)から持ち込まれてくる。国産材を使うようになってから、構造用だけでなく、造作用LVLもつくるようになった。「地産地消」を目に見えるようにするには、造作用も手がける必要がある。

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工場の概要を説明する松田社長(右)、手をかけているのはLVLをフランジに使用した「I-Joist」

遠藤
国産原木の調達面で不安はないか。

松田
今のところ量的な問題はない。弊社のLVLは、間伐材や林地残材など、いわゆる未利用材を原料としているので、既存の原木流通と競合することはない。むしろ問題は、つくった製品をどう売っていくかという「出口対策」だ。

首都圏に「出口」需要を創出し、新製品を供給する

事務所に戻った遠藤教授の前に、1つのサンプルが示された。スギのLVLをコア(芯)にして、表と裏にアカマツが張られている。現在開発中の新商品だという。

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スギのLVLをアカマツで挟んだ複合板

遠藤
ムク板のような感じがする。

松田
弊社では、この4月に企画開発セクションを設置して、新製品開発とマーケティングを強化している。この複合板は、これまでの検討の中から提案されたものだ。強度の劣るスギ間伐材を有効利用するために考案したもので、学習机の天板などに使うことを想定している。このほかにも、従来のLVLのイメージを超えるような商品開発にチャレンジしていくことにしている。

遠藤
そういえば、8月末に開催された「ジャパン建材フェア」(第83回参照)に出展していたキーテックのブースは、LVLを壁や床に使い、斬新だった。

松田
LVLイコール軸材というだけでなく、面材としても使える可能性を示したかった。LVLは、建築設計が最も自由にできる材料として欧米では定着している。日本国内でも、とくに最大の消費地を抱える首都圏で、このことを示していきたい。

そのためには、先ほども言った「出口対策」が重要になる。首都圏でこのような建物がつくれる、あるいは国産間伐材の利用ができるということを具体的に示して、マーケットニーズを生み出していく必要がある。需要に対応した商品を開発していくという原点を大事にしたい。

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8月28〜29日に開催された「ジャパン建材フェア」に出展したキーテックのブース、スギのLVLを壁面に利用

遠藤
首都圏に唯一のLVL工場として、都市型の国産材ビジネスモデルを展開できるのではないか。

松田
弊社では、表板と裏板にラワン、芯材にスギ間伐材や林地残材を使ったエコパネルなども製造している。国産材をムダなく、最大限に利用できる工場になっている。LVLは無限大の可能性を持っており、特色のある新製品を送り出していきたい。

『林政ニュース』第374号(2009(平成21)年10月7日発行)より


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