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不況を乗り越え新成長段階へ 古河林業と「三木」・下

(前回からつづく)国産材へのニーズを的確に捉えて好業績を上げ始めた古河林業(株)(東京都千代田区、古河久純・取締役社長)と三陸木材高次加工協同組合(岩手県住田町、中川信夫・代表理事、以下「三木」と略)。だが、このような事例はまだ限られており、多くの企業等はデフレ不況の泥濘にはまりこんでいる。苦境打開の術を共有するには何が必要なのか。3人の対話を通じて、危機を好機に転じるポイントが浮き上がってくる。

6年前の林経協提言が甦る、脱・補助金依存体質へ

新政権の目玉施策である「森林・林業再生プラン」の具体化に向けた検討作業が佳境に入っている。ただし現段階では、民主党マニフェスト(政権公約「政策集INDEX2009」)の主要事項である「森林版直接支払い」などに関する議論は本格化していない。

実は今から6年前の2004年6月、民主党マニフェストを先取りするような政策提言が(社)日本林業経営者協会が事務局をつとめた林業再生“夢”研究会(座長=叶芳和・拓殖大学国際開発学部教授)から出されていた。「地球環境時代の新しい林政のあり方」と題したこの提言は、森林版「直接所得補償」制度の導入や二酸化炭素(CO2)吸収源のクレジット化、「森林再生ファンド」の導入、グリーン税制の創設など、革新的な内容を含んでいた。当時、林経協の会長として提言のとりまとめにあたったのが、古河社長である。

遠藤教授
2004年にまとめた提言は、時期尚早ということだったのか。新政権のマニフェストと重なる点が多いが。

古河社長
当時は林政に対する批判書として受け止められたのかもしれない。だが、ここにきて状況は変わってきた。昨年の政権交代は、これまで停滞していた課題の解決に挑戦するいい機会だ。例えば、路網整備の遅れはかねてから指摘されていたが、ドイツは118m/ha、オーストリアは87m/haであるのに、日本は17m/haしかないという数字を改めて突きつけられると、世界水準から引き離されてしまったことを再認識する。基盤整備の遅れは、山元の生産性が向上しない大きな原因になっている。

遠藤
今までもそれなりの予算が投じられ、対策が進められてきたが。

古河
コストダウンや生産性アップにインセンティブが働かない仕組みになっていることが問題だ。造林補助金をうまく使えば7~8割の助成が得られる。そうなると、仕事をこなせば補助金が出るので、効率化しようという意欲が沸いてこない。補助金は必要だが、今のシステムから脱却することが必要だ。

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林業再生の課題を議論する中川代表理事(左)、古河社長(中央)と遠藤教授(古河林業のギャラリーで)

自立には「スギ中目1万5000円」が必要

遠藤
日本の林業が、補助金依存から自立型ビジネスに転換するためには、再生産可能な木材価格が不可欠だ。現場ではどう考えているか。

中川代表理事
当面、スギ中目材の価格をm3当たり1万5000円にすることが先決だ。そうしないと、山に目が向かない。その上で、もう一段の価格アップを目指したい。

遠藤
具体的には?

中川
気仙地方の場合、事業量の拡大や高性能林業機械と高密路網による作業システムで、製材工場までの伐出費用をm3当たり5000円以内に抑えることができる。かりに、スギ中目材が1万5000円になれば、山元に1万円還元でき、植林などの再投資費用が賄える。「スギ中目1万5000円」という価格を前提にすると、集成材の販売価格はm3当たり7万円程度になり、現状より約1万円高くなる。木造住宅1棟に使用する集成材は約15m3なので、約15万円のコストアップになるが、住宅生産全体の合理化・省力化の中で吸収できるのではないか。

資源国であるロシアもニュージーランドも、木材輸出価格を引き上げる姿勢を強めている。新興国市場の台頭もあり、世界的に木材価格は強含みだ。「スギ中目1万5000円」という価格水準は、決して不可能な数字ではない。

大手の大量調達に対応し、プライスリーダー目指せ

遠藤
国産材業界は価格交渉能力に欠けている面がある。

中川
木材流通が大きく変わっていることを前提にものを考えなければならない。プレカット工場が「流通の要」と言っていたのも束の間、今では大手住宅メーカーが直接仕入窓口を設置し、大手流通業者も各地に配送センターを整えて、大量調達によるコストダウンを図っている。これに国産材が対応するには、安定供給が欠かせない。昨年末、九州地方で大手住宅メーカーへの納品が遅れ、原木価格が一時的に上がる事態となった。このように「ないもの高」でユーザーに不安を抱かせるようなことは絶対に避けなければならない。こちらから国産材を使ってくれとお願いしているのだから。国産材の年間供給量が4000万~5000万m3を維持できるようになれば、自ずとプライスリーダーになれる。

古河
国産材の価格を上げるには、何よりも利用拡大が必要だ。コスト削減も大事だが、まず売上げを伸ばすこと。価格を上げるには利用拡大しかない。弊社は、とにかく国産材を使えるだけ使うようにしており、40坪の家で平均32m3使っている。他社が少部材設計で経費節減を進めているのとは、全く逆だ。今年は東京都内の2カ所の展示場に新しいモデル住宅を建設して、消費者にアピールしていく。

中川
「三木」の集成材工場も軌道に乗るまで非常に苦労したが、決して成り立たない商売ではない。ユーザーニーズに誠実に応えていけば、商品は回転するし、適正な利益も得られる。ここまできたら、日本林業が復活するところを見なければ、死んでも死にきれない。そういう気持ちでやっている。

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すべて4寸柱、骨太な構造が特徴の「古河林業の家」(東京都八王子市内の住宅展示場)

(『林政ニュース』第385号(2010(平成22)年3月24日発行)より)

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