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注文が注文を呼ぶ!木脇産業の成長戦略・上

〝未曽有の不況〞の真っ直中で迎えた平成21年。住宅・木材業界にもかつてない危機感が広がっている。その中で、国産スギ製材のトップ企業である木脇産業(株)(宮崎県都城市、木脇義貴・代表取締役社長)が、一頭地を抜く存在感をみせている。顧客のあらゆる注文に応じながら、年間10万m3を超える製材量を維持し、さらなる規模拡大を目指す勢い。構造材・羽柄材・造作材とすべてを手がけ、「木材のデパート」と形容される同社の成長力の源泉は何か――遠藤日雄・鹿児島大学教授が都城市の本社を訪ね、木脇社長及び後継者の木脇桂太郎専務、そして丸太(原木)調達を統括する山下史洋山林部長と、逆境を跳ね返す新たなビジネスモデルを展望した。

出発点は熊谷組への納材、乾燥とプレカットで飛躍

木脇産業の創業は、昭和23年。3代目社長である義貴氏の実父・義盛氏が、丸鋸1台で製材業を始めた。義貴氏が実兄の博保氏を継いで社長に就任したのは昭和45年。創業時から大手ゼネコン・(株)熊谷組の木材納入業者として、ダム建設に必要な資材を九州一円から集め、納めていた。これが木脇産業の土台を築いたという。大企業を相手に夜も昼もなく働いたことで経営基盤が固まるとともに、顧客の求める製品をジャストインタイムで納めるビジネススタイルが身についた。

遠藤教授
一般の製材工場は、製品をつくったら市場に出して終わり。後は委託販売になり、顧客の反応などはわからない。これに対し、大企業相手の納材は、完全受注生産となり、製品の品質や納期などが厳しく問われる。


木脇社長
そのことで、製品生産のレベルを高めることができた。弊社のマークがついた製品ならばと、名指しで注文が来るようになった。そして、転機になったのが、プレカット事業への参入だ。平成2年にグループ会社であるプレカット都城(協)(木脇義貴理事長)を立ち上げ、工場建設と同時に乾燥機を3基入れた。

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木脇義貴社長

遠藤教授
当時、スギのプレカットや乾燥を手がける製材工場は珍しかった。

木脇社長
その頃から製材のマーケットが大きく変わり始めていた。在来木造住宅でもプレカット化率が高まり、生材(グリーン材)ではなく、乾燥材(KD材)でなければ売れなくなっていた。
ただし、人工乾燥のノウハウを習得するには苦労した。乾燥機メーカーには、アフターサービスに詳しい人がいない。したがって、弊社の社員が暗中模索しながら、手探りで乾燥方法を研究していった。真空乾燥のほか、高温乾燥、中温乾燥、高周波乾燥などをいろいろ試した結果、生材を重量選別して最適の乾燥機で処理しなければダメだという結論に達した。今は、大きなものから小さなものまでさまざまなタイプの乾燥機が23基ある。

遠藤教授
邸別配送も当たり前のようにこなしているが。

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遠藤日雄教授

木脇社長
これも自然と身についた感じだ。弊社の乾燥材が大手ハウスメーカーから認められたことで、受注が定期便のように来るようになった。乾燥材を家1棟分納めるとなると、防腐・防蟻処理なども必要になり、そのための工場もつくった。外注すると手間とコストがかかるので、自前でやると事業が拡大していった。プレカット事業に参入した頃の年間製材量は4万m3だったが、4年前に10万m3を超え、昨年は12万m3になった。今年も12万m3を目標にしている。

地場需要にシフトし、「多品種大量生産」に磨き

遠藤教授
以前は、木脇産業の製品が東京・首都圏や東北にも進出していた。最近は、地場需要にシフトしているようだが。

木脇社長
関東・東北にまで持っていくと、運賃コストが負担になる。スギの価格は、全国どこでもそうは変わらない。群馬や栃木の製材工場から東京までの運賃はm3当たり2000〜2500円だろうが、都城から持っていくと6000〜7000円もかかる。
一方で、九州内の木材需要は堅調で、とくに鹿児島は重要なマーケットになっている。毎日、大型トラック2台ずつ配車するほどだ。その代わり、注文を受けたら垂木1本からでも持っていく。昨年から、小割類がロシア材からスギにシフトし、益々いろいろな寸法の製品が求められるようになった。多様な注文に応じるためには、人手がかかるので、いわゆる合理化された大型製材工場とは違う。

遠藤教授
確かに、木脇産業は単品の量産工場とは違う。

木脇社長
少品種大量生産でも、多品種少量生産でもない。多品種大量生産の工場だ。生産品目が多くなると手間はかかるが、逆に販売には苦労しない。特殊材にも対応できる。弊社は、木材のデパート、何でも屋さんと受けとめてもらいたい。

厳しい年はチャンス、デリバリーの良さを活かす

世界的な金融危機の影響が日本経済にも及んできている。製材経営にとっても予断を許さない状況だが、木脇産業の面々からは、不安や暗さは感じられない。工場内の従業員は活発に働き、ひっきりなしにトラックが行き来している。平成7年にナイス(株)での〝修行〞を終えて入社した木脇桂太郎専務の口調にも張りがある。

遠藤教授
今年は国産材業界にとって厳しい年になると思うが。

木脇専務
厳しいが、反面、チャンスでもある。国産材がシェアを奪えるところは、数限りなくある。今の2割という木材自給率を3割、4割にすることは可能だ。弊社も、まだ限られた顧客に販売しているだけで、新規開拓の余地は大きい。米マツの垂木や胴縁などをスギに代替することなどにも踏み込んでいきたい。

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木脇桂太郎専務

遠藤教授
木脇産業グループには、万ヶ塚運送(株)(木脇桂太郎社長)などの運輸事業部門がある。これも強みではないか。

木脇専務
スギを使いたいという顧客の要望には、納期を厳守できるというデリバリーの良さで応えていきたい。弊社の場合、九州管内であれば1週間以内に納められる。東京や関西であっても、少量でも届けられる定期便の体制がつくれれば、スギの取扱量はもっと増えるだろう。

丸太は年14万m3以上を直接調達、安定集荷がカギ

国産材の大量安定供給体制づくりを目指す「新生産システム」(林野庁補助事業)が今年で4年目に入る。5カ年事業の折り返し点をすぎたが、まだ新工場建設などの体制整備が進んでいない地域、あるいは見通しも立たないところが出てきている。木脇産業は「新生産システム」とは一線を画すかたちで、規模拡大を成し遂げている。

遠藤教授
10万m3体制の製材経営を軌道に乗せるためには、原木(丸太)の安定的な確保が不可欠だ。どうしているのか。

山下部長
年間約15万m3の丸太を調達している。このうち約14万m3は山床から直接仕入れている。山床からの買い付けの6〜7割は国有林だ。原木市場からの購入は年間1万m3未満でしかない。10万m3という単位で丸太を集めようとすると、市場仕入れではなかなか量が揃わない。無理にやろうとすると、相場がおかしくなる。立木で直接仕入れた方がコスト削減にもなる。

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山下史洋山林部長

遠藤教授
専属の素材生産業者を抱えているのか。

山下部長
常時4セットは動かせる体制になっている。

木脇社長
全国各地に大型製材工場ができているが、経営面でネックとなっているのが原木の集荷だ。また、販売面にも甘さが見受けられる。大きな投資をして新しい機械を入れるだけでは、製材経営はうまくいかない。マーケットを見据えた戦略・ビジョンが必要だ。(次回につづく)

(『林政ニュース』第356号(2009(平成21)年1月14日発行)より)


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