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新たなビジネスモデルを探るプレカット金沢

昨年6月の改正建築基準法(以下、改正建基法)施行以降、住宅市場は混乱の直中にある。少子高齢化等で新設住宅着工戸数が増えないという構造的要因もあり、住宅・木材業界は新しい市場戦略を練り直す必要がある。とくに、北洋材輸入が来年から事実上ストップする北陸産地の対応ぶりは、全国的に注目される。そこで遠藤日雄・鹿児島大学教授は、石川県の金沢木材協同組合プレカット金沢(増江潔理事長、金沢市、以下「プレカット金沢」と略)を訪ねた。木材流通の要役となったプレカットメーカーの雄は、現在の建築動向や製材品の動きをどうみているのか。増江理事長、竹田廣専務理事の口から、激動期にある現場の実態が伝えられる。

軸組住宅堅調でフル稼働、受注2カ月待ち

  北陸3県(石川、福井、富山)は多湿・多雪地帯のため木造率が高い。昨年の全国平均木造率は48%だが、石川県は81%に達している。しかも木造住宅の7割近くが軸組住宅だ。それだけに、北陸の柱角市場には九州や北関東の産地が攻勢をかけ、熾烈な競争を展開している。

遠藤教授
  改正建基法の影響で、羽柄材はともかく柱など構造材の荷動きが極端に悪くなっているが。

竹田専務
  うちはそんなことはない。受注2カ月待ちのフル稼働状態だ。

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プレカット工場を説明する竹田専務(中央)と増江理事長(左)

遠藤
  なぜか。

竹田
  第1は、法改正が軸組住宅建築に与えた影響が巷間いわれているほど大きくないこと。第2は、北陸3県は元来軸組住宅が多いことだ。昨年の軸組住宅新設着工戸数は対前年比で90%(全国)だが、石川県は118%と増えている。第3は、住宅ローン減税制度が今年で終わること。年内引き渡しのための受注が増加している。

遠藤
  北陸3県の軸組住宅で使われる標準的な樹種は何か。

竹田
  柱は6割がスギムク、土台は北洋カラマツが8割、梁は米マツKD平角とレッドウッド集成平角が半々、下地材(羽柄材)は北洋材が主流だ。

ポスト北洋材で土台にヒノキも、スギ羽柄も選択肢

遠藤
  来年早々導入されるロシアの丸太輸出80%課税が与える影響は大きい。隣県・富山の北洋材製材産地は大打撃を受け、北洋材製品市場も大きな変化を余儀なくされるだろう(第340〜341号参照)。ポスト北洋材の可能性をもつ樹種は何か。

竹田
  お説のように、北洋材市場は激変するだろう。かりに富山産地が丸太挽きから原板再割に転換したとしても供給量は半減する。そこでポスト北洋材だが、土台は米ヒバにシフトしていくのではないか。九州のヒノキ土台角も供給量を増しているので、存在感を高める可能性は大きい。下地材(羽柄材)については、一部スギに替わっているが、用途に応じた製品づくりが必要だ。

遠藤
  どうしてか? 北洋材製品価格は確実に上がっている。例えば北洋材の貫は1枚300円(末端価格)、これに対してスギは200円ちょっと。この価格差は大きい。

竹田
  姿形さえあればいいっていうもんじゃない。北洋材は天然林材だ。鋸を入れればすんなりと製材できる。これに対してスギの場合は、製材してもタコの足のようになる。スギにじっとしていてくれといっても言うことを聞かない。反り、曲がり、割れ等加工に難しいところがある。

遠藤
  でも乾燥することでカバーできる。

竹田
  乾燥された良材を安定供給できる態勢づくりが不可欠だ。使えないものが混入していては、現場の職人が許してくれない。

熾烈な市場競争、梁市場にスギ平角は参入できるか

竹田
  国産材が外材にとって替わるのが難しいことは、これまでの歴史が証明している。例えば梁。昭和40年代中頃までは、全国各地でいわゆる地マツが大工によって使われていた。しかし、ハウスメーカーが台頭すると、地マツには供給能力がなく、青カビが発生するということで嫌われた。そこで登場したのが北洋カラマツだ。天然林の良質材で、いろいろなサイズの製品がふんだんに製材できた。当時の梁市場は、北洋材ワールドだった。

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米マツ平角

遠藤
  そこに参入したのが合板メーカー。合板用原料だった南洋材が枯渇化しはじめ、北洋カラマツなど針葉樹を原料とした合板製造技術が確立した。

竹田
  そのとおり。合板業界の企業力は凄い。あっという間に梁の世界から北洋カラマツがなくなった。その代替材として出てきたのが米マツだ。当初カスケード材(目合いの細い良質材)だったが価格面で難点があった。そこでコースト材(植林木で生育が早く目合いは粗い)が浮上し、現在に至っているというわけだ。

遠藤
  現在の梁市場は、米マツKD、米マツグリーン、欧州産レッドウッド集成材の三つ巴の競争だ。ここにスギ平角が参入できる可能性は今のところ少ないというわけか。

構造計算支援、国産KD柱角の安定供給などに挑戦

  プレカット金沢は、平成6年に、金沢木材協同組合の新しい事業として、林業構造改善事業などを利用して開設された。当初は2000坪/月の加工実績だったが、現在は5200坪/月に増加。平成18年の加工実績は4万6500坪、棟数に換算して1121棟である。同年の石川県の在来軸組構法住宅の新設着工戸数は5011戸だから22%のシェアを占める。そのプレカット業界も昨年頃から撤退や経営破綻が増え始めている。

増江理事長
  金沢プレカットも価格競争の渦に巻き込まれているが、腰を低くした経営で乗り切りたい。

竹田
  今後のプレカットメーカーは価格競争と性能競争の2つのタイプに分かれていくのではないか。金沢プレカットでは両方を追求したいが、難しいのが実状だ。

遠藤
  改正建基法に伴う構造計算業務への対応が1つの手がかりになるのではないか。

竹田
  そうかもしれない。いわゆる「4号特例」(小規模な木造戸建て住宅などの建築物における構造関係規定の審査省略)も、時期はともかくいずれ廃止されるだろう。構造設計ができる設計士が圧倒的に不足している実状では、プレカットメーカーが構造関係の支援を新規業務として取り込むことも考えられる。

遠藤
  国産材を手がけるプレカットメーカーの役割は何か。

増江
  現在、プレカット金沢の製材加工品の取扱量は2万5000m3/年。このうち国産材は40%弱であり、さらに有効利用を図りたい。

竹田
  柱角の場合、プレカットメーカーにとっては集成管柱が圧倒的にいい。施工の際のクレームが少ない。金沢プレカットでも集成材が8割を占める。ただし一方で、住宅メーカーも商品差別化を意識するせいか、集成材一辺倒からムク志向に変わりつつある。

遠藤
  しかし、主流であるスギムク柱角のKD化は進んでいない。

竹田
  国産材製材業界全体からみればそうだが、個別製材メーカーレベルでみるとかなり完成度の高いKD柱角が供給されるようになっている。石川県に「かがの家づくりネットワーク」というのがある。「かが杉」のブランドでKD柱角を製造(かが森林組合)・販売(南加賀木材協組)している。SD20%以下(仕上げ材の含水率)という商品性の高い柱角を供給している。今後、コストダウンして量産体制に入れば有望だ。このほかにも、プレカット金沢の製品倉庫には、九州や北関東の優良なKDスギ柱角が増えている。

遠藤
  もう1つ心配事がある。かりに4号建築物に構造計算が課されるようになった場合、曲げ強度を国産ムク材はどのように証明していくのだろうか。すでに、産地証明(合法性)、樹種、JAS認定、含水率、強度、サイズ、シリアルナンバーを刻印した構造材を供給している大型量産工場があるが、全体からみればわずかだ。

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国産材の比率が増えつつある製品倉庫

増江
  来年秋施行予定の住宅瑕疵担保履行法への対応も含め、構造上重要な位置を占める製材品がその役割をきちんと果たすためには、少なくとも新JAS(日本農林規格。直近の改正は平成年6月、翌年3月から実施)の取得は必要になるだろう。プレカットメーカーの新しいビジネスのあり方が問われている。

(『林政ニュース』第347号(2008(平成20)年8月23日発行)より)

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