見出し画像

住宅着工80万戸割れ、住友林業の新戦略を探る・上

家が建たない!
昨年の新設住宅着工戸数が80万戸を割り込み、新築市場が縮小過程に入ったことがはっきりした。右肩上がりの時代はもう望めない中、住宅メーカーは、ビジネス戦略の根本的な見直しを迫られている。各社は生き残りを賭け、環境調和性を重視した国産材の使用拡大や、中古・リフォーム事業の強化などを急いでいる。その中で注目されているのが、木造軸組工法住宅のトップメーカーである住友林業(株)(東京都千代田区、矢野龍社長)の動きだ。年間1万棟近くの建築実績を有する同社の対応は、木造住宅及び国産材の今後に大きな影響を及ぼす。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学が同社を訪ね、住宅部材の調達責任者である坂直・資材流通部長に、現状分析と今後の事業戦略を聞いた。

土地・資材・金利が安くても雇用不安で建てられず

遠藤教授
住宅着工戸数の落ち込みは予想されていたことだが、改めて“80万戸割れ”という数字を突きつけられると、やはり衝撃は大きい。

坂部長
42年間続いた100万戸時代が終わり、一気に2割ダウンという現実は非常に厳しい。これからは80万戸を前提にしたビジネスモデルを考えなければならない。住宅メーカーだけでなく、住設メーカーも吸収合併などの動きが激しくなってきている。

遠藤
木造住宅へのニーズは根強いとされているのだが。


地域木造住宅の担い手である中小工務店の経営状況も厳しい。営業力が十分でないことに加え、耐震補強や確認申請などに関する信頼性がもう1つというのが実情だ。“木造の復権”という追い風を受け止めきれていない。

遠藤
なぜ、これほど家が建たなくなってしまったのか。


今は、土地が安い、資材が安い、金利が安い。家を建てる好条件は揃っている。しかし、雇用不安がどうしても拭えないので、なかなか家を建てるという決断ができない。政府が講じている様々な住宅取得支援策はいいと思うのだが…。

画像1

坂直・住友林業(株)住宅事業本部資材物流部長

深刻な「和室離れ」、和風住宅の復活へ新商品も

遠藤
潜在的な住宅取得層として、団塊ジュニアの動向が注目されているが、どうみているか。


住宅全般で和室離れが進んでいるが、とくに若者で顕著であり、木造住宅メーカーとしては悩ましいところだ。ライフスタイルが変わり、親戚などが家に集まることが少なくなったことも影響しているのだろう。地域差はあるが、大壁づくりの家が当たり前になった。二間続きの間取りも減った。弊社は、かつては年間10万畳相当の和室をつくっていたが、今は7万畳を下回っている。

遠藤
昔ながらの和風住宅が復活することはあり得ないのか。


それは考えている。現在、数寄屋造りの家の発売を検討しているところだ。どのくらい売れるかわからないが、国産ムク(無垢)材のよさを活かすためにも、和風住宅をなくしてはいけない。耐震強度や構造的な強さに配慮しながら、「新しい和風住宅」を提案していきたい。

ムク材を積極利用、「新しい役物」で林業再生図る

山林経営も行っている住友林業は、自社の住宅に国産材を積極的に使用する方針をとっている。代表的な商品で、土台や柱に用いられている「スーパー檜」は、国産ヒノキの構造用集成材。曲がり材や短尺材を有効活用し、ムク材を上回る高精度・高強度を実現していることがセールスポイントだ。また、関連会社の住友林業クレスト(株)では、スギを原料にした内装部材「彩椙(あやすぎ)」(2008年度グッドデザイン賞受賞)を生産している。

こうした中で、坂部長が言う「新しい和風住宅」では、集成材や合板だけでなく、ムク材も積極的に利用することになる。昭和55年に三重大学林学科を卒業した坂部長は、全国の国産材産地の事情に精通しており、ムク材に脚光をあてることが、林業経営の活性化にもつながるとも考えている。

遠藤
和室の減少に伴って役物の需要も落ち込み、吉野や北山など、かつての有名林業地は苦境に喘いでいる。「新しい役物」としての復活を期待したいのだが。


同感だ。今の国産材業界は、あまりにも並材志向に偏っている。もっとムク材としてのよさを評価するべきだ。

弊社ではまず、住宅の1階部分の床材にムク材を使うことを進めている。これだけで、生活感が違ってくる。「住友林業の家」のムク材比率は、徐々に上がってきている。

遠藤
どのような木材を使っているのか。


国産材については、東北地方ではクリ、北海道はミズナラ、全国的にはケヤキを使用している。外材では、オーク、メープル、チーク、ウォールナットなどを採用している。

遠藤
ムク材を積極利用する上での難しさは?


営業マンがムク材の特徴を説明することが得意ではない。ムク材の場合、いい木目であるほど割れが生じることがある。構造的には問題なく、生物材料である木材にはつきものであることを真摯に説明する姿勢が重要だ。

遠藤
80万戸時代になって、リフォーム・中古住宅ビジネスが活性化するとの見方もあるが、そこでも今指摘のあった説明能力が重要になってくるだろう。


とにかく、きちんとした家づくりをすること。メンテナンスをしっかりして、住まい手からの信頼を得ることで、住宅ビジネスは循環していく。

極端に言うと、家は安く建てようとすればできる。基礎も木材も手を抜けば抜ける。しかし、それでは後々の信用をなくす。苦しいときだからこそ、住宅メーカーの姿勢が問われている。(つづく)

画像2

住友林業が昨年発売した「My Forest 大樹」は国産ヒノキをふんだんに利用している

(『林政ニュース』第382号(2010(平成22)年2月10日発行)より)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?