「製品市売」健在! 躍進際立つ丸宇下館浜
昭和26年、それまでの木材問屋に代わる新興勢力として発足した製品市売市場(市売問屋)。以来、製材産地と消費地を結ぶ要として大きな役割を果たしてきた。ところが、1990年代に入ると退潮が著しくなった。プレカット流通が台頭してきたからだ。製品市売市場は危機感を強め、新規事業に手を出すものの、これといった決め手は見つからず、最近は製品市売不要論までささやかれるようになっている。
そんな中、製品市売大手の丸宇木材市売(株)(本社=東京都江東区、津村進也・代表取締役社長、以下「丸宇」と略)がここ数年、国産材の売上げを大きく伸ばして注目を浴びている。その背景には何があるのか。遠藤日雄・鹿児島大学教授が、国産材取扱量トップの丸宇下館浜(茨城県下妻市)を訪れた。
アッセンブル機能拡充、開設市で5億3千万円販売
遠藤教授が丸宇下館浜に着いたのは5月25日。折しも市日。茨城、栃木などから100人近い買方が参加し、粋なセリ(競り)子の威勢のいい声が林場(浜)に響き渡っていた。
遠藤教授
予想外の活気だ。昨今の市売業界は、市をやっても成り立たず、セリ子たちはケイタイ(携帯電話)を持って外勤していると聞いていた。市売業界の繁閑格差を見せつけられた思いだ。
津村社長
下館浜は今年1月、浜が手狭になったので下館市からここ下妻市に移転した。昔の名前で出ているが、昔のままでは出ていない(笑)。
遠藤
どこが変わったのか。下館浜は国産材の売り上げが突出している。
津村
第1は浜の広さが拡充したこと。第2は屋根付の浜になったこと。これで産地からの荷物(製材品)の商品性を保てる。第3はアッセンブル機能(プレカット工場への邸別配送)を拡充したことだ。当社がつくる伏図をもとに、例えばホワイトウッド集成柱になっているところを、「ここはスギにしたら」という営業ができる。外材を国産材に替えるチャンスはここにある。
邸別配送機能を拡充したのも下館浜の特長
遠藤
開設市の賑わいは。
津村
5億3000万円の売上額を達成した。1か月後の創立市では2億300万円を売上げた。
遠藤
信じられない額だ。東京・首都圏7市場で構成する東京木材市場協会の3月の売上げ27億円のうち、44%・12億円が丸宇と聞いている。丸宇の存在感を示す象徴的な数字だ。
津村
市場で3割のシェアを握ればプライスリーダーといわれる。当社の相場が国産材価格をリードしていると自負している。
「餅は餅屋」の品揃えと豊富な在庫量が強味
丸宇は関東の要所に6つの浜をもつ。西浜(東京都小平市)、北浜(埼玉県さいたま市)、千葉浜(千葉県袖ヶ浦市)、大栄浜(同成田市)、京葉浜(同鎌ヶ谷市)、そして下館浜だ。5〜6年前までは6浜とも金太郎飴的だったが、その頃を境に変化が生じた。その象徴的な存在が西浜と下館浜。西浜の黄金時代は第1次分譲建売期。米ツガ3寸角が飛ぶように売れた時代だ。しかし、10年前から目に見えて落ち込み始め、閉鎖か存続かで丸宇は迷いに迷った。しかし存続させた。正解だった。というのも第2次建売分譲、つまりパワービルダーの躍進によって、西浜は違った形で復活したからだ。取扱量の9割が外材になり、市売のウエイトはわずか5%に低下した。市日も1時間半ほどでお開き。スギ、ヒノキの役物などはまったく出番なしといった風情。
これと対照的なのが下館浜だ。取扱量の7割が国産材で、市売のウエイトも7割を占める。毎回の市もたっぷり4時間かかる。残りの4浜は、この2浜に近いか遠いかという形で存在している。
遠藤
製品市売曲がり角論や不要論が蔓延する中で、津村社長はかたくななまでに流通業にこだわってきた。直営プレカット業務も持たない。それが今、繁閑二極化の「繁」のトップに躍り出た。その理由が知りたい。
津村進也・丸宇木材市売(株)社長
津村
「餅屋は餅屋」に徹してきたことだ。市売市場でなければできないことがある。
遠藤
それは何か。
津村
製材品の品揃えと在庫だ。下館浜は常時8億円相当の在庫を持つ。大は6m通し柱や平角から小は瓦桟まですべてある。さらにホワイトウッド集成管柱、米マツKD平角まで揃えている。買方が来ても品切れなどまったくない。
さらに、買方組合の強力なバックアップがある。買方組合には、下館浜が「自分たちの浜」という認識がある。だから、要らなくても敢えて買うときもある。買方に支えられている面は大きい。
単式市場の改革が奏功、課題は乾燥材の供給力アップ
遠藤
丸宇が時代の変化に対応してここまでやってこれたのは、単式市場(市場経営者が集荷・販売を行うタイプ)という点が大きいのではないか。品揃えという点では、複式(複数の市売問屋に集荷・販売業務を行わせるタイプ)も単式も同じだが、浜問屋が入った複式市場は老舗のデパート同然だ。こういうデパートの寝具売場に行くと、派遣販売員が客の目もはばからず四方山話に花を咲かせている。デパート本体は所場代をとるだけ。これでは変革がしにくい。それに対して単式の場合は、品揃えから販売決済まですべて本体(丸宇)が取り仕切る。この違いが大きいのでは。
産地の最新情報を伝える試みも行われている。
津村
そうかもしれない。製品市売曲がり角論は、実は単式市場曲がり角論だったが、今では複式市場の落ち込みが目立つ。
遠藤
品揃えという点で苦労している点はあるか。
津村
当社は関東以北のMIZDAS(住友林業(株)筑波研究所が開発した新乾燥システムで、材の表面割れを抑え内部の含水率を15%以下にすることを実現した)の総販売代理店も兼ねている。今後はスギKD柱角ではなく、MIZDASブランドで安定した値段で販売していきたい。ただ難点は、供給能力のなさ。月間1200㎥程度の供給力しかない。年間400〜500棟のビルダーなら供給可能だが1000棟以上のパワービルダー相手となると無理だ。
遠藤
スギKDのスタンダード商品10・5㎝角も不足気味とか。
津村
スギ丸太の径級が確実に太くなっているからだ。市場ニーズは10・5㎝角:12㎝角=7:3であるのに対して供給は4:6だ。歩止まりをあげるため、産地では12㎝角を挽かざるをえない。これをどう流通段階で調整していくのか。我々市売市場の課題だ。
◇ ◇
十数年前、山形県のある量産製材工場の事務所で、丸宇から頻繁にファックスが入り、その対応に従業員がてんてこ舞いしている姿をみたことがある。ファックスには実に様々なサイズの製材品を何日の何時までに納入してくれと走り書きがしてあった。今では携帯電話や電子メールを駆使して産地からの集荷が行われているのだろう。しかし一方で、丸宇下館浜では今でも人間くさいセリが行われている。実はこの人間くさい取引が丸宇の市売を発展させるエネルギーになっているのではなかろうか。
<コラム>
平出博一・丸宇木材市売(株)買方組合連合会会長の話
追い風をとらえ、日本一の買方組合目指す 材木屋は「木が売れない」と嘆くが、今ほど追い風が吹いているときはない。健康で安心できる家づくりには木が最も適している。他の業界は向かい風が吹くと必死になって抵抗するが、材木屋は田舎のお大尽(金持ち)と同じで、すぐあきらめるところがある。木が売れないのではなく、売ろうとしていないだけ。
下館浜のような市売市場は、在庫があれば売れる。8億円在庫があれば、3割は元落ちとして5億6,000万円は売れる。我々は、売れるための仕掛けを先に立ってつくり、日本一の買方組合になることを目指している。
(『林政ニュース』第318号(2007(平成19)年6月13日発行)より)
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