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国産スギの本格利用に踏み切った銘建工業(株)

国内最大の集成材メーカー・銘建工業(株)(岡山県真庭市、中島浩一郎・代表取締役社長)の動向に注目が集まっている。林野庁が進めている「新生産システム」に参画し、新たなスギの大量加工拠点づくりに乗り出しているからだ。これまで、もっぱら北欧からの輸入ラミナに依存してきた大手企業が、国産材利用に本格的に舵を切ることのインパクトは極めて大きい。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授が約1年半ぶりに銘建工業を再訪し、中島社長に最新の取組状況などを聞いた。中島社長からは、スギを使うにあたっての現実的な課題と可能性が指摘された。 

地元が全面協力、スギ原木の確保にメド 

  銘建工業は昨年12月、高知県大豊町にスギの製材品とラミナの製造拠点を整備する計画を発表(大豊町と企業進出協定を締結、第307号参照)。高知県産スギを年間5万㎥消費(原木ベース)する新工場が平成21年4月に稼働を開始する。また、今年6月には、熊本県あさぎり町に年間10万㎥規模の製材工場を新設する計画が固まり、協同組合くまもと製材が発足した(第320号参照)。

遠藤教授 
  1年半前に貴社を取材したとき(第289・290号参照)は、国産材の本格利用を検討し始めた段階だった。その後、高知と熊本への進出計画が具体化し、いよいよスギの出番が来たといえる。 

中島社長 
  まず、高知に進出する計画が先行し、次に熊本の新工場立ち上げに参画する話が本決まりになった。両県とも全面的な協力体制がつくられており、製材をベースした新しい木材加工業を展開できると思っている。 

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中島浩一郎・銘建工業(株)社長

遠藤 
  スギの原木(丸太) 確保に不安はないか。 

中島 
  熊本の場合は、当面、新工場が1シフトでスタートし、月に4400㎥、年間で5万2000㎥くらいの原木が必要になる。今のところ組合員の県森連、素材生産業者、民間市場等の協力を得ながら、原木の確保はできる見通しだ。しかし、工場の運営と収支面を考えると、できるだけ早く、2シフト・10万㎥体制に移行したいので、今後より一層の連携を強化していく。 

遠藤 
  原木の受入条件や価格はどのように設定しているのか。 

中島 
  基本的に、長さは3mか4m、径が24㎝上の直材か小曲り材としている。当初は工場着1万2000円(㎥当たり)で買うことを検討していたが、外材の値段が上がったので、今は1万3000円を想定している。 

「製材品と集成材は同じ」が新工場の基本コンセプト 

遠藤 
  新設するスギ量産工場はどのようなものになるのか。 

中島 
  「製材品と集成材は同じ」ということを基本コンセプトに、製材工場とラミナ製造工場を分け隔てなく位置づけたい。製材品も集成材も、加工方法は同じだ。原木を帯鋸ないし丸鋸で挽き板や挽き角にしている。集成材は、加工した板材(ラミナ)を積層し接着しているだけで、製材加工の一形態ととらえるべきだ。この視点を基本にして、ユーザーの要求に応えられる品質確保に取り組みたい。やはり、最も重要になるのは乾燥だ。平衡含水率に近い製材品がつくれれば、そのまま製材品として利用してもいいし、集成材用のラミナに回してもいい。このような加工体制ができれば、従来とは違った新しい価値を生む工場ができる。 

遠藤 
  製材品と集成材は競合関係にあると見る関係者が多いのだが、全く発想が違う。 

中島 
  これからは、製材品と集成材の中間製品のようなものが出てくるだろう。例えば、縦継ぎした間柱などが考えられるし、ヨーロッパでは横はぎした間柱が普及している。
  スギ集成柱にしても、これまで5プライでやってきたが、4プライにすれば間柱のサイズに近くなり、使い勝手が高まる。さらに、3プライや2プライにもチャレンジしていきたい。今後は、歩留まり、コスト、品質の各面に応じてさまざまな製品が出てくるだろう。それらはすべて製材品と言える。 

スギ集成柱の生産目標は月8万本、4倍増目指す 

  銘建工業の工場内には、すでにスギのラミナや集成柱が積み上げられている。北欧産ラミナが流れていた高速ラインに、限定的ではあるがスギが加わり、量産化への挑戦が始まっている。 

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スギのラミナが大量にストックされてきている

遠藤 
  現在のスギ集成柱の生産量はどのくらいか。 

中島
  月産で2万本強だ。来年は容量100㎥程度の乾燥機を2基増設するので、月産4万本弱にはなる。さらに、熊本の新工場が立ち上がってラミナが供給されるようになると、月産7万本か8万本に増えるだろう。
 当社の工場は、2シフトでフル生産すると、集成柱を月産27〜28万本つくれる。今は、ホワイトウッドが6割強、レッドウッドが3 割弱、スギが1割弱という割合だが、再来年の終わりくらいには、スギの割合を3割から4割にまで高めたい。 

遠藤
  スギを実際に使ってみて、率直なところどうか。

中島
  一口にスギといっても、えらく種類があることに、改めてびっくりしている。個体差が大きく、バラツキもある。したがって、均一に乾燥するのに時間がかかるし、技術的にも難しいが、ここにチャレンジしていかないといけない。

遠藤
  スギについては、強度不足の問題も指摘されている。 

中島
  スギの強度は、E65程度だ。当社では、梁・桁も生産しているが、求められる強度は、E120などのレベルになる。したがって、スギを使って梁・桁を生産するのは現実的ではなく、集成柱としてシェアを伸ばしていきたい。柱ならば、圧縮荷重に耐えればいいので、曲げ応力についてはそれほど気にしなくてもすむ。
  もっとも、スギは強度がないからダメと決めつける必要はない。スギには、軽くて断熱性が高いというメリットがある。こうした特長を活かした使い方を考えていくべきだ。

輸入ラミナ高騰、1㎥売ると1万円損をする

  遠藤教授が1年半前に銘建工業を訪れたときと大きく様変わりしたのは、外材輸入を巡る状況である。とくに、北欧からのラミナ輸入は、産地価格の上昇とユーロ高が相俟って、契約が成り立たないところにまできている。 

遠藤
  輸入ラミナの高騰ぶりはどの程度のものか。

中島
  北欧産ラミナの現地(産地)価格は、去年の前半で㎥当たり230ユーロだった。当時の為替レートは1ユーロ=145円だったので日本着価格は3万3000円程度となっていた。ところが今は産地価格が290ユーロに上昇した上に、1ユーロ=168円とユーロ高が進んだため、日本着価格は4万8000円に値上がりしている。これに関税などがかかると実質5万円を超える。この輸入ラミナから集成材をつくると、7万8000円か8万円でないとあわない。ところが国内市況は7万円でないと売れないという大変厳しい局面にきている。

「外材を大事に使わせてもらう時代」になる

遠藤
  米材やロシア材の輸入にも翳りが出てきているが。

中島
  その意味では、国産材をきちんと使いこなせる体制づくりを急がなければならない。ただし、日本国内の住宅をすべて国産材だけで賄おうとしても現実的には無理だ。極端な話、外材を輸入禁止にしたら、日本の木造住宅は建たなくなってしまうだろう。
  これからは、外材を大事に使わせてもらう時代になると考えた方がいい。米材にしても、ロシア材にしても、量的には減っていっても、日本の住宅市場で一定のポジションを占め続けるだろう。
  当社はたまたま北欧材に大きく依存してきたが、その構造を変えて、他にどういう外材を選択できるかも考えながら、国産材の活用を進めていく方針だ。
  現在の原木価格を比較すると、日本着で2万円を割っているのは、ラジアータパインだけ。北洋カラマツが2万2000円、米マツは2万6000円くらいだ。これに対して、スギの原木価格が1万円少々というのは、やはり安すぎる。木質バイオマスエネルギーやペレット生産などにも取り組みながら、国産材の価値を高め、一刻も早く国際競争力をつけなければならない。

『林政ニュース』第323号(2007(平成19)年8月29日発行)より)

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