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救世主トーセン、林地残材ゼロ「群馬モデル」確立へ・下

国産ムクKD(人工乾燥)製材で日本を代表する企業に成長したトーセン(本社=栃木県矢板市、東泉清寿・代表取締役社長)。前号で紹介したように、同社は今年、新たに集成材と2×4部材の本格生産を開始する。これだけでもビッグニュースだが、東泉社長の事業戦略は、さらに先を行く。日本林業の再生に向け、「林地残材を出さない」ビジネスモデルを確立したいと構想している。関係者の間で、「群馬モデル」と呼ばれ始めたプロジェクトが、いよいよ動き出すという。木質バイオマスの利用に新境地を拓けるか――遠藤日雄・鹿児島大学教授が、「群馬モデル」の全貌を聞いた。

林地残材の割合が86%、有効利用のカギは「距離」

遠藤教授
林地残材の有効利用は全国共通の課題と言える。だが、なかなか決定的な対策が見い出せないのが実情だ。

東泉社長
弊社は、「母船式木流システム」(以下「母船式」と略)とウッドロード構想により、国産材の総合利用を目指している。おかげさまで、多種多様な丸太を使いこなせるようになってきたが、まだまだやるべきことは多い。

群馬県には豊かな森林資源があるが、切り捨て間伐の割合が86%にもなっている(下記参照)。いくら間伐を進めても、ほとんどが山に放置されている。この現状をなんとかしたい。

群馬県の森林資源の状況
森林面積42万4,000ha
うち民有林22万7,000ha
森林蓄積量7,500万m3
過去5年間の蓄積増加量610万m3
群馬県内の平成20年度の事業実績
素材生産量約18万m3
間伐面積4,654ha
うち切り捨て間伐4,002ha

遠藤
林地残材に値がつかない、価値が認められていないところに問題がある。

東泉
最大のポイントは距離、つまり輸送コストだ。林地残材をチップにしても、輸送距離が長ければ採算割れしてしまう。だから、山に近いところで、林地残材を使う仕組みを考えなければならない。幸い「群馬モデル」では、この条件を満たす状況が整ってきた。

遠藤
具体的には?

東泉
(株)吾妻バイオパワーの存在が大きい。起爆剤になる。

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工場の稼働状況などを遠藤教授に説明する東泉社長(左)

吾妻バイオパワーが7月稼働、13万トンのチップが必要

東泉社長が口にした(株)吾妻バイオパワー(本社=群馬県前橋市、木寺靖・代表取締役社長)は、群馬県吾妻郡東吾妻町で木質バイオマス発電所を建設している。同社は7500万円の資本金(出資比率は、オリックス95・56%、東京ガス(株)4・44%)を有し、今年7月に木くずチップ100%の発電所を稼働させる予定だ。発電規模は1万3600kWで、年間約13万トンのチップが必要になる。このため、群馬県と県森林組合連合会では、今年春に北部県産材センター(仮称)を開設し、チップの安定供給を図ることにしている。この「群馬モデル」プロジェクトのキーパーソンとなっているが、東泉社長だ。

遠藤
「群馬モデル」では、さきほどの距離の問題は解決できそうなのか。

東泉
北部県産材センターは、木質バイオマス発電所から2㎞ほどの近接地にできる。ここを拠点に効率的に材を集めたい。群馬県内にある林地残材の半分でも、3分の1でも持ってくることができれば、状況は大きく変わる。

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バーク(樹皮)も有用なバイオマス資源になる

北部県産材センターで、A、B、C材を全量受け入れ

遠藤
今の不況下で、チップの価格が急上昇することは考えにくい。そうなると、林地残材を出すための新しいインセンティブがいるのではないか。

東泉
林地残材だけを集めようとしても、現実的には無理だ。だから、A、B、C材をすべて受け入れる体制がいる。いい材も悪い材も全量引き取る。その中で、A材やB材にならないものを発電所用のチップにする。弊社の「母船式」で培われたノウハウも活用して、向き向きに使いこなしていくことを考えるべきだ。

林地残材を搬出していくには、山元の作業をシンプルにしてコストダウンを図らなければならない。例えば、造材は3mに統一したらどうか。付加価値アップは、山から出した後に考えればいい。

地元に雇用と技術を生み出す、選択と集中の施策を

遠藤
「群馬モデル」が確立されれば、新たな雇用の場ができる。

東泉
それが最大の狙いだ。林地残材を出せば収入になる仕組みをつくることで、地域が活性化する。山づくりは、ボランティアではできない。生業として、きちんと生活ができる基盤をつくらなければいけない。

大切なのは、地域の木を地域で活かす技を育てることだ。その点でいうと、県産の丸太に運賃補助をして県外に出荷するのは問題だ。これでは、雇用も技術も、地元には何も残らない。

弊社の「母船式」では、栃木、群馬、新潟などにグループ工場があるが、それぞれ特色のあるものをつくっているし、つくれる人がいる。画一化しないようにしている。

遠藤
今の指摘は、国の施策全般にも言えることだ。

東泉
金太郎飴では、競争力がつかない。それぞれの地域にすでにあるものや、歴史、文化などをよく見ることだ。家具づくりが盛んなところもあるし、木工品の産地もある。ほかの地域にないにもう一度光を当てることで活力が生まれる。

行政に望みたいのは、選択と集中だ。これまでのように薄く広く補助金をばらまいても、砂漠に水を撒くようなものだ。本当にオアシスとなるようなビジネスモデルがいる。「群馬モデル」で、その成功事例をつくりたい。

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トーセンは昨年5月、群馬県藤岡市の県産材加工協同組合(製材工場)の隣接地に第2工場を開設、ここでは短尺材や欠点材をフィンガー・ジョイントして間柱などを生産している。

(『林政ニュース』第381号(2010(平成22)年1月27日発行)より)


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