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韓国で建築実績伸ばす日本木造住宅輸出協会

ここ数年、日本から韓国や中国へ住宅や木材を輸出する動きが目立っている。しかし、なかなかうまくいかないのが実状である。数年前、ツーバイフォー(2×4)住宅で韓国に進出したある日本の大手住宅メーカーも、実績らしい実績を残せないままだ。なぜなのか。その理由を探るために、遠藤日雄・鹿児島大学教授が韓国を訪れた。同国に産直住宅を輸出し、すでに17棟の実績をもつ日本木造住宅輸出協会(鹿児島県霧島市、第313号参照)の有村吉孝会長に現地で会うためだ。有村会長は遠藤教授を、陝川に建設した木造住宅で、施主の安喜福さん(52歳、1万2000頭の養豚業を経営)とともに出迎えた。住宅を見ながら3人が語り合う。その中で、有村会長の取り組みがなぜここまで到達できたのか、その理由の一端が明らかになる。

4年で17棟、「住文化の壁」解消に手応え

  安さん宅は木造在来軸組の平屋で40坪(坪130万円)。築3年。玄関の柱がヒノキのほかは、すべてスギだ。オール鹿児島県産材である。ここに奥様と息子2人で住んでいる。

遠藤教授
  鹿児島県志布志港からプレカットされたスギの住宅部材が韓国に向けて出港したのが平成15年の9月だった。あれから4年がすぎた。すでに17棟の建築実績をもち、今後さらに増える見込みということだが。

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韓国型木造住宅提案の試金石になる安さん邸

有村会長
  試行錯誤の連続だったが、なんとか手応えを感じ始めている。

遠藤
  そもそも韓国に産直住宅を輸出しようと思ったきっかけは何か。

有村
  産直住宅に取り組み始めたのは1990年代の初めだった。全国的に産直ブームが起きたのとほぼ同じ頃だ。その中で、阪神地域に建てたモデル住宅数棟が平成7年の阪神大震災でもびくともしなかったのが大きな自信につながった。その後、建築棟数が増えた。その延長線上に、韓国がある。

遠藤
  とはいっても、日本と韓国ではビジネス風土も違うし住文化も異なる。

有村
  最初は信じられないことばかりだった。例えば、建材を注文したのに納期になっても来ない。どうなっているんだと電話をかけると、催促の電話がないので急ぐ必要がないと思った、という返事だ(笑)。この種の経験は枚挙にいとまがない。

遠藤
  住宅に対する考え方も日本人とは違う。階段の高さは段によって違うし、床もビー玉を転がさなくても明らかに傾いている(笑)。雨漏りも平気だ。韓国人は物事に寛大な国民だといわれるが、ある意味では本当だ。

有村
  これは善し悪しの問題ではなく、文化の違いだ。逆に韓国人は、日本人は細かい点に気を使いすぎると思っている。

遠藤
  産直住宅の輸出自体が文化の輸出だ。当然両国の文化には違いがある。でも、この壁を超えないと建築棟数は増えない。企業力や資本力だけでは打開できない。どうすればいいのか。

有村
  いくつか選択肢はあると思う。1つは材工(材料と大工)すべてを日本が責任をもってこなすことだ。

遠藤
  確かにその方法は有効だ。高気密高断熱の商品性の高い、いわば「日本ブランド」の木造住宅を提供できる。しかし、日本木造住宅輸出協会は、この途を選ばなかったと聞いている。

有村
  そのとおりだ。というのも、韓国にふさわしい木造住宅とはいったい何なのか。その提案力がないと、韓国では受け入れてもらえないと考えたからだ。

現代風「韓屋」のよさを日韓連携で提案する

  韓国には、朝鮮戦争前まで「韓屋」と呼ばれる伝統的な木造住宅があった。日本の在来軸組構法住宅と同じように、柱(Post)と梁(Beam)を組み合わせて建てるP&B構法がそれだ。しかし、朝鮮戦争後の近代化政策で、住宅は高層アパート建築が主流になった。また、戦災で丸裸になった山々から建築用の木材を出材するのは困難であった。そのため、P&B構法は住宅市場から退出を余儀なくされた。そんなわけで、朝鮮戦争後に韓国に入ってきたのは2×4住宅だった。注文に応じて北米から輸入される2×4住宅は、「さしあたりの木造住宅」としては韓国にうってつけだった。しかし、2×4住宅にしても、年間2000棟程度の市場規模で推移してきたにすぎない。

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赤土レンガの安さん邸を説明する有村会長(左)

遠藤
  結局、韓国の木造住宅市場では、ウェスタン文化のオリエンタル化ができなかった。

有村
  オンドル文化の韓国にふさわしい木造住宅とは何か。それを日韓連携で模索しているのが、私たちの現在の取り組みだ。

遠藤
  韓国人の中には、「韓屋」に対してノスタルジーを感じている人が少なくない。

有村
  その「韓屋」をいかに現代風に蘇らせることができるか。それを日韓連携で考えていきたい。

遠藤
  日韓連携とは具体的にどういうことか。

有村
  2つある。1つは、韓国の人工林の未成熟性だ。植林は朝鮮戦争後に開始された。しかも樹種はマツ系が多い。最近、ようやく間伐期にさしかかった。一方、日本は、とくに鹿児島県は、スギを中心に主伐期に入りつつある。だから、柱や梁などの構造材は日本のスギやヒノキで、内装材は韓国の間伐でという住宅部材供給面での日韓連携が必要だ。
  もう1つは、施工現場での大工の連携だ。どっちが先生でどっちが生徒という関係ではない。両方とも生徒という相互認識にたって、韓国にふさわしい木造住宅をともに考えていくという姿勢が大事だ。

スギの感触、頑丈な骨組みなどに高い評価

  遠藤教授と有村会長の対談に、施主の安さんが加わった。安さんは自分の建てた木造住宅をどう評価しているのか。

遠藤
  築3年だが、住み心地と日本の産直住宅に対する評価は。

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安氏


  大満足だ。第1に、スギの感触がじつにいい。現し工法なので日常生活で木が見える。第2に、骨組みが頑丈だ。信頼性が高い。第3に、自分のイメージどおりの木造住宅ができた。自分なりの設計図を70種類考えていた。その中から、ベストイメージの住宅を建ててもらうことができた。第4に、養豚業という仕事柄のせいか、多忙になると肌が赤くなるという一種のアトピーに悩まされていたが、この家に入ってからそれが解消された。第5に、皆からいい家ですねと羨ましがられることだ(笑)。

有村
  安さん邸の建築では、今後の韓国にふさわしい木造住宅を考える上で貴重な経験をさせてもらった。スギ、ヒノキの丸太伐採と製材は鹿児島でやった。建前までは鹿児島の大工を入れたが、韓国特有の赤土の瓦葺きなどは現地の大工と協働して行った。また、オンドルを設置するための床材の乾燥方法など、韓国側の意見を最大限尊重した。

コストダウンと商品性アップでさらに実績伸びる

  おりしも会談には、近くに住む安さんの友人夫婦が臨席していた。同じような木造住宅を建てたいという。しかし、予算が限られている。なんとか実現できないかとしきりと有村会長に相談していた。

遠藤
  乗用車に価格帯があるように、安さんタイプの木造住宅にもバリエーションがあっていい。普通のサラリーマンでも建てられるような、そんな家を提示する必要がある。

有村
  ご指摘のとおりだ。今後の私たちの取り組み課題だ。いかにコストダウンをして商品性の高い木造住宅を提供できるか。これに見通しがつけば、もっと建築棟数は増えると確信している。

『林政ニュース』第330号(2007(平成19)年12月5日発行)より)

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