見出し画像

商社が考える国産材ビジネス・日本製紙木材

国産材流通に商社が介在するケースが目立ち始めた。商社といえば、かつて海外森林資源開発と外材輸入を一手に引き受け、国内木材市場で圧倒的存在感を発揮してきた。その商社がなぜ今、国産材にシフトしているのか?
遠藤日雄・鹿児島大学教授が東京のJR王子駅前にある日本製紙木材(株)本社を訪ね、岩渕正廣・代表取締役社長と同社関東支店の成田勝夫・物流センター長(取締役)に、商社が国産材ビジネスに参入する狙いを聞いた。

外材輸入に3つのリスク、今年はさらに厳しい

  日本製紙木材の前身は、昭和45年創立の十条木材(株)である。平成14年に日本製紙グループの参加に入った。他の商社同様、外材を手がけて今日まで事業を拡大してきたが、ここにきて国産材の取扱量を急増させている。

遠藤教授
  外材を取り巻く状況がガラッと変わっている。

岩渕社長
  外材輸入には「3つのリスク」がある。第1はフレート(輸送費)リスクだ。木材の産地価格をフレートが上回るケースも出ている。第2は為替リスクだ。特にユーロ高は、日本国内の欧州材製材加工経営を圧迫している。第3はタイムラグリスクだ。欧州材の場合、発注してから日本に届くまで4~5か月を要する。発注時に4~5か月先の市況は読めない。

遠藤
  なるほど。3つのリスクを回避するために、国産材に目をつけたというわけか。

成田センター長
  今年は3つのリスクがさらに深まるだろう。今の原木価格では、欧米から日本向けに出荷しても採算はとれない。現に欧州の日本向け製材工場などは操業短縮をして在庫調整に懸命だ。価格交渉では、値上げに迫ってくるだろう。木材は完全に国際商品になり、景気がいい中近東のトルコや北アフリカに欧州材が流れている。
  米材もマイナーな存在になった。木代金とフレートが同じという状況下では、なかなか日本に持って来れない。それに船腹も足りない。現地の製品は高止まりしている。今年の前半は、外材を買っても売ってもどちらも厳しい状況になるだろう。それに対して、国産材の場合は、短期間で手に入り、為替リスクもない。

国産材の取扱シェア倍増へ、合板需要が牽引役

画像1

岩渕正廣社長

  岩渕社長は、今年の商況に関し、国産材への回帰ムード継続と地価上昇の沈静化を好材料とする一方で、新設住宅着工数の減少、住宅ローン審査の厳格化、ロシアの関税問題などを懸念材料にあげている。そして、日本製紙木材としては、国内山林経営に通じた認証材の供給拡大とチップ、バイオマスなどを含めた総合的な営業を展開する方針を打ち出している。

遠藤
  日本製紙木材の国産材取扱量はどのくらいか?

岩渕
  昨年の年間取扱量は約23万㎥、決算期ベースでは約28万㎥だが、もっと増やしたい。当社の総木材取扱量に占める国産材の割合は7%程度、粗利ベースでは10%程度だが、当面はこれを2倍にしたい。

遠藤
  国産材の取扱量を増やしているのはどういう地域か。

成田
  北海道、東北、吸収だ。とくに、合板工場への販売量が伸びている。北海道などでは、当社が立木を手当てして伐採し、低質材はチップにして親会社(日本製紙)に納入し、A材、B材は製材工場や合板工場に販売している。その際、「山から得たものは山に返す」ということで、広葉樹の山には広葉樹を植えることを計画している。

売り先曖昧な増産は危険、商社の機能変わる

遠藤
  国産材の取扱量を増やしてきて、どのような課題を感じているか。

岩渕
  まず、山元の増産体制がどこまで変えられるのかが気になる。林業労働者の確保や高性能林業機械化、路網整備などの進展ぶりをよく検証したい。
  次に、量的な増産はできても、市場のニーズに合った商品をいかに供給できるかという大きな問題が残っている。「新生産システム」(林野庁補助事業)などの支援策もあって、大型の国産材製材工場が増えているが、売り先をきちんと確保できているのか。販売ルートをきちんと確立しないで増産しても、国産材流通のパイプがどこかで詰まってしまう恐れがある。
  いわゆる「問屋はずし」による流通の短絡化やコスト削減がしばしば議論されるが、それだけでは市場ニーズには応えられない。今、何が求められているのかを十分に理解していない生産者がいきなり消費地で販売しても、不良債権を掴まされる結果にならないか心配だ。信用不安のリスクも考慮するならば、自分達がつくったモノをどこに頼んで売るのかをもっと突っ込んで検討する必要がある。

遠藤
  丸太の安定供給さえできれば外材に勝てるわけではなく、マーケティングカや商品開発力が問われる。

画像2

成田勝夫物流センター長

成田
  やはり一定規模以上のハウスメーカーやパワービルダーに販売していけるかがカギになる。このような需要先に国産材製品を買ってもらうには、精度や含水率、強度などに関する正確なデータを示して説明していくことが必要だ。こうした基本的なデータを、産地側で整えていただければ、それを元に我々はハウスメーカーやパワービルダーと交渉することができる。

遠藤
  木材流通の変革とともに商社の機能も変わってきている。

成田
  昔の流通と今の流通は全く違う。もう問屋に任せて売ってくれという時代ではない。プレカット工場やパワービルダーなどとタイアップして、需要ニーズにマッチした製品を供給する努力が不可欠だ。そこに商社としてどこまでかかわっていけるかが生命線になっている。
  私が勤務している物流センター(埼玉県北葛飾郡杉戸町深輪)は、3600坪の敷地があり、国産材製品のストック機能も果たせる。産地に行かなくても、このセンターに来てもらえればスムーズな商談ができることを、末端のユーザーにPRしてきたい。

遠藤
  物流センター自体でプレカット工場は持っているのか。

成田
  持っていない。しかし、車で30分も走れば、有力なプレカット工場があり、提携関係をつくっている。全国的にはプレカット工場が過剰になってきており、一昨年くらいから統廃合や倒産が出ている。これから力のある工場に集約化される可能性がある。こうした変化も見据えて事業展開をしていくことが重要だ。

国産材の海外輸出とラウンド輸送に挑む

画像3

遠藤日雄教授

遠藤
  これから国産材にかかわって、どのようなビジネスチャンスが出てくると考えているか。

岩渕
  山元からの出材量が増え続けると、日本国内のマーケットだけで受け止めきれるのかという問題が生じるだろう。確かに、国産材合板という大きなマーケットはできた。合板メーカーは今年、150万㎥くらいの国産材を消費するのではないか。しかし、それでも捌ききれないケースが出てくるかもしれない。だが、山元の生産体制を整備するためには、伐採などをストップさせることはできない。そこで、丸太にするか製品にするかは別にして、国産材を輸出することを本格的に検討している。スギやカラマツの原木価格は世界で一番安いのだから、十分競争力はある。
  もう1つ、国内の物流体制も変革したい。コストダウンのためにはラウンド輸送が有効だろう。産地から消費地に国産材を持ってきたら、帰り荷に何を運ぶかを考えるべきだ。例えば、製紙会社が多く立地する北海道から東京や大阪まで国産材を運んできたトラックや受や船は、帰り荷に古紙を積んでいってもいい。このようなラウンド輸送を全国で展開することにより、物流コストを低減して、少しでも多くの利益を山元に還元していきたい。

『林政ニュース』第335号(2008(平成20)年2月27日発行)より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?