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「日本の汚染水はトリチウムも含む他の核種もオールスターの排水」は不正確【ファクトチェック】

福島第一原発からの処理水の海洋放出に関して「トリチウム以外の核種も含むオールスターの排水」として、処理水の海洋放出に否定的な言説が拡散しました。含まれていることは事実ですが、トリチウム以外は国が安全と判断する基準を下回るように処理されていることを示しておらず、ミスリードで不正確です。


検証対象

「『他の国もトリチウム水を海洋放出している』みたいな悪質なごまかし」「日本の汚染水はトリチウム以外の核種も含まれている」などと処理水の海洋放出に否定的なツイートが拡散した。8月1日現在、表示回数が28万回以上、リツイート件数が1900件以上となっている。返信欄には、ツイート作者本人が「汚染された魚が確認されるようになれば、世界から忌み嫌われる国になる」「濾過施設を通しても他の核種は完全に取り除けないことは東電の報告でも確認できる」などの追記をしている。

コメント欄には「わかりやすくまとめていただいて感謝です」という声の一方で、「完全に取り除くことは原理的に不可能」との指摘もあった。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は投稿のうち、「日本の汚染水はトリチウム以外の核種も含まれている」について検証した。

検証対象のツイートで述べられている「排水・汚染水」とは、ALPS処理水を指していると見られる。「汚染水」とは、東日本大震災にともなう福島第一原発の事故とその後の対処の中で放射性物質によって汚染された水。「処理水」はトリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準まで取り除く多核種除去設備(ALPS)を使って浄化した水を指す。この違いは、JFCがファクトチェックまとめで解説している。

検証対象のツイートは「濾過施設を通しても(トリチウム以外の)他の核種は完全に取り除けないことは東電の報告でも確認できる」と、処理水にもトリチウム以外の放射性物質が含まれていることを指摘している。

東電の資料「多核種除去設備の除去対象核種選定(2021年6月16日)」によると、ALPSが除去する対象であるトリチウムを除く62の放射性物質は、56の核分裂生成物(核分裂により生成されたもの)と6つの腐食生成物(原子炉冷却系などで使用している金属が放射化されたもの)からなる。

環境省はサイトで、放射性物質の安全基準「告示濃度限度」を「1種類の放射性物質が含まれる水を、生まれてから70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1mSv に達する濃度の限度」と説明している

また複数の放射性物質の影響が考えられる場合には、「廃棄物中に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して『告示濃度比総和』という考え方が用いられ、この告示濃度比総和が『1』を下回るように規制される」とも説明している。

ALPS 処理水においては、トリチウム以外の告示濃度比総和が、安全であるとみなされる基準値である「1」を下回るように処理されることが東電の試験によって示されている。

さらに環境省は「ALPS等で取り除くことが難しいトリチウムについても、それ自身を含むすべての放射性物質の告示濃度比を1未満にするために、濃度を下げるための希釈(海水で100倍以上に希釈)が行われます。これは、ALPS処理水中の規制基準以下のトリチウム以外の核種をさらに100倍以上希釈することにつながるため、より安全性を確保できるようになります」と説明している。

判定

処理水にトリチウム以外の核種も含まれているのは事実だが、国が安全と判断する基準以下に処理されている。拡散した言説は安全性に関する情報に触れておらずミスリードで不正確。

検証:鈴木刀磨
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔、野上英文

福島第一原発の処理水に関しては、こちらの【ファクトチェックまとめ】もご参照ください。


検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

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