「北朝鮮軍がアメリカ人気バンドの曲を演奏」は誤り【ファクトチェック】

北朝鮮軍がアメリカの人気バンド「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン」の曲を合唱しているように見える動画が拡散しています。気づいている人も多いですが、これは本物ではありません。ネタ動画で有名なアカウントが作成したものです。

拡散した動画

検証対象

2022年8月29日に投稿されたYouTube動画で題名を訳すと「北朝鮮合唱団が歌うKilling In The Name（貴重映像）」。ソーシャルメディアで日本を含む世界中で拡散している。
Killing In The Name Performed By The North Korean Military Chorus (Rare Footage)

ソーシャル投稿を見ると、多くの人は本物ではなくてネタ投稿だと気づいているが、「これまじか？」「北朝鮮がレイジ」など、明確に偽物だとはわからない人もいるようだ。

検証過程

この動画を元にNorth Korean Military Chorusを検索してみると、元映像らしきものが見つかる。題名や説明には北朝鮮の合唱団が金日成主席の生誕105周年祈念パレードで歌ったとあり、この映像の3分50秒あたりからが検証対象の映像と一致するが、音楽は全く異なる。

Performance of the State Merited Chorus for Participants of Military Parade

次に音声をKilling In The Name Orchestraで検索すると、1000人以上が参加した大編成のロック・バンドがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン「Killing In The Name」をカバーした公式ライヴ映像が見つかる。

Killing In The Name - Rage Against The Machine / Rockin'1000 in Frankfurt

音声編集ソフトで、検証対象の動画の音声と比べてみると、冒頭部分から一致していることが分かる。

Audacityで音声を比較した画像

判定

よって、これらの動画を組み合わせて作られたネタ動画であることがわかる。北朝鮮軍がレイジを演奏、というのは誤り。

あとがき

ネタ投稿は大切なネット文化で、世界中で多くの人が楽しんでいます。この検証対象の動画を投稿したアカウントも、様々なネタ動画を投稿し、多数のフォロワーがいます。

一方でネタ投稿を「事実」と誤解する人もいます。日本で人気の虚構新聞のネタを信じてしまう人がいるのも、その例です。

アメリカでは近年、世の中の鳥は実はドローンで人々を監視していると訴える「Birds aren't real(鳥は本物じゃない)」運動が陰謀論のパロディながらも広く拡散しました。ネタも作り込むと虚実のはざまが曖昧になります。

日本ファクトチェックセンター（JFC）はネタ投稿を否定しません。ネタ投稿を楽しみながら、ときには「これって本当？」という疑問にも応えていきたいと思います。

検証：JFCリサーチチーム
編集：古田大輔

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修正

見出しの「ネタ動画」を「誤り」に修正しました。(2023年3月29日)

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日本ファクトチェックセンター（JFC）の検証に関する指針や判定基準の詳細はこちらを御覧ください→ JFCファクトチェック指針

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