Magic: The Gatheringのハウスルール「マネドラ」を紹介します

Magic: The Gatheringには様々なハウスルール(ローカルルール)があります。後に「統率者戦」になるElder Dragon Highlander(EDH)に代表されるように、ハウスルールは勝敗よりも、仲間内で楽しく遊ぶことを重視するものが多いですが、勝敗を競うことを重視するルールもあります。

そのうちの1つがチーム・ドラフトの一種「マネドラ」です。マネドラは20年以上の歴史を持つハウスルールで、一部の競技志向のプレイヤーから熱烈に支持されていますが、インターネットには情報が少なく、先日M:TG Wikiに事実と異なる内容が書かれているのを見つけたため、マネドラとは何かここに記しておきます。

マネドラとは何か?

マネドラとは主に2対2、もしくは3対3で行われるチーム・ドラフトの一種です。各プレイヤーはチームメイトと隣り合わないように席に座り、ブースタードラフトを行います(2対2のときは、A1 → B1 → A2 → B2 → A1と輪になります)。

ドラフトが終わったら、チームごとに集まってピックしたカードを見せ合ったり、相談しながらデッキを構築します。構築後は対戦相手のチームと総当たりでBO3の試合を行い、チームの勝利マッチ数を競います。

マネドラを2対2で行った場合マッチ数は合計4マッチになるため、両チーム2勝2敗になることがあります。このときは、各チームの代表者が再度試合を行い、勝利チームを決めます(この試合を「代表戦」と呼びます)。

実はチーム・ドラフトは公式サイトにも掲載されているフォーマットで、公式サイトの記述はおおむね正確です。

注意すべきポイントは、「3人のうち2人がマッチに勝利したチームが勝利チームとなる」「各チームのプレイヤーが総当りして全9回戦のうち5勝したチームが勝利としても良いかもしれません」は後者が選択されることが多いことと、日本語ページには明記されていませんが「ドラフト中はチームメイトと意思疎通してはいけない」ことです。

なお、M:TG Wikiには2022年6月2日時点で、「ピックしたカードは仲間とやり取りできるのが普通」「仲間同士でカードをやり取りできる」と書かれていますが、これは少なくとも筆者の観測範囲では事実と異なります。
そのようなルールで「マネドラ」を行っていたコミュニティが存在する可能性は否定できませんが、カードのやり取りを可能にするとチーム・ドラフトのゲーム性が成立しませんし、カードのやり取りが不可能な「マネドラ」と類似のルールが公式サイトに掲載されていることからも、「カードのやり取り」は一般的とは言えません。

マネドラの由来は?

筆者が「マネドラ」を知ったのは、インベイジョン・ブロック(2000 - 2001)のころで、当時盛んにマネドラを行っていた人たちから話を聞くと、どうやらマスクス・ブロック(1999 - 2000)のころに、海外のプレイヤーから伝わった遊び方であるようでした。

「マネードラフト」「マネドラ」の由来は英語の"Money Draft"で、この名称も遊び方と同時に海外から伝わっています。海外のプレイヤーがチーム・ドラフトのことをMoney Draftと呼んでいたり、海外のプレイヤーが現金を賭けてチーム・ドラフトをしていたことを示すテキストはいくつか存在しており、「マネドラ」の由来が海外の"Money Draft"であることはほぼ間違いないでしょう。

ちなみに、国内において「マネドラ」はルールのみを指す用語としても使われていたため、マネドラがお金を賭けて行われるとは限りません。また、負けたチームがドラフトに使ったパック代を負担するのみのケースは「一時の娯楽に供する物」である可能性が高いのではないかと思います(非専門家である筆者個人の見解です)。

マネドラの特徴

マネドラを好む人は、通常のブースタードラフトよりマネドラの方が「競技性が高い」と思っている傾向にあります。通常のブースタードラフトでは、同卓する自分以外のプレイヤー7人のうち、対戦相手になるのは3人だけです。そのため、ほかのプレイヤーのデッキを弱くする意味は薄く、近隣のプレイヤーと協調してデッキを強くすることが重要になります。

一方マネドラは、両隣のプレイヤーは確実に敵なので、自分のデッキが多少弱くなってでも両隣のプレイヤーを弱くする行為が正当化されやすいという特徴があります。

対戦相手に強力なカードを渡さないためにピックすることを「カット」と言います。また、味方に渡すためにカードを流すことを「トス」と言います。

ここで重要なのは、対戦相手のピックを正確に予測することです。対戦相手がピックしている色やアーキタイプを誤認するとカットすべきかの判断に影響するため、対戦相手の動向を把握することが重要になります。

本題とは逸れますが、マネドラとは直接関係ないもののマネドラにおいて重要だった知識に「ソート」があります。Magic: The Gatheringのカードパックのカードには、印刷時の裁断前シートの配列に起因する出現規則があり、この出現規則を覚えることで上流のプレイヤーがピックしたカードを把握できるテクニックがありました(規則の複雑化によってこのテクニックは今はほぼ無効化されています)。

プレイヤーがシートの配列(ソート表)を把握してドラフトに活用するのと同様に、開発チームもソート表をゲームデザインの範疇に含めており、強いカードや同じ色のカードが同時に出現しすぎないような配慮がなされており、Magic Onlineでもこの出現規則は再現されています。

これを覚えていると、1-2でコモンが抜けた状態で「セレズニアの福音者」と「よろめく殻」が流れてきたときに上家が「現実からの剥離」を取ったことが分かる。

話を戻すと、前述の「ドラフト中はチームメイトと意思疎通してはいけない」は、マネドラの競技性の根幹を成しています。マネドラ式のチーム・ドラフトが公式大会のフォーマットとして選ばれず、チーム・ロチェスターや双頭巨人戦ブースター・ドラフトなどが選ばれていたのは、チームメイトとの「通し」を防止しにくいという事情があるのかもしれません。

また、カットが必要ということは自分が使ってない色やアーキタイプのカードをピックする機会が増えるため、色替えや多色化の判断に悩まされる機会も多く、またデッキパワーの平均値が低くなるため、通常のドラフトよりも弱いカード(幅広いカード)が使われやすくなります。

マネドラの文化

このように、意思決定の機会が通常のドラフトよりも多く、デッキやカードも多様になりやすいことから、マネドラは一部の競技志向のプレイヤーに好まれています。競技大会でプレイする機会はないのに競技志向のプレイヤーに人気という不思議なルールがマネドラです。「ドラフト」がマネドラを指しているコミュニティも少なくありません。

元々ブースタードラフトは8人集まらなければプレイできず、お金もかかるため、プレイのハードルが高いフォーマットです。マネドラは4人揃えばプレイできるため、ブースタードラフトを頻繁にやりたい人たちにとっては好都合で、多くのドラフトフリークがマネドラに傾倒したのは自然な流れです。

また、マネドラが日本で普及しだしたタイミングにリリースされたインベイジョンは、ウルザ・ブロックにおける禁止カードの多発に反省したWizards of the Coastが開発体制を刷新してリリースした最初のカードセットであり、リミテッド用のカードセットとしても画期的に高い完成度を誇っていました(ついでに多色環境だったため、チーム・ドラフトに向いていました)。インベイジョン環境の面白さが、マネドラやドラフトの需要の後押しになっていたのかもしれません。

マネドラ愛好家は10人に満たない小グループを形成し、週に何度も(人によっては毎日)拠点に集ってマネドラを行っていました。このようなグループが00年代前半の東京には複数あったはずです。ブースタードラフトにはカードセットを問わず通用する普遍的なノウハウがあり、マネドラはそのノウハウを集中的に学べる環境だったため、リミテッドフォーマットで活躍したプレイヤーの多くは、マネドラで得たノウハウの蓄積を活用していました。

マネドラがインターネット上にあまり情報のないハウスルールであるにも関わらず、古くからのトーナメントプレイヤーに幅広く認知されているのは、それが練習方法として優れているからであり、トーナメントプレイヤーの共通言語、そしてコミュニティの主要な活動になっているからです。

かつて熱心に競技大会に参加していた人たちが、久しぶりに友人とMagic: The Gatheringで遊ぶときに行うのはマネドラであることが多く、筆者も年に1、2回ほどマネドラの会に参加しています。マネドラは久しぶりに復帰しても遊べるという点で、カジュアルプレイヤーにとっての統率者戦に近い存在になっています。

これは偏見ですがマネドラを好む人は統率者戦を嫌う傾向にあり、筆者も統率者戦は好きではありません。マネドラは競技環境を追いかけ続けることを辞めたあとも人と戦うことは辞められない人がたどり着く、ユートピア兼コロセウムです。

マネドラのすすめ

このように書くと、殺伐とした敷居の高い遊び方に感じるかもしれませんが、実際にはマネドラはルール自体が競技志向なだけで、プレイ環境は和気あいあいとしたものが多いです。何と言ってもこれはEDHと同じく、友達と遊ぶためのハウスルールなのです。

復帰勢にも優しく、友人の輪を作れ、リミテッドの練習にも最適なマネドラは、恐らくMagic: The Gathering(のドラフト・ブースターという製品)がなくならない限り、なくならない遊び方でしょう。たまに仲間内で遊びたいけどデッキは持ってないし、統率者戦は目的が曖昧で好きじゃないなという方は是非プレイしてはいかがでしょうか。

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