デジタルゲームの「カード」の意味を考える

多くのゲームに「カード」が登場します。このうち、デジタルカードゲーム(DCG)は、紙のカードを使ったトレーディングカードゲーム(TCG)とゲームシステムが近いため、TCGを連想させるために「カード」という表現を用いています。DCGの「カード」は実際にはカードではなく、ゲームシステムを説明するための演出・比喩表現です。

しかし、TCGとは似ても似つかない多くのゲーム…例えば神撃のバハムートなどの「カードバトルRPG」にも「カード」が登場します。このカードという表現にはどのような機能があるのでしょうか。

まず実物のカードが持つ特徴を考えてみます。

1 小さな四角い紙。特に、ある規格に従ってそろえたものをいう。「単語カード」「蔵書カード」「クリスマスカード」

2 トランプ。また、その札。「カードを切る」

3 (2の手札になぞらえ)交渉や駆け引きなどで用いる切り札としての手段・方法。「外交カード」「選手交代のカードを使い切る」

デジタル大辞泉(小学館)
https://dictionary.goo.ne.jp/word/カード/

「小さな四角い紙」の特徴は、

・薄い
・表面と裏面がある

の2点です。

「薄い」は重要な特性で、持ち運びのしやすさから取引や保管・コレクションに適しています。(そのため貨幣には薄いものが用いられます)

つまりカードは「取引」「コレクション」に向いています。取引のイメージは、消費する・何かと引き換えにすることを連想させます。

また、「表と裏」は「情報の非対称性・秘匿性」を意味します。さらに、薄いものはシャッフルすることが容易なので、表裏による秘匿性と組み合わさると「ランダム性」を容易に作り出せます。

こうしてカードが持つ機能4つ、

・取引、消費
・コレクション
・情報の秘匿
・ランダム性

を抽出することができました。TCGはこれら4つの機能を全て用いています。

取引はまさに「トレーディング」です。またゲームプレイにおいてもカードと何らかの効果を引き換えにします。コレクション(カードの収集)もTCGにはなくてはならない要素です。

情報の秘匿は非公開の手札、ランダム性は山札のランダム性です。TCG・DCGの重要な特徴はすべて、カードの持つ物理的な特性によって生み出されています。

それでは、DCG以外のデジタルゲームを見ていきましょう。まず、神撃のバハムートを見ると、「取引」「コレクション」の要素がありました。「カードバトルRPG」のキャラクターがカードに「されていた」のは、キャラクターを売買したり、大量に収集することを自然に見せるためだったと思われます。

昨今の携帯電話・スマートフォンRPGのキャラクターがカードではなくなっているのは、取引機能がなくなったり、大量のキャラクターを集めるよりも欲しい・重要なキャラクターを獲得することにプレイヤーの注目が集まった影響があるのかもしれません。

「クラッシュ・ロワイヤル」のユニットやスペルも「カード」ですが、これは行動の待ち時間(クールダウン)を「消費」と順序の「ランダム性」の組み合わせで実装しているため、山札のモチーフが最適です。また、試合の外では同じカードを集めてカードのレベルを上げるため、コレクションの要素も用いています。
(同じキャラクターを200体集めてレベルアップ…という表現はしっくり来ません。カードを用いないゲームにおいても、キャラクターの「ソウル」などの表現が用いられます)

「カード」の表現で私が画期的だと思うものは、東方Projectの「スペルカード」です。

スペルカードはカードの「消費」イメージを回数制限のある必殺技に飛躍させています。(つまり、「交渉や駆け引きなどで用いる切り札としての手段・方法」の比喩と近い用法です)

シューティングゲームの難しい局面が「カード」になったことで、コレクションのイメージも利用できるようになりました。スペルカード「取得」のシステムには、ゲームプレイを局面ごとに分割し、練習を容易にしたりゲームの目標を増やす効果があります。

スペルカードという「発明」が、キャラクターの特徴づけや、場面の話題にしやすさに寄与し、東方のブームにつながったことはよく指摘されていますが、ゲームプレイに与える影響のみを見ても、大きな発明と言えるでしょう。

このように「カード」と呼ばれるオブジェクトは、カードの物理的な特性から連想される概念を連想させるために、カードという表現を用いています。逆に、カードの特性にそぐわない特徴を持つ概念やオブジェクトは、カードとは呼ばれません。

例えば、オートチェスのユニットは、購入後は公開され、大量にコレクションするわけでもありません。また、自律的に移動し、動作するのもカードのイメージとは程遠いです。一方、アナログゲームによく用いられるコンポーネントの「駒」は情報の秘匿性がなく、頻繁に移動を行います。オートチェスのユニットはカードより駒が相応しいです。

こう考えたとき、オートチェスのユニットは購入後は「駒」的な特徴を持っていますが、購入前はランダム性があり、移動しません。売買も配置される前の方が遥かに頻繁にされます。この点、TFTのUIは購入画面のみカード状の表現がされているのも興味深く思います。

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