Activision Blizzardの買収とかメタバースとかについての感想

時期を少し逸しましたが、MicrosoftのActivision Blizzard買収について感想を書きます。

まず注目されるのはXbox Game Passの取り扱いタイトル拡大による、ゲーム市場のサブスクリプションモデルへの転換です。いまの売り切り型のゲーム市場が映画やドラマのNetflix・Amazon・Disneyの争いのようなラインナップ勝負に変化するかと言うと、筆者は変化しないと思っています。

サブスクリプションの会員を増やすには、より多くのユーザーを長期間留める必要があり、多くの時間を要求する必要があります。売り切り型のゲームは課金が購入時に発生するため、プレイヤーさえ満足すれば遊べる時間がどんなに短くても構いませんし、数十時間遊べればおおむね満足されている現状があります。

つまり多くの売り切り型ゲームは、数十時間のプレイに最適化されています。そのため、ユーザーを囲い込む目的だけを考えると、大半の売り切り型ゲームは効率の良い方法ではありません。より多くのユーザーを長期間囲い込もうとするとき、効率的なのは50時間遊べるゲームの数を増やすことではなく、10000時間遊べるゲームを作ることです。

確かにXbox Game Passはお得に見えますが、今は非常に高品質なゲームが一生遊びきれないくらい無料で手に入る時代です。その中において多くの人がスマホでひたすら同じボタンをタップし続けています。「高品質」なゲームは人間の時間の奪い合いに勝てていないのです。

自分は映像制作には詳しくないのですが、Netflixのような戦略が成立するのは10000時間見続けられる映像が存在しないからではないでしょうか?ゲームは10000時間プレイできるタイトルを作ることが現実的なので、サブスクリプションは数十時間のゲームの数を揃える戦略よりも、10000時間遊べる単一のゲームの方が有利だと思いますし、イカゲームのようなサブスクリプションサービスに提供するためのゲームを制作するのは、経済合理性がないように感じます。
売り切り型ゲーム、月額課金のゲーム、F2Pのスマホゲーム、広告収入のハイパーカジュアルを比較しても明らかなように、あらゆるコンテンツの形態は収益を上げる方法に従属するのです。

短期的にはXbox Game Passに提供される新作AAAタイトルが現れるかもしれませんが、メーカーに十分な対価が支払われないとか、逆に投資に見合うほど会員数が伸びないなどの理由で淘汰されるでしょう。

個人的にはサブスクリプションのゲームは10000時間の単一のゲームか、あるいは逆に1分しか要求しない無数のゲーム、つまりインストール不要になったハイパーカジュアルゲームのネットワークに収斂すると予想しています。
数十時間単位のゲームの需要も変わらずあるため、売り切り型のゲームはこれまで通り販売され、時間が経ったものの一部がサブスクリプションサービスに提供されるという従来の構造に「当面」大きな変化はないと見ています。

そんなわけで、自分は単に取り扱いタイトルが増えることでサブスクリプションモデルが支配的になるとは全く思っていないのですが、Activision Blizzardの買収やXbox Game Passには別の可能性を見出しています。ここで話は少し飛びますが、Facebookがメタバースを重視している理由について説明します。

FacebookやGoogleがどうやって収益をあげている企業なのかと言えば、一言で言うなら「ユーザーの過去の行動から、未来の行動を予測し、誘導すること」です。膨大な行動データを集積し、分析することでユーザーの行動の傾向を把握し、例えば、ユーザーの関心に合わせたコンテンツを表示したり、広告の配信を効率化することで、サービスの魅力の面でも収益化の面でも競合に対して圧倒的な優位性を築くことができます。

すなわち、FacebookやGoogleの収益の源はユーザーの行動データなので、自社の目の届く範囲と人間の行動範囲が一致していることが望ましいと言えます。Google Car、Apple Watchの生体センサー、Amazon Echoなど巨大IT企業が物理空間に進出してデータ化することと、メタバースサービスを拡大して人間をサイバー空間に誘致することは、どちらも同一の目的に沿っています。

この中で、GoogleやFacebookの目が届かず、かつ利用者の数も内部の行動の数も膨大で、今後も成長しそうな空間が、ゲームの中です。GoogleやFacebookからすれば、人間がFF14やMinecraftのような自社の目の届かないサイバー空間に引きこもると困ったことになります。
また、人間的なAIの開発は非常に将来性のある分野ですが、人間の精神活動は感覚器官からの入力に対応しているため、人間の脳と身体と外部世界がセットで存在しているのと同様に、AIにはAIを取り巻くサイバー空間が必要になります。

人間の行動の傾向を理解することや、人間的なAIの開発には「ゲーム」が重要で、大手ICT企業はこの領域を失ってはならないのです。

この観点では、Xbox Game Passがクラウド(Xbox Cloud Gaming)に対応していることに大きな意味があります。先ほどゲームの中を「目が届かず(中略)今後も成長しそうな空間」と述べましたが、ゲームがクラウドサービスになるとプレイヤーの操作はすべてサーバーに送信されるため、プレイヤーのゲーム内の行動をプラットフォームがすべて把握できる可能性が潜在的に生じます。これはメタバースなどと呼ばれているサイバー空間に人間を誘致するのと、同じ効果があります。(というより同じことをやっています)

プレイヤーの行動データの集積は、今後のゲームの開発に強い威力を持つでしょうし、ユーザーのゲームの選択ではなく、ゲーム内部の行動に応じたレコメンドシステムも可能になるでしょう。ゲームのプレイの仕方にはゲームの好みや性格が現れることは、経験的には間違いなさそうですし、実際にパーソナリティとゲームの好みを調査した研究もあります。

さらに言えば、ゲームの世界でいま注目されている自動生成と組み合わさることで、プレイヤーの好むゲーム内のコンテンツや体験を作り出すことも可能かもしれません。卑近な例で言えば、恋愛ゲームをプレイするすべてのプレイヤーの行動を追跡すれば、あるプレイヤーに「刺さる」キャラクターは自動的に生成できるようになる可能性が高いです。

従来のゲームコンテンツの大部分が自動生成できるようになれば、あとに残る価値として「誰々がつくった」「誰々が演じている」「ほかの人と同じ話題で楽しみたい」など現実世界の関係性がよりクローズアップされることになるので、個人的な予想として2、30年くらいのスパンではゲームの世界は自動生成とユーザー生成コンテンツ(UGC)が支配的になるのではないかと思っています。

UGCに関連して思っていることですが、従来の売り切り型のゲームがサブスクリプションに重要な役割を果たすとすれば、むしろ1つの巨大な運用型ゲームが主になって、ほかのタイトルを飲み込む形があり得るかもしれません。
FF14の吉田さんが「過去のFFを14内で遊べるようにしてほしい」という要望に興味を示している映像がありましたが、特定のサービスにゲームを直接組み込む以外にも、例えばゲーム内の3DモデルなどのアセットをRobloxやVRChatなどのサービスで流用可能にするという形もあり得ます。

アセットだけでなく、ゲームの一部分を切り取って改変した上で自らのUGCに組み込むことができれば、公開されるゲームはすべて素材として再利用されることになります。こうなると、ゲームスタジオのゲームを開発する機能だけでなく、ゲームの素材を供給する機能にも需要が生じます。何と言っても、最も「楽しい」サイバー空間やサイバー空間上の体験を作ることができるのは、現時点ではゲームデザイナーなのです。

Activision Blizzardの買収に関するMicrosoftのリリースにも"will provide building blocks for the metaverse."という文言があり、Activision BlizzardのIPやアセットをUGCの構成要素として扱う想定をすでにしている印象も受けます。将来的にはこのように「タイトル」という垣根自体が融解していくイメージをふんわりと抱いています。

ここまで、感想や空想を重ねた文章を書いてきましたが、ビデオゲームが商業的に成立してから長く見積もってもせいぜい50年程度しか経過しておらず、自分が死ぬときを自分のとってのビデオゲームの歴史の終わりとするなら、まだ折り返しにも来てない可能性が高いです。今後ビデオゲームがどんな変化を遂げるか分かりませんが、2022年の段階ではこう思っていたという資料として文章を残しておきます。

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