スマーフ・ブースティング問題の整理

VALORANTで「スマーフ問題」が盛り上がっており、違和感を覚える議論や報道が散見されるので、整理してみます。

なぜ問題なのか?

この記事では「スマーフ」を「サブアカウントを作成して、メインアカウントより低いランクでランクマッチを行うこと」と定義します。そもそもスマーフがなぜ問題なのか?ランクシステムの持つ機能を確認してみましょう。うってつけの記事を2週間前に書いていました。

ランクマッチの機能は、

・強さを公平に評価して、他者に開示すること
・ランクが上がる喜びや、ランクによる報酬によってプレイを促進すること
・マッチメイキングを適切に行うこと

の3つがあります。

スマーフ単体で見たとき、悪い影響を与えるのは3番目の「マッチメイキング」のみです。では、スマーフ、つまりサブアカウントの利用はどのようなものでも等しく批判されているのか?巷の議論を見てみると、必ずしもそうとは言えなさそうです。

(つまり、「スマーフのような初心者狩りを許容するとタイトルが衰退する」という論は、サブアカウントでのプレイ全般が槍玉に上がっているわけではないため、多くの人にとって批判の「動機」ではなく「手段」ではないか?と述べています)

批判が盛り上がっているのは、あるプレイヤーがスマーフと組んでランクマッチを行うことで、実力以上にランクが引き上げられたときのようです。このとき「強さの公平な評価」も脅かされますし、報酬があるならば不正に取得したことになります。

多くの人が怒っているのは「強さの公平な評価」の部分でしょう。ランクが強さの証明になる、ランクに権威があるから、多くの人は頑張ってランクを上げている。ランクの権威が脅かされれれば、多くの人の努力の価値も脅かされてしまう。プレイヤーが怒るのも無理はありません。

余談ですが、本当に「初心者狩り」の問題のみに着目したとき、ランクマッチ「以外」のゲームモードのプレイに必ずしも問題がないとは言えません。

可視化されるランクと、マッチメイキングに使われる値(MMR)が別々に存在しているタイトルがあり、ランクマッチ「以外」のモードにおいても何らかのMMRが働いている可能性があるからです。ランクマッチ以外のモードが初心者に人気の傾向があることからも、ランクマッチを回避すれば初心者狩りの問題を回避できるかは、マッチメイキングのアルゴリズムを確認しないと分かりません。

どのような行為が問題なのか?

ここでスマーフのパターンを分類し、どの行為がなぜ問題なのか検討してみましょう。

A:サブアカウントを作成して、1人でプレイする
B:サブアカウントを作成して、低ランクの人とプレイする
C:サブアカウントを作成して、低ランクの人と、低ランクの人のランクを引き上げる目的でプレイする

Aは「マッチメイキング」に悪影響を与え、
Bは結果的に「強さの公平な評価」にも悪影響を与える可能性があり、
Cは「強さの公平な評価」に悪影響を与えます。

BとCは外形的には全く見分けがつきません。こんなものを区別して記載する必要があるのか…わざわざ区別している理由は、VALORANTの運営がBとCを区別して考えているからです。

Riotはどう考えているのか?

スマーフはいつでも許せないもので、特に自分のランクがかかる試合ではなおさらです。基本プレイ無料のゲームでスマーフを完全に廃止することは難しいですが、私たちも対策は行っています。現時点ではアンレートの内部システムと、アイアンからダイヤモンドまでのランクのプレイヤーに適用される内部システムが存在します。後者では個人のパフォーマンスを記録して、プレイヤーが試合で大きくかけ離れた活躍を見せた場合はそれを検出します。そして素早くランクを上げて、コンペティティブのより高いランクで、より難易度の高いマッチを組むようにしています。

ASK VALORANT #10
https://playvalorant.com/ja-jp/news/dev/ask-valorant-10/

2020年10月の時点で、スマーフは不快だが完全に解除することは不可能で、マッチングメイキングのアルゴリズムによる緩和が優先される旨が述べられています。

例えば、スマーフの大半は悪意によるものではなく、ランクの離れたフレンドとランク戦をプレイしようとしているのだということが分かっています。一方で、少数とはいえ悪意を持ってスマーフを行うプレイヤーがいることも確かです。

スマーフ対策のカギは、単にペナルティーを与えるのではなく、悪意のないプレイヤーがスマーフをしなくても済むように、VALORANTのプレイ環境を整えることだと考えています。まずは、こうした悪意のないスマーフに対する解決策や緩和措置を講じたうえで、残りの「悪意のあるプレイヤー」に対し、VALORANTからの追放も視野に入れた厳しい処分を科していくつもりです。

ASK VALORANT - 5月7日
https://playvalorant.com/ja-jp/news/dev/ask-valorant-may-6/

2021年5月には、「悪意」によるものと、よらないものにスマーフが分けられ、「B:サブアカウントを作成して、低ランクの人とプレイする」は悪意のないスマーフに分類されています。注目したいのはRiotが明らかに「ランクの離れたフレンドとランク戦をプレイしようとしている」こと自体を咎めるつもりがないことです。

運営会社の立場からすればこれは十分に理解できます。運営会社はゲームをプレイしてほしく、さらにプレイヤー同士の関係が深まってほしい。多くの人が一緒にランク戦を行うこと自体は、Riotの立場では望ましい事です。Riotは「B」のスマーフの問題を、実行者ではなくゲームシステム側の問題と認識しています。

さて、今回の問題を見てみましょう。

この声明を見ると、明らかに「ランクを上げる行為」を問題視しています。Riotは、「B:サブアカウントを作成して、低ランクの人とプレイする」は現状のゲームシステム下においては消極的とはいえ容認したいが、その濫用によって「C:サブアカウントを作成して、低ランクの人と、低ランクの人のランクを引き上げる目的でプレイする」が行われるのは望ましくない、と考えている可能性が高いです(あるいはRiot内部に見解の不一致があります)。

この「目的」が外部から分からない、つまり「B」と「C」の見分けがつかないために、明確な対応が難しくなっています。「B」を一律に禁じるのは厳しすぎる、あるいは実効性がないためやりたくない、しかし問題ないと明示してしまうと「C」が蔓延ってしまう…この種の「常識の範囲でやって欲しい」問題は、運営会社に難しい判断や繊細なコミュニケーションが求められることが多いです。

どうすればいいのか?

はっきり言って「常識の範囲」でやってれば問題なかったのですが、炎上案件になってしまうと際限なく燃える範囲が広がるため、運営会社がどこかに防火壁を設置して、燃やすところと燃やさないところを決める必要があります。

「スマーフはタイトルにとって悪なのだから全て許さないべき」というBもCも燃やす派の人は、実力に差があると一緒に遊べないタイトルが流行るかどうかも想像すべきです。Riotの「B」の許容の方針にはプレイ人口拡大の観点からある程度妥当な面があります。

個人的にはRiotは「B」と「C」の区別を明示した上で、プロプレイヤーやインフルエンサーに対して「モラル」の向上を呼び掛けるべきだったと思います。丁寧にコミュニケーションを取れば、「B」を燃やさずに「C」を燃やすことは可能だったのではないかと思います。

重要なことは「B」も「C」もこれまでルールとしては一切禁じられてなく、「B」に関してはコミュニティ内の見解も定まっていなかった点です。今回の炎上をきっかけに遡及的に炎上が広がることは、特に「B」に関してはアンフェアで、何でもかんでも燃やす前に、何が問題なのかコミュニティ内で議論を深めるべきです。

その観点で言えばCrazy Raccoonの「処分」は厳しすぎる上に、「モラル違反」の意味が分からないため、コミュニティにいい影響を与えるとは思えません。実はLeague of Legendsでも2年前に全く同種の問題が起きており、何が悪かったのか分からない謝罪が行われています。このとき、Riotが問題を明確化できなかったことが、今回の炎上の背景にあります。

ちなみに筆者はこのときkatsudionさんは謝るべきではないし、Riot側が何らかの幕引きをすべきと思っていました。サブアカウントとのランクマッチを「悪」と定義することには、特にRiotの関係者は慎重になるべきと思います。(逆に「悪」と定義するなら明示すべきです)

「ブースティング」の誤用について

今回、私が一番問題だと思っていることは、ゲームメディアが何もかも燃やす風潮を煽っていることです。

この中で見られるのは「ブースティング」の誤用です。

「スマーフやブースティングといった、サブアカウントを用いた適性ランクを逸脱したプレイング」

とありますが、Riotはスマーフ問題において「ブースティング」という用語を一切用いていません。またVALORANTのサポートページには、「ランクのブースティング、アカウント売買、プロフィールの共有…これらはすべて利用規約に反する行為です。」という記載があり、Automatonの

そもそも「スマーフ行為・ブースティング行為」はゲームの規約違反となるのだろうか。Riot Gamesは今回の騒動に関して「弊社のサービス規約に違反するものではないものの、不適切であるものと認識しており推奨しておりません」としている。

は明確に誤っています。

「弊社のサービス規約に違反するものではない」から分かるように、Riotはこの問題をブースティングだと捉えていません。

Riotの定義ではブースティングはアカウントの共有を伴うものです。League of Legendsのサポートページには定義が明記されており、VALORANTのサポートページにおいても、アカウントの保護の文脈でブースティングが取り扱われています。

MMR ブースティングとは?
MMR(マッチメイキングレート) ブースティング(または ELO ブースティング)とは、ランク戦をプレイするために他のプレイヤーのアカウントにログインし、対戦をする行為のことです。

MMR / ELO ブースティング
https://support-leagueoflegends.riotgames.com/hc/ja/articles/201751834

また、Game*Sparkはブースティングの定義に幅を持たせていますが、Riotの定義と異なるブースティングの定義を用いていることには変わりありません。

そして、「ブースティング」には複数の方法があるが、今回は「アカウントのレートを、第三者の高レートを用いて不当に上げる」行為を意味する。

スマーフ/ブースティングは悪なのか?問われる『VALORANT』コミュニティのモラル【コラム】
https://www.gamespark.jp/article/2021/09/30/112241.html

確かにコミュニティにおいて、「ブースティング」が「スマーフとプレイすることによりランクを上げる行為」も含んで使われがちなことは事実ですが、元来の「ブースティング」はチート行為に類するものです。利用規約上問題ない行為を、運営会社の定義に反して、チート行為と同じラベリングで語ることは、ゲームメディアの報道として問題があります。

(特にGame*Sparkは韓国における違法性に言及しており、元来の「ブースティング」の悪質さを利用して、誤用された「ブースティング」の悪質なイメージを補強しています)

繰り返しになりますが、スマーフ問題は問題の明確化や繊細なコミュニケーションが求められる問題で、ただ燃やすだけでは問題は解決しないか、あるいはコミュニティが望ましくない方向に向かう可能性があります。

ゲームメディアには曖昧な用語定義やモラル論においてコミュニティの大勢に追随するのではなく、議論が深まるような報道を期待したいと思います。

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