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ゲームデザイン

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ゲームデザインに関する記事
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記事一覧

Magic: The Gatheringのリミテッドが初心者に向いていない理由

Magic: The Gatheringの初心者に対して、ブースタードラフトやシールドなどのリミテッドフォーマットを勧めるべきという主張をたまに目にします。 筆者はこの主張にはまったく賛成しておらず、リミテッドは初心者には不向きなフォーマットだと考えているのですが、その理由を掘り下げてみると「ゲームの『初心者向け』とは何か?」というより広いテーマに関するヒントが得られたため、ひとまず考えたことをメモしておきます。 リミテッドが初心者に向いていない理由・選択が多すぎる ・選

デッキの「多様性」ってどういうこと? - 環境を多様に見せる手法を考える

TCGのゲームバランスにおいて重視される要素に「多様性」があります。 「デッキが多様であることは望ましい」という見解を、多くのタイトルが公表しています。「デッキが多様である」とは、様々なアーキタイプ(デッキタイプ)が試合で活躍できる状態を指しています。この状態が望ましいことは、多くの人が同意するのではないかと思います。 ここで思考実験をしてみます。例えば『Magic: The Gathering』に以下のようなカードがあるとしましょう。 平たく言えば「引けば勝つ」カード

プレイヤーの意見を参考にする際に意識すべきこと

ゲームをつくるとき、プレイテストは必須の工程です。また、運用型のタイトルはプレイヤーの意見を聞きながら、ゲームを改良していくことが重要です。生まれたばかりのゲームが面白いことは極めて稀で、ゲームを面白くするには外部に晒して洗練させる必要があります。 プレイヤーの声を聞くことは開発・運用どちらにおいても重要ですが、プレイヤーの要求を鵜呑みにしてはいけません。プレイヤーの意見はすべて正しいのですが、それと同時にほぼすべて間違っています。 プレイヤーの意見は、以下の4要素に分類

ゲーム実況・観戦に向いているゲームとは? - 実況映えの3要素を分析する

ゲーム実況や大会の観戦を楽しむ人が増える中、どのようなゲームが「実況映え」するか、ゲームをどのように「実況映え」させればいいのかが重要なテーマになりつつあります。 この記事では実況映えするゲームの要素を分析し、ゲーム実況や大会配信の改善方法を実際の事例と照らし合わせながら検討します。 「実況映え」は人気・面白さとイコールではないゲームの「実況映え」は、ゲームの人気や面白さとは必ずしも一致しない。コンサルティング会社の配信技研は国内ゲーム実況の総視聴時間を調査している。

ゲームバランスとは何か? - TCGにおける3つのバランス調整目的

ゲームバランスは、対人ゲームにおいて「バランスがとれている」「バランス崩壊」など話題になりやすいテーマです。しかし、何をもって「バランスが良い・悪い」とするのか、明確な定義はありません。 この記事では、トレーディングカードゲーム(TCG)のバランスがゲーム体験にどのような影響を与えるか掘り下げることで、対人ゲームにおける「良いバランス」の正体に迫ります。 バランスを均一にする目的って何?TCG・DCGはゲームバランスが話題になりやすいジャンルだ。ここで言う「ゲームバランス

TCGの未来 - AIとビッグデータはゲームデザインをどう変えるか

トレーディングカードゲーム(TCG)のデジタル化は、ゲームデザインに大きな影響を与えています。この影響は今後さらに大きくなり、デジタルゲーム全般と連動した変化につながる可能性があります。 この記事では、AIなどの技術がTCGのデザインに与える影響を分析し、TCGの未来像を予測します。 TCGのデジタル革命は始まったばかりこれまで筆者のnoteでは、TCGのデジタル化がゲームデザインに与えた影響を論じてきた。 これらはデジタル化によって起こり得る変化のうち、ごく一部に過ぎ

ゲームデザイン関連書籍をまとめてレビューします

ゲームデザイン本の読書ガイドがインターネットにあまりなかったので、読んだ本をまとめてレビューします。 国内で最も充実したゲームデザイン本のまとめにしてるつもりなので、掲載されていない推薦書籍があれば是非コメントやTwitterで教えてください。 最終更新日:2024年2月15日(更新履歴を末尾に記載しています) ★★★:万人におすすめできる。読むべき本 ★★☆:幅広く有用。もしくは、ある分野の非常に優れた本 ★☆☆:需要と一致すれば有用 ☆☆☆:ややニッチ、あるいは優先順

ゲームの奥深さと難しさ - 面白さをハードルにしないためのUXデザイン

ゲームには様々な種類の面白さがあり、多様な面白さを持つことはタイトルの魅力に繋がります。一方、開発者の想定した面白さがプレイヤーにとって難しすぎたり、詰め込まれすぎているなどの理由で、プレイヤーを遠ざけるハードルになってしまう事例も多く見られます。 この記事では、ゲームの面白さや奥深さと、プレイヤーにとってハードルとなる悪しき難しさの違いに着目し、面白さを維持しながらハードルを減らす手法を検討します。 面白さにはコストがかかる前回の記事では、ゲームの面白さを要素分解し、面

ゲームの面白さとは何か? - 7つのエレメントと対応するゲームジャンル

世の中には様々なゲームがあり、ゲームごとに多様な面白さがあります。面白さの追求や議論には「面白さ」とは何か正確に把握することが不可欠ですが、「面白さ」は人によって捉え方の異なる概念です。 この記事ではゲームの面白さをいくつかの構成要素に分解し、ゲームジャンルを構成要素の組み合わせとして捉えることで、多くの人が合意できる面白さの正体に迫ります。 また、構成要素に対する個人の好みの違いが何によって生じるかを掘り下げるとともに、製品やプロモーションの実例に当てはめます。 面白

デジタルカードゲーム時代にデッキ構築を面白くする手法を考える

デッキ構築はTCGの中心的な要素でしたが、インターネットやSNSの普及、TCGのデジタル化によって存在感が薄れつつあります。 この記事では現代のデッキ構築が置かれている問題と、DCG開発会社が試みた対処法を分析し、新しい対処法を提案します。 対人ゲーム3要素の1つ「研究」前回の記事では対人ゲームの3要素のうち「技術」と「意思決定」を取り上げた。 今回は「研究」、その中でもTCGの象徴である「デッキ構築」について掘り下げたい。 元来TCGはデッキ構築の「研究」と試合での

Magic: The Gathering vs Hearthstone ゲームデザインに潜む2つのゲーム観

TCG・DCGの世界にはMagic: The Gatheringを始祖とするギャンブラー的ゲーム観と、Hearthstoneを始祖とするアスリート的ゲーム観があり、両者の違いはゲームデザインのあらゆる部分に影響を与えています。 興味深いことに、この違いはTCG・DCGのプレイヤーやデザイナーの間でも十分に言語化されておらず、整合性のない設計によってプレイヤー体験が悪化する事例が見られます。 この記事では2つのゲーム観を比較し、実際のカードデザイン事例と照らし合わせることで

TCGとDCG - カードゲームのデジタル化によるプレイ体験とゲームデザインへの影響

デジタルカードゲーム(DCG)はトレーディングカードゲーム(TCG)をデジタル化したゲームジャンルですが、紙のカードがプレイヤーに与える印象とデジタル化されたカードがプレイヤーに与える印象は、何となく違います。 この記事では、デジタル化による「何となくの違い」を掘り下げるとともに、成功したDCGがこの違いに対応しゲームデザインを変化させていることを解説します。 現金と電子マネーの違い紙のカードとデジタル化されたカードの違いを考えるとき、参考になるのがクレジットカードや電子

RPGの「空間」を考える

RPGの世界における仮想空間には様々な役割があります。その中で重視される役割は、RPGというジャンルの発展ととも変化してきました。 この記事では、RPGの仮想空間が持つゲームデザイン上の機能を要素分解し、各要素を切り口としてRPGの発展を紐解きます。 RPGの「空間」とはドラゴンクエストなどに代表される、古典的なデジタルRPGを想像してみよう。フィールドがあり、街や洞窟への入り口、人や宝箱などのオブジェクト、壁や川による仕切りがある。プレイヤーはこの仮想空間を移動してゲー

Legends of Runeterraのカードデザイン方針を分析する

Riotの新作DCG、Legends of Runeterraの第2回プレビューが、11月15日から20日にかけて行われました。 この記事では、Legends of Runeterraのカードデザインの傾向をほかのカードゲームと比較し、デザイン方針を分析します。 システムとカードをつなぐ「データベース構造」カードゲームや、ほかのゲームを設計するとき、まず重要になるのはゲームシステムだ。10月に行われた初回プレビューのときは、Legends of Runeterraのゲームシ