阪堺電車に乗って

昨年と同様、緊急事態宣言下にあったゴールデンウィークが終わりを迎えようとしている。この、長期連休が終わる前の途方もないストレスから、少なくとも定職に就いている間は逃れる術はなく、あと何十年苦しまなくてはならないのかは知らないけれども、たとえば学生の頃なんかは今よりよっぽど長期の休暇と休暇明けを繰り返していたわけで、生きているだけでも奇跡のように思える。

ご多分に漏れず、外出といえばほとんど近所のスーパーと自宅の往復、あとは公園ぐらいで、家ではサブスクで視聴できる映画・ドラマ・アニメなどを観て時を過ごした。特にアニメ。『ゾンビランドサガ』にはまって、二期にあたる『リベンジ』の最新回まで追いついてしまった。かわいいゾンビの女の子たちがアイドルユニットを組む話で、座椅子の上で中腰になって観た。私もアニメを考える人になって、日本中に愛と希望を届けたいという夢を抱いた。

家とスーパーと公園をぐるぐる周るだけで過ごしてはいたのだが、さほど人出の少ない場所ならば危険性も低いだろう、と、少しだけ遠出をしたくなった。大阪に住んで７年が経ち、JR、メトロ、私鉄、ほとんど乗り尽くしたが、おそらく唯一乗っていない路線があった。阪堺電車である。天王寺〜堺市・南海浜寺駅前をつなぐ路面電車だ。堺市〜帝塚山・我孫子民の足として利用されている。堺市方面に用事のない限り乗車することはないだろうが、私は阪堺電車に無意味乗車することに決め、阿倍野駅から浜寺公園を目指した。

始発駅〜終着駅までどこで乗ってどこで降りようが２３０円で、乗・下車客のいない停留場はスキップされる。電車というよりも路線バスに近い。窓が開いているから、大和川を渡るあたりが肌寒い。目の前の５〜６人がけの席の男女全員が会話している。乗客ほとんど顔見知りなのだろうか。

終点から一駅手前の「船尾駅」から歩いて浜寺公園を目指すことにした。

前に、甲状腺専門のクリニックの看板に、イメージキャラクター「甲Joう君」を発見した時も思ったが、どういう脳味噌の使い方をすれば三文字のカタカナの単語の真ん中をくり抜いて漢字を当てようとなるのか。諏訪ノ森の商店街を抜け、浜寺公園を目指した。

浜寺公園にたどり着いたが、行き止まりだ。引き返すことにした。テントを張ってピクニックに興じている人もあったが、酒盛りしてゴミを放置し、みたいなグループはいなかったように思う。延々歩いて行き止まりまで着いたら引き返す、って、公共交通機関を使ってシャトルランをやっているのと変わりなく、無意味、無意味とハナから念頭に置いてはいたのだがこれほどまでに無意味、あるいは不要不急となると始末に負えない。空が暗い。

引き返しがてらどうせなら行ったことがない駅から帰ろうと、JR鳳駅を目指した。国道を横切っていると、前に藤井寺周辺をうろついた時もそうだったが、国道を歩行するのに利用している人間はおらず、車が飛び交い、自転車とすれ違う。住宅街を抜ける。先日、会社の年下の人間が、奥さんの実家が土地を持っていて、一戸建てを建てたいからモデルルーム見学をしている。と話していた。奥さん・土地・一戸建て。人生のタスク諸々。時差ビズだかなんだか知らないが、毎日１７時ごろ退社してなんで家が建つのか。何本記事を書けばいいのか。アニメを考える人になればいいのか。

鳳の商店街に着いた。ほぼシャッターが閉まっていて、緊急事態宣言中の臨時休業の貼り紙がしてあった。いかつすぎるゲームセンターを見つけた。ここでギルティギアとかが流行っていたらかなり格好いい。空いている店舗といえば肉屋かたこ焼き屋ぐらいだったのだが、肉屋でユッケを買っても家まで鮮度的に怖いし、飲酒もできないのでたこ焼き屋に寄るのも仕様がなく、自宅に帰ることにした。終わりです。ありがとうございました。