ハロー!プロジェクト

もう5年前になるが、ハロー!プロジェクト好きの友人に連れられて神田末広町のハロー!プロジェクト公式ショップに初めて訪れた。カントリーガールズが嗣永桃子プロの指導のもと、再始動したばかりのころだった。私は、島村嬉唄さんのファングッズであるクリアファイルを手に取り、「なかなか可愛い。しかも、これで住民票を挟んだら便利だろう」と即座にひらめき購入した。後日大阪に帰り、堺市役所で住民票を発行した際に実際に利用した。

店を出た後に神田のフレッシュネスバーガーの2階で、島村嬉唄さんが出演している『愛おしくってごめんね』のプロモーションビデオを観せてもらった。歌い出しのセリフパートではにかみ笑いをしてしまう島村嬉唄さんの様子に、ちょっと待ってくれ、なかなかどころじゃない。相当可愛いんじゃないか。ハンバーガーをたくさん持ってきてください!と、そうした導入でハロー!プロジェクトを知った。島村嬉唄さんは半年ほど経ち芸能界を引退した。

しばらくは各ユニットの新曲が出れば公式YouTubeのプロモーションビデオを視聴する、ぐらいの温度でいたのだが、当時付き合っていた女性にふられ、金沢に2泊3日で旅に出るはずだったところを宿も移動手段も予約していたのに逃げられてしまい、ちょうどよく定職についておらずスケジュールを押さえるのが容易な成人男性を充てがい無理やり旅に出たことがあった。いろいろ精神的に朽ち果てていたそのころに、juice=juiceを知り、特に金澤朋子さんについて調べることで精神の均衡をようやく保っていた。歌がこの世で一番うまいのに、アイドルになっていなければ公務員志望、と公言する気風が格好よかった。

ハロー!プロジェクトを本格的に好きになり、初めて「現場」を経験したのが大阪府吹田市:千里セルシーでの℃-uteのトリプルA面『何故 人は争うんだろう?/Summer Wind/人生はSTEP!』のリリースイベントだった。これも友人の誘いだったのだが、朝5時での御堂筋線:千里中央駅集合を言い渡された。冗談だろうと思ったが突っ込むのも無粋かと、言われるがままに朝5時に千里中央駅に到着すると、既に歴戦を潜り抜けている兵士たちが柱にもたれ掛かり臨戦態勢に入っていて身が引き締まった。ピッタピタのタイツを履き、シュノーケリングに行くのか?のような風情の男、完全に新撰組の格好を模した男など、おのおののコスチュームで気合を入れている。

なぜ朝5時から集まっているか。CDを購入した人間に、リリースイベントの会場に入場できる整理券が配られるのであるが、早ければ早いほど、若い番号、すなわちステージの前列に陣取れる権利が得られる確率が高まるわけである。だが、必ずしも早い者順と決まっているわけではない。完全に番号の払い出しがランダムで、いくら早朝から並ぼうが、1ヶ月前に住民票を会場の住所に移そうが意味がないイベントもある。公式にアナウンスされるわけではないから、早い者順である可能性に賭けて並ぶ兵士たちが現れるわけである。

初めて生の現場で℃-uteのパフォーマンスを目の当たりにし、偶然その日が誕生日でもあり、握手会で「誕生日なんです。」「おめでとう!」を経験した私はあれよあれよと会場に足を運ぶようになった。年会費5千円、体感的には無料のファンクラブにも加入した。金澤朋子さん所属のjuice=juiceのツアーにも足繁く通うようになったのである。


何かに人生を委託せずには居られない人々を救う存在が、神であり仏であり、あるいは、アイドルであると思う。

毎日生活は辛いししんどいが、偉い人が言うには、仏様が楽にしてくれるのならば、甘えさせてもらいますよろしくお願いしますと南無阿弥陀仏を唱えるだろう。おそらく私が鎌倉時代の農民だったならば、浄土真宗が流行り出したとみるや「えっ!南無阿弥陀仏って言ってるだけで救われるんすか!助かります!」と飛びついていただろう。アイドルの皆様が、けったいな私の代わりに苦心や努力をしていただきありがとうございます。と拝めるだけでも本望なのである。少しお付き合いをしたいな、と邪念を抱くころもあったが、その私は独鈷(とっこ)で心臓を突いて殺しました。


「BEYOOOOONDS」『ビタミンME』


コロナ禍で家に軟禁されながらも仕事だけは降り積もっていくじわじわと追い詰められる生活が、黄色と橙のセットで繰り広げられる明るく朗らかなPVを座椅子で視聴することで確かにエネルギーが補充される実感があった。『ゼルダの伝説』でリンク死んだ!と思いきや、ビンから妖精が栓を抜いて現れて命を救ってくれたかのような感覚である。ハロー!プロジェクトには感謝せずにはいられない。南無阿弥陀仏。

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