BOOKOFFにまつわる話

高校の頃に実家から自転車で1時間ほどの距離にあるブックオフ上越教育大前店に通っていた。友人も少なかったし、部活も「地理部」という、「理想の地図を描き、皆で褒め合う」ことで日々を過ごす青春のかけらもない団体にとりあえずで所属をしていたから、総じて記憶が薄く、特に、夏休み期間の思い出がほぼない。バイパス下の田んぼの脇をひたすら自転車で漕いでブックオフと自宅を往復していた。180円から250円コーナーにあるカビの生えたCDを買いに行く為である。500円コーナーのCDを買う時は息を止めて顔が紫色になっていた。

今となっては本当に誰も聴いていない「メロディックハードコア」通称メロコアに分類されるバンドが好きだった。もう少し文化的な素養を備えていて、後世に残る音楽を聴いていれば自分のためにもなったのだろうけれども、繰り返すが本当に今となっては誰も聴いていなくて、すなわち何のためにもなっていない。しかも、ほとんどが今サブスクリプションで垂れ流しになっており、苦もなく聴けてしまう。お金を返して欲しい。ゼブラヘッドを、リビングにあるオーディオで、つまみを「2」に合わせて極限まで音を絞って夜中に聴いていた。音の小さいゼブラヘッドよりは雨の音や虫の声のほうがマシである。

大学に入ってからは、ブックオフで本を買うようになった。時間があるからである。本は、結局時間がないと読まない。読書量を誇っているような人間は暇ですどうもこんにちはと言っているようなもので、心に余裕がないと本なんか読まない。逼迫している最中、かつ本を読んでいる人が本物なんだろうと思う。阪神タイガース豆知識集、を購入し、2週間誰とも口を利かなかった運転免許合宿で貪り読んだ。天覧試合の長嶋のレフトポールをぎりぎりで巻くようなホームランは、ファールだったと思っている。

もう一つ、上京して、インターネットの人間とたどたどしくオフ会を開いて立ち寄ったブックオフでの、「大きな声で人をハンドルネームで呼ぶ」男への怒りが脳裏をよぎる。恥ずかしいから鼻の穴にチョキを突っ込んでやりたくてしょうがなかった。あの気恥ずかしさと、立ち読みに夢中な恰幅のいい男のリュックの汚さや、様々なうまくいっていない生活が埋もれたような匂いの立ち込める店内の情景がふとフラッシュバックしている。来月あたりに方々のブックオフを巡って、奥菜恵の写真集を買おうと思う。

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