花の名を調べる男

近所に公園がある。部屋にずっと閉じこもっていると、有機的に体が崩れ落ちていくのがわかる。いくらカーペットにコロコロをかけても、ふと目を離したすきにテーブルの足元あたりに毛が落ちている。流石に陽の光を浴びたくなり、今日はしばらくぶりに散歩をした。全くどうして、マスクこそしているものの、普段と変わらないほどの人出である。ピクニックや、キャッチボールに勤しんでいる。日中からビールを飲んでいる。

散歩と同時に、花の写真を集めるのが目的だ。撮った写真を分析させると、AIが答えを返してくれる図鑑アプリがある。AIだけではなくて、SNSで撮った写真が拡散されて、花に一家言ある方々が「ベゴニアではありませんか?」などと教えてくれる機能がある。1ヶ月ほど前にインストールして、「オトメツバキ」を調べたきりそのままだったのだが、今日開いてみると、20件ほどの通知が溜まっていて「いいね!」「オトメツバキですよね!」「フォローします!」と花を愛する皆様に取り囲まれていた。普段、Twitterではあまり構ってくれる人もおらず、最近ついに「ただ歌う」のが私の中で面白くなって「麦わらの〜♫」「四六時中も好きと言って〜♫」などとTwitterで歌っていて、無論流れていくだけだから、オトメツバキ一枚でここまで反応があると、少々怖いが嬉しくなる。柔和な人が多い勝手なイメージがある。

花に詳しくなれば、文章を書くにあたって参考になる。作詞もしなければならないし。調べた結果、花の名前が出てこない歌は一曲もないらしい。

目に付いた花々を、手当たり次第にスマホで撮る、ミュータントタートルズのTシャツを着用した成人男性は危ない匂いも漂うが、暖かくなってきたのもあり、鍛え上げられた上半身かつ裸にサスペンダーというファイナルファイトスタイルの男性も見かけたから注目はそちらに向かうだろうと安心して撮影する。私が「ハルジオン」だと思った花が「ヒメジョオン」だった。細かい違いはいくつかあるが、葉が茎を抱くように付いているのがハルジオンで、まっすぐ付くのがヒメジョオンだという。

また、家の周りに咲いている花の名前を知らずにいるのももったいないというか気味が悪いというか、調べたくなり、近所の家と道の隙間から4、5本咲いている薄オレンジ色の花を写真に撮ってアプリに送信した。単に「ポピー」かと思っていたその花は「ナガミヒナゲシ」らしく、道端に図々しく生えているポピーはだいたいナガミヒナゲシらしい。身の回りには案外知らないことが多い。興味を持ちすぎて、他人の家に忍び入り射殺されないようにほどほどに、花に詳しくなろうとしている。

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