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アートに関するメモ(6) 【漢詩】

本メモはアートの基礎的な内容に関するメモです。


1. はじめに 2項目

1-1. 漢詩は情を詠うもの
…感動がないところに詩は生まれない


1-2. 近体詩
…平仄を合わせる、韻を踏む、絶句(4 句)、律詩(8 句)


2. 六朝時代 4項目

陶淵明

…隠者の生活を楽しむ

2-1. 老荘思想への関心
…政治に関わるより俗世間から身を引いて自然の中で質素に生きていくほうが尊いと考える
→第二の人生のチャンスとして隠者になって名声を得て出世しようという手段になっていた


2-2.  【飲酒】
…理想の生き方を詠う、酒を飲んだときに作ったという意味の題
→役人をやめて田舎暮らしをしている時の作品
・前半四句で隠者暮らしとその動機を説明
→次の四句で隠者暮らしのある日の一コマを描写
→最後の二句で自分は俗世間にまみれる人より精神的に高い境地にあると示す、真理は言葉にできないからそれを知りたければ自分のような生活をしなさい
・第五句・第六句に陶淵明の理想の生き方が具現化されている、
最後の二句にあるように言葉で真意は言うことができない


2-3. 【雑誌】
…人生にとって大切なことを詠う
・第八句は近所の人とお酒を飲み楽しむことを示す、この時代の一斗は 6L
→第九句・第十句は過ぎた時間は戻らない、全て常に変わり続けていることを示す
→第十一句は若い時は 2 度とこないのだから楽しめる時は大いに楽しめということを示す
・最後の二句が伝えたいこと、人生は儚く短いから楽しめる時に大いに楽しもう


謝霊運

…満たされぬ心の癒しを大自然に求める

2-4. 【石壁精舎より湖中に帰る作】
…煩わしい俗世間から解放され自然の美しさを心から詠う
・十句までは自然描写、その後の二句は自らの行動、十三句からは自分の考えを述べる
→優れた自然描写で詩全体の味わいを深める、刻一刻と変化する光景を的確に表現、自然を見つめ美しさを追求する心があってこそ
→最後の二句、本性にかなった生き方がしたければ自分と同じように大自然の中で生きなさい
・最後の二句に思いが集約、俗世間であくせくしてないで自然の中で気ままに生きてみたらどう?


3. 唐時代 20項目

王勃

…自分に正直すぎて人生を誤った天才

3-1. 初唐の四傑
…優れた 4 人の詩人、王勃、楊炯、盧照鄰、駱賓王
→政治の世界でほとんど活躍できずに不遇な人生を送る、詩の世界では新たな詩風を確立
→近体詩の完成、科挙の試験科目に詩の創作が課せられ盛り上がっていく


3-2. 【蜀中九日】
…望郷の念を詠う
・職を失った後に蜀を旅の途中、出会った人と高台に登り酒宴をした時に詠んだ
→前半の二句と後半の二句が対句、形や語感が似たペアの句、文法や文字が対応
→後半の二句は故郷に帰りたい自分とわざわざ故郷からやってくる人を対比、故郷に帰りたい気持ちが強調されている


3-3. 【滕王閣】
…古の感傷を詠う
・父を訪ねる旅の途中、滕王閣の修復が完了した記念の宴会の時に詠んだ
→第三句・第四句は美しい風景が繊細に描写される、六朝時代が引き継がれている
→第五句・第八句は心に感じた情景を大胆に描写される、画期的で後の時代に引き継がれる
・第五句・第八句は対象を的確に描写することで核心を大胆に詠う、漢詩の新境地を開く


駱賓王

…権力者を恐れない悲劇の詩人

3-4. 【易水送別】
…決死の覚悟で去る盟友を見送るために詠う
・前半の二句は荊軻の故事の情景を描写
→燕の丹は秦の人質となる、待遇がひどく逃げ帰って暗殺を荊軻に依頼、
易水のほとりで荊軻を送別、暗殺は失敗し荊軻は殺される
→故事を踏まえて友を厳粛に見送る、後には引けないという駱賓王の強い決意も感じられる


高適

…都から遠く離れた土地にいる時が面白い

3-5. 安禄山の乱で出世
…内乱、安禄山は異民族から政治家になった人、燕を建国するがここでも内部抗争が起きて消滅


3-6. 田家の春望
…自分を認めてくれる人がいない嘆きを詠う
・第一句の出門〜見というレトリックは昔からよく使われていた、殺伐とした世界を表現、ここでは一面に広がる春の草原しか見るものがないという鬱屈した気持ちを表現
→第三句は自分には理解者がいなくて孤独だという描写
→第四句は開き直りとも取れる発言が飛び出す、ただの飲んだくれだよ


杜甫

…堅実で繊細、写実的、馬好き

3-7. 【房兵曹の胡馬】
…名馬の名馬たる所以を詠う
・第二句〜第四句に名馬の条件と走る様子が具体的に描写
→第五句はその名馬の走るスピードがいかに速いかを余すことなく伝える
→第六句で安心感・心強さを与える、持ち主が一番気になる


3-8. 【月夜】
…戦乱から避難している妻子を思って詠う
・長安で軟禁されている時に詠う、第二句は妻を思う気持ちを描写、
妻が自分を思って月を見ているだろうと逆に妻視点で表現、悲哀感がより心に迫る
→第五句・第六句で妻の美しさを表現、今すぐ会いたいという強い思いが妻を美化する
→第七句・第八句で思いが一層高まる、1 人で見ている月をいつになったら 2 人で見れるのか
・避難先で 1 人月を眺めているであろう妻を宮女のように美しく描写、
再会したら嬉し涙が乾くまで 2 人で月を眺めよう


3-9. 【蜀相】
…尊敬している諸葛孔明を詠う
・華州の飢饉により妻子と共に出た流浪の旅の途中、武侯祠を訪ねた時に詠んだ
→前半では具体的に廊の情景と厳かな雰囲気を描写、人の世の虚しさを暗示
→後半では人の世の虚しさを前面に出す、諸葛孔明の故事、後世の人々や杜甫自信の悲しみを表現


李白

…豪快で自由、ロマン的、酒好き

3-10. 【客中の作】
…旅の途中で美酒を飲んだ時に詠う
・ラ行の頭が揃う単語により柔らかな美酒を印象付ける
→第一句と第二句の対応、蘭陵・鬱金、酒の香・酒の色、玉椀・琥珀、
香りと色が酒の美味しさを引き立てる
→第三句の酔が第四句の不知を導き出す、酔ってしまえばどこにいても我が家同然、細かいことは気にしない
・ご馳走してくれた主人へのお礼も行き届いている、気分良く酔えたよ、ここは第二の故郷だ


3-11. 【越中覧古】
…廃墟となった宮殿に古を思って詠う
・古跡を訪ねた時に詠む、呉越同舟・臥薪嘗胆などの故事成語が生まれる
→第一句〜第三句は過去の華々しさを描写
→最後の句で今の侘しさを描写、一層の寂しさを醸し出す、蘇台覧古と逆の構成、対になっている


白居易

…平易明快な詩を作る

3-12. 笑う門に福きたり
…富んでいようが貧しかろうがまずは楽しもう、大きく口を上げて笑えない奴は馬鹿野郎だ


3-13. 【王十八の山に帰るを送り、仙遊寺に寄題す】
…懐かしい思い出と共に帰郷する友人を励ます気持ちを詠う
・都から故郷に帰る友人を見送る
→第三句・第四句は仙遊寺ふきの情景一字一句が対応、全体でも水と山という対応
→第五句・第六句は倒置法で印象深くする、俳句などでこの 2 句を踏まえた作品が多く作られる


3-14. 【舟中、元九の詩を読む】
…左遷された場所に行く途中で友人のことを思って詠う
・暗がりの中で親友の詩集を読む姿には悲しみと孤独感が漂う
→同じ字の繰り返しは抑えきれない感情を表す、通常は詩の密度を下げてしまうため避けられる、詩が2回、燈が3回使われる
→燈は燈前・燈殘・滅燈と使われ、時間経過・状況変化を効果的に示す
・もう2度と会えないだろうと同じく左遷されている親友の詩集を一晩かけて読み終える
→第四句の逆風・船を打つ波の音は 2 人の不安な前途を暗示するかのよう


賈島

…地方勤めの切なさを詠う

3-15. 推敲の語源
…文章を作成した後で字句をより良くするために何回も読んで練り直すこと、推を敲とすべきか、韓愈との運命的な出会い


3-16. 【隠者を尋ねて偶わず】
…隠者を訪ねた時に詠う
・第一句・第二句で童子とのやりとりを示しその場の様子を感じ取ることができる
→松下・童子・薬・山中・雲などを用いて隠者の生活の様子が見事に描かれる
→第四句では隠者は雲の彼方にいるという隠者観と照応、
最後は会えなかったという隠者詩における新たな境地を開拓
・隠者とは気ままに生きる風流人、訪ねても会えなかったことこそが風流


3-17. 【桑乾を度る】
…第2の故郷を詠う
・第一句の霜は年月を示す、異郷での暮らしがすっかり長くなった
→第二句の咸陽は長安の古名、当時の詩人たちはみな長安を故郷とした
→第四句では今まで仮の住まいだと思っていた場所が 10 年も住むと故郷の長安のように懐かしく思えてきたと表現、望郷詩における新たな境地を開拓
・故郷を離れて第二の居住地で長年過ごし、さらに離れて別の場所に行くと、今度は第二の居住地が故郷のように思われる


杜牧

…センスの良さが光る

3-18. 【秦淮に泊す】
…宿泊した地で聞いた歌に感じた深い悲しみを詠う
・第一句では籠が 2 回使われる、句中対の場合は OK、
あえて重複させたのはその場を包み込む幻想的な雰囲気を出すため
→第二句では離れた場所に酒楼があると言う、幻想的な世界、前半の描写が後半を導き出す
→第三句・第四句で曲が聞こえる、亡国の恨みが詰まった歌、
時が移り変わり亡国の悲しみを知らない華やかさに人の世の儚さ・悲しさを感じる、歌だけが残り作者・背景が忘れられてしまった


3-19. 【清明】
…春の情景を詠う
・第一句では穏やかで気候の良い清明節の時期に雨が降って肌寒いと言う
→第四句では無邪気に指差す牧童に牧歌的な雰囲気が漂う
→指差す指に導かれて杏の花が見えてくる、白あるいはピンク色、雨の向こうにぼんやり浮かぶ、雨が降って気が滅入っていたので一安心


高駢

…風景を繊細に詠う

3-20. 【山亭夏日】
…夏の清々しい情景を詠う
・第一句・第二句では視覚的な観点から別荘の中庭の様子を伝える、
影(実像ではない)と陰(日の当たらないところ)、第二句では風のない水辺の蒸し暑さを伝える
→第三句では皮膚感覚で涼しさを伝える、簾が動いて風を感じる
→第四句では嗅覚で涼しさを伝える、一つの棚のバラの香りが庭に充満し暑さが払われる、涼という字を使わずに五感に訴える構成で涼しさを表現


4. 宋 2項目

朱熹

…表現力に溢れる哲学者

4-1. 【酔うて祝融峰を下る】
…酔って豪快な気分を詠う
・第一句では頂上に着いて心地よい風に当たっていると風に乗ってどこまでもいけそうだと言う
→第二句では頂上から見える風景をさらに大きなスケールで描写、心が揺り動かされている
→第三句・第四句では豪快な気分になりながら一気に駆け降りたと言う、前半の雄大さとの対比
・朱熹の血気盛んな様子・自身の研究に対する気概が感じられる、張栻の書院を訪れ大いに議論をして有意義な日々を送っていた、祝融峰は張栻の書院の近く


王安石

…鋭敏な言語感覚

4-2. 【鐘山即事】
…最も好きな山を愛でる気持ちを詠う
・政治家として活躍した後、自分の好きな鐘山の近くに引っ越して悠然とした心境になった時の歌
→第三句は李白の「独り敬亭山に坐す」を意識
→第四句では鳥が一羽も泣かないことからずっと静けさが続いていることを表現、王維の「鹿柴」を意識、王維は音が止むことでより一層の静けさが訪れることを表現


4-3. 【夜直】
…宮廷で泊まり込みだった時に詠う、一晩ずつ泊まって仕事をすることになっていた
・第二句から春の中の肌寒さが残る時期だとわかる
→第三句は仮眠を取ろうとしている描写、少しでも寝たいのに春の悩ましさで眠れないと言う
→第四句では月の位置が変わることで花の影が移動する様子を描写、
時間経過を花の影の移動で表現、洗練された言語感覚


5. 明 2項目

高啓

…江南の風景を愛した

5-1. 格・意・趣
…高啓が詩を作る上で大切にした考え、優れた人を真似ることで生まれる格調・深い感動を生む共感・平凡で身近な俗世間を抜け出す興趣
→先人の長所を兼ね備えあらゆるものをテーマに豊かな表現で彩ることができる


5-2. 【胡隠君を尋ぬ】
…楽しい散歩を詠う
・川を渡る・花を見るが繰り返される、うららかな春の日に気の赴くままに散歩をしている様子、桃の花ではなく梅の花の可能性
→第一句の復・第二句の還は同じ意味、動作の繰り返しを表現
→隠者の趣を詠う、隠者詩は普遍的テーマ


6. 現代 3項目

魯迅

…レトリックを駆使

6-1. 蒋介石が共産党員を弾圧
…辛亥革命、孫文から蒋介石へ
→北伐の途中のクーデター、中国国民党と中国共産党の協力関係が決裂


6-2. 【柔石を悼む】
…教え子を失った悲しみを詠う
・共産党への弾圧が開始され教え子が銃殺された時に詠う、一句一句に深い思考のあとが見える、非人道的な政策に対する怒り、中国の将来を憂える
→第七句からどうしようもなくやりきれない悔しさ・悲しさを感じられる
→第八句は絶望している自分を月が慰めてくれているようだと表現、
いつものように淡々と衣を照らしている、月の光によって深い悲しみが鮮明に照らされている


6-3. 【自嘲】
…革命の同志に現状を伝えるために詠う、虚しさを自嘲
・共産党への弾圧が行われている中、家族と上海のアパートに身を隠している時に詠う
→第五句の千夫とは敵のこと
→第六句は子のためになんでもすると言う決意をするも実際には何もできず時が過ぎ去る虚しさ


おわりに

ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
修正すべき点やご意見などあればXでお声をいただければと思います。
修正の際は、番号を指定して、フォーマットをなんとなく合わせていただけると助かります。

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