【CoC】不定の狂気から読み解くトラウマケア
「秘匿HO好きな人はCoC以外にこういうルールも好きになるはずなのに、どうしてCoCのプレイ人口が多いんだろう」
的な話を、よくTwitter(自称X)で目にする。
ルールブックの値段も、システムごとに千差万別だしね。
新しいシステムで遊びたいからと言って、毎回ルルブに6000円も出さなければいけないわけではない。
かくいう僕も、コンベンションの時にオフセで遊んだ「マージナルヒーローズ」の卓がいまだにお気に入り。ルルブは1500円くらいで買えるらしい。お手軽だ。
けれども結局、私はクトゥルフ神話TRPG(以下CoC)をやり続けている。なぜか。
考えた時、私が好きなのはプレイ人口の多さでも界隈の友達がそれなりにできたからでもなく(もちろんそれもあるけど)、CoCが持つ「正気度」というルールが好きだからだ、と思い至った。
CoCにおける「SAN値」が減る仕組み、一定数減ると狂気に陥るというシステム、そしてそこからの回復。
ルルブ内で慎重に言及される狂気の設定と判定方法には、精神医学的見地が少なからず含まれていると感じている。
多分トラウマサバイバーである僕自身が探索者となり情報がキャラシに落とし込まれたら、すでにSAN値は不定に入って久しいだろう。すぐに発狂する。
でもルルブの中には、狂気からちょっとだけ距離をとる方法がちゃんと書いてある。手元にある7版のルルブを紐解いてみると
とある。これは非常に示唆に富んでいる。
トラウマ研究の第一人者のひとり、ジェニーナ・フィッシャー女史の著した『サバイバーとセラピストのためのトラウマ変容ワークブック』(岩崎学術出版社)の中には、フラッシュバックなどに襲われたりして気持ちが動揺した時、何をすれば落ち着けるかを書き出しておくためのワークシートがある。
落ち着くための方法は人により様々であるが、その中にはもしかしたら「夜明けまで無事に過ごす」ことだったり「温かい紅茶を飲むこと」だったり、「一晩ぐっすり眠(ろうとす)る」ことも含まれているかもしれない。
ルルブはフラッシュバックと離人感から脱出するための本質をついていると思うのだ。
私はこのワークブックを使ったしずいぶん助けられたけれども、フラッシュバックや離人感に見舞われたとき、ワークシートに書いた、自分だけのための落ち着ける手段を何個思い出せるか自信がない。
それより先に思考に上るのは、ワークシートよりも7版ルルブの記載。特に「温かい紅茶を飲むこと」だ。
温かい飲み物を口にすることには計り知れない力がある。他に落ち着ける手段があるにしても、まず紅茶を足がかりにすることが多い。
そこから手触りのいい毛布のことを思い出したり、笑える動画のことを思い出せたり……芋蔓式に落ち着くための手段が思い出せていく。何度助けられたか分からないし、たぶんこれからも助けられていくだろう。
自分が抱える課題に真摯に向き合っているものは印象に残りやすい。
私はCoCが持つ「狂気」というシステムによって、CoCを根源的に好きであり続けるのだろうなと思った。
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