ドラマ「だから私は推しました」第1回個人的レビュー
アバンタイトル
暗い部屋に浮かび上がる、ひとりの女性の顔の輪郭。
──あの、"推し"ってわかりますか?
「推薦」の"推"に、「し」って書いて、"推し"です。
推薦したい人、応援したい人…
私には生まれてからずっと、"推し"って呼べる人はいなかったんです。
テレビに映った時に、ワーキャー言うレベルじゃなくて、こう…お金も時間もガッツりかけて、この人を応援したいって。
私は…私自身が、誰かに推されたい人間だったんです。
「いいね」です。
人からたくさん、「いいね」って言ってもらえる、推してもらえる人になるのが、目標みたいな(微笑)
今思えば…しんどいって。
それを変えてくれたのが、推しだったんです。
親友のような、妹のような、子供のような、
…分身…
あるいは、もう一人の自分。
だから…■したんです。
(注:■の部分は聞こえない)
だから…私は、推しました。
(深く息をする)
彼女に出会った頃の私は、パッと見にはリア充なOLだったと思います。
アフター5はジムやヨガ。
週末には彼氏とデート。
平日の夜はいわゆる、レストランで"女子会"とかして(自嘲するような笑い)…──
(※上記のセリフの間、切れ切れにキャスターバッグを引きずりながら疾走する女性と、あわただしく運ばれるストレッチャーの映像が挟み込まれる)
◇◆◇◆◇◆◇◆
以上のような、主人公・遠藤愛の独白から幕を開けるこのドラマ「だから私は推しました」。
…おおう、いいじゃないすか。
何がどうなって、この先どうなるのか、それともこの先はもうないのか。
冒頭の3分ほど、これだけで掴みは十分と感じた。
あなたは しにました
遠藤愛(以下、愛)は概ね先の独白のような日常を送っていた。
レストランで女子会に耽り、自己のSNSに載せる写真をスマホで撮る。
彼氏(キョウスケ)もいてあとは結婚、ステータス取得は目前。
そう思われた矢先、出世への登竜門・ポルトガルへの転勤が決まったキョウスケについていこうとした愛であったが、
「海外赴任で、節目だから」
と、景観が美しい都会の公園であっさり別れを告げられる。
理由は単純明快。
キョウスケの出世にとって愛は邪魔でしかなかった。
まったく理由に思い当たらない愛。
キョウスケは愛にスマホの画面を突きつける。
それは愛のSNS(インスタと思われる)のページ。愛とキョウスケとのツーショットのオンパレード。
「これが何?」
「何?じゃないだろ?おかしいだろこれ!なあ!これもさ(画像を見せる)!
俺こういうのやらないから知らなかったんだけど、友達に言われて見てすっげえビックリして。
…正直キモイっていうか痛いっていうか…
俺、お前の「いいね」の道具じゃないから」
キョウスケは見抜いてしまった。
愛はキョウスケを自分への「いいね」とするツールとしか見ていなかったことを。
プロポーズも、今の自分にとっての「いいね」でしかないことを。もちろんキョウスケと付き合っている自分も全てステータス。
(そして恐ろしいことにこの修羅場も誰かに撮られている)
はい逝った。インスタ女子を大胆に袈裟斬りです。
これにより、一気に急所を打ち抜かれただけでなく五臓六腑全てを消し去られたかのような、まさに抜け殻となる愛。
「いいね」も「好き」もステータスの一つ。まだ10分経ってないんですよ?いきなりライフが0ですよこっちは。
と、彼女は自身のスマホを公園に置き去りのままどこかへ。
そこはカラオケボックス。歌っているのはaikoの「カブトムシ」。
うわーーーーーやめてやめて。
「生涯忘れることはないでしょう」ってもう頭痛がしてきました。
ライフ0どころかもはやマイナスでしょう。
早く!早く助けて!
ああ、あなたはとりあえずいいや、見ている我々を早く!
見ている我々にようやく救いが。
カラオケの会計でスマホがないことに気づく愛。
お店の電話で自身のスマホに電話をかける作戦。まだリソースは残っていたようで何よりです。
かけてみたところ、どうやは拾ってくれた方が出たようです。気になるそのお相手は、落ち着き払った小豆沢と名乗る男性。
彼は「BASEMENTというライブハウスにまで取りに来てください」と愛に告げて電話を切りました。
偶然にも最悪な出会い
ここから物語がようやく始まります。
おそるおそる階段を下りて行った先、愛が重い扉を開けると…
音と光の洪水。
轟くOiコールとMIX。
一段高いステージでは可愛い女の子たち。
フロアには一様に黄色いTシャツを着た、声を限りに汗だくでライブを楽しむファンの姿。
その光景に目を見張る愛。
愛が足を踏み入れたのは、生まれて初めて見る世界。
5人組の地下アイドルユニット「サニー・サイド・アップ」のライブ会場だったのです。
その中でいやでも目に入る、ヴォーカルパートが回ってきたひとりのメンバー。
THE 挙動不審。
目は泳ぐ、声が小さい、歌詞は聞き取れない。
「どうしようもなく着いて行けてない子(実際テンポが悲しいくらいずれている)」、栗本ハナの姿を見つけた愛。
(ここ、本当に際立って見えるんです)
うわーーーあの子なんだよ。
何でここにいるんだよ。
見る人にとってはそう見えるかもしれません。
それでもグループの一員でいようとステージで歌い踊る(という表現さえおぼつかない)するその姿を、
愛は、かつて「いいね」で生命維持を行っていた自らと重ねます。
ちょうど間奏に入って、ヲタクのガチ恋口上が始まったその時。
「言いたいことが!あるんだよ!!」
この後、愛が絶妙のタイミングで叫びだすのでした。
「なんで?
なんで"あんた"がそこにいんの?
一人だけダンスはできないし、歌は下手だし、実力ないのにしゃしゃり出て、
身の丈分かってなくてマジで痛い!
だいたい何その前髪!コミュ障か!!」
気が付くとオケが止み、静寂とヲタクの視線に囲まれている愛。
「な、何よ。本当の事でしょ!?」
ステージ上でgkbrしつつ、前髪をいじるハナ。
うっわーどうする愛。
「…何泣いてんの?」
公園でうなだれた自分の姿がフラッシュバックする。
「泣いたって…泣いたって、どうにもなんないんだからね!!」
そうしてありったけをぶちまけた愛はその場を逃げるようにして去るのです。
その「散々な感じ」の出来事が、愛とハナとの出会いでした。
いやー、ひでえなこりゃ。
場所によっては初見即出禁かも知れません。
その後、場面は物販(チェキ撮影会)へと移ります。
(ハナは楽屋で鏡前に前髪に何かしようとしています。怖い)
ヲタクは物販列(グッズ、チェキ撮影券の購入列)に並びながら談笑。
人のよさそうな運営さんはにこにこしながらチェキを撮る。
そして異常なまでにリアルな2ショットチェキが画面に映し出される。
これにゃあ参った。リアルすぎるww
ええ、総じて、実に見慣れた平和な光景です。
そんな中、一人の男性(公式を見る限り、瓜田という名のようです)に運営に話しかけます。
運営「すみませ~ん、ハナもうちょっとしたら出て来れると思うんですけど」
瓜田「…いいよ。大丈夫?」
運営「大丈夫だと思いますけど」
瓜田「もっとしっかりしてよ~。あんな厄介もう二度と入れないでよ」
愛のことでしょう、きっと。
運営「もちろんです」
運営も大変ですね…。
と、男が運営に「これ、ハナに渡しておいて。喜ぶと思うから」と何やら紙を取り出します。
見る限り、それは家電量販店のレシートと思しきもの。
何ですかこれ、ときょとんとする運営に、男はこともなげに「洗濯機」と即答。
ここで男の顔がようやく映し出されます。うん、ヲタク。
そのヲタクはさらにこう続けます。
「ハナ、欲しがってたから(笑顔)。まあ、金払ってあるから、ここに電話して配送してもらって、ってこと」
はい、厄介決定。
ありえないでしょ、アイドルにそんなプレゼント。
運営「あはぁ、いつもすみません」
運営さん!それどうしてるの!?ねえ!
こいつ明らかな厄介だぜ!?
うーーん、ここらへんも気になるところですね~。
そして推しの花梨(かりん)と会話中の、スマホを拾った張本人の小豆沢。彼女からは「あずきさん」と呼ばれているようです。
返しそびれた(そりゃそうだ)んだと漏らす小豆沢に、警察に届けた方がいいのではと真面目に進言する花梨。
そこでじっと花梨の顔を見つめる小豆沢。
小豆「・・やっぱり花梨可愛い~」
花梨「何言ってんの?w」
小豆「やっぱり結婚しよ?(笑顔)」
はい紛うことなきヲタクですね。
でも可愛い、好きをちゃんと伝えるあたりまっすぐな方だと思います。わりと。
このヲタク達、これからどう物語に関わってくるのでしょうか。
初めての…
そして視点は愛サイドへ。
空虚の連続。
キョウスケを失い、ただ死んでいないだけの暮らしの中にいる彼女。
彼女は何を思ったか、再びBASEMENTを訪れることになります。
幸いに…というべきか話の展開の都合なのか、速攻つまみ出されることはなくうまいこと入り込むことに成功。
(箱推しのジェントルおじさん・椎葉さんがうまいこと機能しています。こういう時に便利ですね)
サニサイ(勝手に略しました)のステージが始まります…が、客は少ない。
椎葉「この前は新曲のリリースだったので、在宅のファンも出ていたのですが」
さらっと出てくる現場用語。もう慣れました。
メンバーが登場するも、そこに現れたのは4人。
あれ?ハナがいない?
「きょきょ、今日はありがとうございます…おっおっ遅れてもうしわけ」
遅れて現れたハナ。
しかもフロア側から。私服で。
そのまま上っぱりを脱いでステージ衣装になるハナ。おいおい。
そこで一斉にメンバーが気付く。
コミュ障とレッテルを貼られてしまった前髪をバッサリいったハナに。
相変わらず挙動不審で聞き取りづらいのですが、美容室を予約できず自分で切ったとのこと。
言ってくれれば切ったのに、とフォローするメンバーでしたが。
「ところで、何で前髪切ったの?」
メンバー、突然の質問。
そりゃあ昨日厄介さんが来て面識もない私にズバズバと…
のはずが。
「ま、前髪があると私、逃げちゃうって言うか。
困ると、こ、こう(目を隠すように前髪を垂らすしぐさ)やる癖があって、泣かせちゃったって思わせてしまうこともあって。
歌やダンスがすぐにうまくなるのは無理だけど、ここは今すぐ直せると思った」
そういうことらしいです。
フォローを入れるメンバー。
「えらいっ!」「そうですよ!」「前向き、大事!」と褒めるヲタクたち。
そして、ハナを見つめる愛の表情。
もしかしたら、何かが芽生えた瞬間なのかもしれません。
そしてハナの曲紹介により、「お茶の子サニサイ」という曲がスタートするのですが。
ここ!直前のBGMからうまーーいこと違和感なく上記の曲に入る!その流れがとにかく自然!
えっこのBGM、曲の前奏だったんじゃね?ってくらいに。
──ハナのダンスも歌も、相変わらずひどくて、みっともないものだったんですけど。
でも、逃げないで、「前に進もう」って気持ちは、まっすぐで、キラキラしてて、
私も、前に進まなきゃって──
いつの間にか涙を流す愛。
心なしか、前髪を切り落としたハナのステージ上でのその表情は、ほんの少しですが晴れやかになったようにも見えました。
彼女が言うように、あの前髪は自分を縛り付けていた何かだったのかもしれません。
気が付くとライブは終わって、特典会が始まっていました。
そこに椎葉さんが現れ、愛にハナのチェキ券を差し出す。
「これでハナちゃんとお話ししてチェキ撮れますよ」と。やっ優しい!
椎葉さんはサニサイの箱推しで、ファンが増えてくれればそれでいいのだと。しっ紳士!
(ここで特典会メンバーに並ぶヲタクが映るわけなんですが、ハナのところには誰もいません…)
椎葉「ハナちゃん、この人分かる?」
ハナ「…はっあぁっああっ、あああのこれ(前髪)はあてつけとかじゃなくて、その」
愛「あの、すごいかっこよかったです」
ハナ「(ポカーン)」
愛「貴女は私なんだって言うか、あの、これからそういう気持ちで、応援させてもらいたいと思ってます」
目を見張るハナ。前髪に逃げようとするが既にない。
自分を肯定してくれたことにようやく気づき…
ハナ「あっあのっそれはまま毎度ありがとうございまーす!!!」
と深々とお辞儀をして両手を差し出すハナ。なんじゃいなw
苦笑しつつも愛は、「全力でごひいきします、あっあの、こちらこそ、ご指導の程を…」と、ようやく笑顔を見せるのでした。
(この間、椎葉さんはずっと笑顔で見守っています。優しい…)
そして、2人は初めての握手を交わすのでした。
そして現在へ
愛「あの握手から、私とハナの二人三脚の日々が始まったんです」
と、ここで愛の独白の聴き手が初めて明らかに。
ハライチ澤部…もとい、聖護院刑事。
聖護院「それは、瓜田さんを突き落とす…までの日々、ということですか」
やがて、小さくうなずく愛。
愛「…はい」
ここで第一話終了。
どうやらこのお話の"現在の時間軸"はこの聴取場面で、愛がハナに出会った頃は回想だということが分かります。
瓜田と言えば、愛のdisの後で運営に詰め寄っていたヲタク。
劇中の洗濯機うんぬんから、ハナへかなり強い執着を見せていることは明らかなのですが。
そうか、■っちまうのか…(まだ決まってませんが)
一通り見て、そしてもう一回見て。
あまりに面白い。先が気になる。そんなわけでここまで書き連ねたのですが、それだけでなく漠然と感じたこと。
アニメ化が決定し、ついこの前紹介レビューを書いた「推しが武道館にいってくれたら死ぬ」を光とするなら、この作品は闇。
もっと言えば、人間の闇にスポットを当てた作品。
「推し武道」はアニメであるのも手伝ってか、己の全てを推しに捧げるえりぴよたちがコミカルに見える(人生に切羽詰まった様子は特になし)のですが、
これは実写ドラマかつ目を覆いたくなるような冒頭の展開からして、完全な闇の部分のクローズアップ現代な話なんだと感じました。
また、「推し武道」は群像劇であるのに対し、「だから私は~」は愛の視点中心で描かれるほぼ一人称のドラマ。
視点が単一なのもあってか気が休まらない。
ポールポジションであったはずがマシントラブルにより周回遅れどころか再起不能となった愛が出会ったのは、決して可愛くないわけではなくむしろ可愛いのにアイドルとしての機能不全(と愛は感じた)であるハナ。
果たして彼女は踏み出した。「コミュ障」と例えられたその前髪を切り落とし。
己の境遇に重ね思わずdisってしまった愛を拒絶するわけでもなく受け入れたハナ(お人好しなのかどうなのか)も、案外大したものなのかもしれません。
ともあれ底を這っていた二人。この出会いは必然だったのかもしれない…が。
なぜ突き落としたし。
この先の展開が読めつつも、どう話を展開させ収束させるかはまだ誰にも分かりません。
ヲタクとアイドルの話と言うより、もろ人間のダークサイドを浮き彫りにしたようなドラマ。
最初なんでガッツリ内容を追っかけてみました。
いやーこれは次回が楽しみですよ。
あれ?愛のスマホはどうなった?
1回裏へ続く。
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