不定期連載「ミッシェル・ガン・エレファントと僕」第3回

(僕の永遠のカリスマ・チバユウスケの誕生日を前に)

級友のススメにより、未体験ゾーンのミッシェル・ガン・エレファント(以下TMGE)に触れ、勇気を出して最新のアルバムを購入してしまった少年。その勢いはとどまるところを知らず、過去の作品に遡って音源に触れようとする"よくありがちな"行動に出ることになる。ここから彼の行動力は類まれなるものがあった。とはいえそもそもの出荷数が少なかったのか、アルバムしか手に入らないのだ。それもTSU■AYAで。
仕方ないのだ、その当時はAmazonなんてものはなく、ましてや音源だけでもとダウンロード配信で手に入れられるような時代ではなかった。あくまで円盤ありき。そんな時代だったのさ。
ともあれ少年は過去から一枚ずつ遡ってみたのだ。

この頃リイシューされたインディーズ盤「wonder style」。音はややのっぺりとしているが、"誰にも頼らねえ"、"流行なんて関係ねえ"スタイルはこの頃から終始変わることはなかった。
売れる気ゼロでありながらどこか余裕すら感じる1曲目インスト「wonder style」に始まり、MVも作られた2曲目「マシュマロ・モンスター」なんてこの辺りはまだ可愛げがある。疾走感ある3曲目「why do you want to shake?」の歌詞のあまりの意味不明さ(映画「ダイ・ハード3」で黒人ハーレムのど真ん中でキチ■イのふりをしたジョン・マクレーンのセリフに通じるものがある)に慄いたりしつつ、4曲目「バランス」。1分以上あるイントロを打ち破って唐突にギアチェンジする様は爽快の一言。

2ndアルバム「ハイ・タイム」。メジャー作品の中ではまだまだ明るく、1曲目の「brand new stone」、6曲目「blue nylon shirts」なんてカラッと晴れた青空が見えるようだし、7曲目インスト「bowling machine」の狂気的な空気もたまらない。
そして何と言ってもこのアルバムと言えば、TMGE中最強のギタープレイ難易度を誇る4分強のゴキゲン修羅ナンバー「シャンデリヤ」。どれだけこの曲が大変かはこちらの動画をご覧ください(個人的に一番好きな「シャンデリヤ」演奏してみたです)。

ご覧のとおり、常に右手が16分カッティングとなっております。過負荷で右手が焼けます。これだけ激しい曲をコピーした演奏者にも、そして幾つものコピー動画を生むに至ったカリスマ・アベフトシにもただただ敬意を表します。
ともあれ、がなるわれるだれる彼らのみしか知らない人が聴いたらぶったまげる、振り幅が激しい一枚が「ハイ・タイム」。晴れた日のドライブに最適な、さわやかミッシェルがここにあります。


今でも思う。よくこの売れそうもない音楽性で、キラキラしてる邦楽界に殴りこんでいったよな、と。
ここから10年以内に日本の音楽シーンに風穴が開いたのは間違いない。なんせ横浜アリーナで、幕張メッセでオールスタンディングライブが敢行されたのだから。

もちろんその当時彼らのライブを知らない少年は、ある日この道に引きずり込んだ張本人・クラスのK君におそるおそるどんなものかを訊いてみることにしたのだが、曰く「曲がすべて(CD音源に比べて)倍速」、「人が上から降ってくる」、「大なり小なりケガする」、「酸素が足りない」、「救急車が待機している」…。
「北斗の拳」に出てくるモヒカンザコが何百人も周りにいて手斧を片手に舌を出しながら襲ってくるに違いない、そう勝手な解釈でもって、ライブハウスという名の修羅の国(であろう)を体験した彼が胸に七つの傷を持つ漢の中の漢に見えて頼もしかった。

そんな中、横浜アリーナでのオールスタンディングライブの模様を収録したライブビデオが発売されるという情報が入った。YouTubeで手軽にライブ動画見れる現在と違って、貴重な貴重なライブ映像。
これは彼らのライブを知る絶好の機会と、お年玉でもってそれをレコード店で手にした少年の胸は高鳴っていた。
なお、下記リンクはDVD化されたものであり、当時はビデオテープ(VHS)であったことをここに明記しておく。もう一度言う。ディスクではない、ビデオテープだったのだ。

西部劇映画「荒野の1ドル銀貨」のメインテーマが鳴り響く横浜アリーナに、モッズスーツに身を包んだ4人が現れる。刹那、4カウントの後に響いてくる轟音。意味は分からないが野郎くせぇことこの上ない、爆音で彩られた修羅の世界。チバはがなり、アベは鬼で、ウエノはエロく、キュウは盤石。この4人の音で、何千人いるかわからないフロアが激流のようにうごめいている。
何だこれ?椅子どこ行った?みんないい子だからきれいに片づけて暴れているのか?いいやいい子も悪い子もない。ここにいるのはみんなキッズたち。もとい、体の大きな、いかしたキッズの心を持った大人たちなんだ。
終盤付近の必殺曲「ジェニー」で巨大な手つなぎサークルができているのを見て思わず笑ってしまった少年は、もう後戻りできないところまできていることを知らずにいた。
椅子のあるホールでしかライブを見たことのない少年は「常在戦場弱肉強食(イメージ)」のライブハウスをおそれながら、それでも沸き上がる興奮を隠せずにいた。

──これこそが大人の社交場だ。いつかこのヒャッハーハウスで彼らの音にまみれたい、彼らを見たい。この目で。

ロックンロールが下りてきた日から一年足らず。
その願いは、まだ叶わずにいた。

つづく


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