不定期連載「ミッシェル・ガン・エレファントと僕」第2回

邦楽チャート上位の曲を毎日どこかで耳にしていた90年代後半にふとしたことから出会ってしまった、ヤンチャどころかチンピラのロックンロールを放つミッシェル・ガン・エレファント(以下TMGE)。シビれるようながなり声にぶっとい特濃サウンド、ほぼ意味不明な歌詞。これが音楽なのかと問うも答えはなく、やがて「これも音楽なのだ」と勝手に理解することにした少年は、同じクラスのK君よりお借りしたCDをきっちりとカセットテープに録音して何回も何回も聴いていた。
そのうち、もっと「聴きたい」と欲望が出たジェニー少年、ある休日に街の書店でとある音楽雑誌が目に留まった。それは他あろうTMGEが巻頭を飾った「ロッキンf」。間もなく彼らのアルバムが発売されるというのだ。少年はすぐさまその雑誌を取りレジに急いだ。
(※ロクf、廃刊になったと思っていたが続いていたんですね~!)

雑誌の表紙、巻頭特集はもちろんTMGE。黒スーツ、黒シャツ、白ネクタイ、カタギに見えないツラ。どこから見てもどこを切っても893。だいたいロックバンドの記事になぜ吸っているたばこの銘柄(※)が書いてある?そのこと自体が衝撃だった。というか笑えた。
(※ちなみにチバ:ラッキーストライク、アベ、ウエノ:マルボロ、クハラ:ウインストン)
そう言えば先行シングルが発売されているとのこと。この頃、少年はまだそこまでTMGEの動向を追っていなかったのだ。

ついこの前知ったばかりのバンドのために衝動買いしてしまった雑誌を、帰りのバスの中で眺める。俺は今、自ら踏み入ったことのないバンドを更に知ろうとしている。もしかしたら新たな領域にこれから踏み込んでいくのかもしれない、そうどこかで感じていたのかもしれない。
実際、それはしっかりとその手に握った雑誌が証明していた。

そしてじっくりと眺めてみた雑誌。
彼らが放つ当時最新のアルバムは「ギヤ・ブルーズ(4th)」といった。

真っ黒。肌の色以外ネクタイの白、あとはすべて黒。潔すぎるそのトーン。何よりその言葉の響き。ギヤオイルのにおい、エンジンの唸り、触れたら火傷しそうなほど熱されたマフラー…そんなものが浮かんでいく。聴いたことがないのにだ。

「ヴィジュアル系とか聴くのやめたら?」
「(このアルバムについて)今すぐ手にしてレジへ急げ。損はさせない」

記事中のメンバーのインタビューに俄然興味をそそられる。流行なんか知ったこっちゃねえ、俺が、俺らこそが最先端のバンドだ。ワーキャーうるせえいいから演奏を聴け。そう信じて揺るがない彼らの姿に、まだ聴いたことのない「ギヤ・ブルーズ」が聴こえてくるようでもあった。

さて、完全に自分が後戻りできない場所にまで来たことを改めて感じるジェニー少年。
どうする?
ここまで来たんだ、せっかくだから先へ行こうぜ。
戻るメリットって何かある?
ねえな。
よし。

脳内サミットが終わり、しばらくして。正確にいつかは忘れてしまったが、少年の手元に、雑誌で見た真っ黒なCDアルバムがあった。学校の講義が終わり、フラッシュしていないシルバーのバス(越後交通)に乗って長岡駅東口のダイエー(当時。現在は越後交通ビル)の4階にあるCD売り場でそいつを手に入れたのだ。

帰りのバスの中、待ちきれずに包装を慎重に外して歌詞カードを眺める。どこかに「警察庁指定」と書いていないのが不思議なくらいに人相の悪いメンバー写真にうっすら笑いがこぼれる。その清々しいまでの凶悪さに、社会やヤングに迎合するつもりなどまるでないのがありありと伝わってきて、もうこの時点で裏社会の扉を開いてしまった気が十分すぎるほどしている。
しかしここで満足してはただの極道写真集を眺めたに過ぎない。CDは聴いてなんぼ。おそるおそるCDラジカセを立ち上げ、トレイにCDを爆弾解体のような手つきで乗っける少年。曲が始まる。

「待たせたな」とばかりに耳に突っ込んできた一曲目「ウエスト・キャバレー・ドライブ」。どっしりしたスネアが一閃、爆音のようなベースのイントロが流れ出し、その隙間からフィードバック音を引きずって分厚いザラザラしたギターが顔を出し、「音にヤられて■ぬ覚悟はいいか!」とばかりに吠えるヴォーカルが最後に加わる、これぞまさに一曲目、歓迎の儀式。ああ、見えるよ。目に見えない杯が。せっかくだから俺はこの杯を選ぶぜ。

ジャケットがあらわすかの如く、「ギヤ・ブルーズ」はまさに黒い黒いゴテゴテした塊だった。歌詞の意味なんて分からないがただカッコいい。それだけでいい。
後で先述のロクf(器材紹介)を見返してみると、それまで見てきたバンドと違い、彼らの器材はほぼ一本(レコーディングの際に使い分けることはあったらしいが)。天使のギターや透け透けギターなんてギミックめいたものは存在しない。さらにエフェクターの類はなし、カールコードのシールドにこだわってアンプ直という男らしさ満載、しかもレコーディングはパート別録りではなく「せーの」の一発録り。ここまで男らしいバンドが今までいただろうか。
「よう、待たせたな。俺たちがとんかつ定食だ。あ?付け合わせのキャベツ?んなもんねえよ、いいから食え」と言わんばかり。あまりに痛快すぎて笑いが出てくる。
哀れ爆弾は解体ならず、サタニックにブンブンヘッドされた少年の後遺症は今なお続くことになった。しかしながら本格的に気に入るTMGEの"一枚"との出会いは、それから3年後のことである。

つづく

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