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読書 Ⅰ 短歌①

文フリなどで得たものから。

①『かんざし』第三号

好きな歌をいくつか勝手に選ばせていただいて、並べました。写真の通りです。以下特に感想を述べたいものを。

タピオカの正体わからないままに死ぬ人生もそれはそれで、ね/貴羽るき「熱い風」

タピオカの正体って……と思わずグーグルで調べそうになったが、やめた。僕はわからないまま生きて死んでしまうのだろうか。「それはそれで、ね」と、微笑/苦笑している表情も見えてくるような余韻のある言葉。この歌のこと、よく分からないままに、何かを射抜かれた気がする。

窓辺には色褪せた本が置いてあり開かなければ終わらないすべて/桜望子「歌舞伎町の憂鬱」

窓辺にただありそうな本が在る、その光景の描写が、夢の終わり際みたいに加速してやってくる。説明を加える、という形になるのだろうが、見事に決まっている。開かなかったら始まらない、というのがふつうの文脈だけれど、「終わらない」と転倒させている。終わってしまうことに対する主体の悲しみが「すべて」でひしひしと伝わる。終わらせないために本を開かないんだ、わたしは……もう終わらせてあげたくないの、というこの切ない気持ち。あっさりしてるようでちょっと泣いてしまいそうになるこの感じ。好き。

助手席を倒されるときいつも雨 くび、しめてもいいですよ、って/緒川那智「近くて遠い」

これは文字で窒息しかけた。性的な光景として受け取った。せつない。こんな切迫して光景がぐっとくるなんて。雨……

発達のこと話すときめいめいに思いうかべている乳幼児/北村早紀「グッドリバー」

ふふ、とにこにこしてしまう歌。それぞれが思い浮かべる乳幼児、それぞれの成長を、言葉を、表情をしていることだろう。ほのぼのする。「めいめいに」という副詞も、乳幼児感がある。授業中、頭の中で教室に乳幼児がたくさんよちよち……かわいい……。

ひとりいちわいっとうひとつぶ何遍もわたしを数えなおしてほしい/工藤玲音「ひらかれる」

いちわいっとうひとつぶ、という数え方が候補に挙がっているのも面白いが、「わたしを数えなおしてほしい」という措辞が素敵なのに目が留まる。数え直してほしい、と思ったことは僕はないけど、それはどんな感覚だろうと想像する。言語を遊んでいる感覚、わたしをちゃんと、いつでも見ていてほしいという感覚。よいなあ……と思う。数えなおされたい。

みなさんの連作が素敵。すごい素直に、こういう発表の場があるのは良いことだなと思ったし、こうやって歴史が少しずつ積もっていくんだなとしみじみ。この世に永遠はないけど、長く長く続いていけばいいなと思います。

② 『ぬばたま』第2号

なんだこれは……というのが大きな感想だった。凄い、高密度の作品が詰まっていた。一冊を読み終えたときのズシッとくる感じ(椅子からめまいで立ち上がれないような)があった。
特に感想を言いたいものを挙げます。

脱いだ服をかるくたたんでくれているこれは生活とはちがうのに/乾遥香「水やりと傘」

一読で雷のようなものを感じた。上の句までは、親もありえるし、彼氏だとしても、まあ優しいなとだけ思う。「これは生活とは違うのに」の14音が物語を更新していく様は見事だ。生活という抽象的な言葉の使い方、「のに」の素直さ。一気にこのふたりの雰囲気が伝わってドキドキしてしまう。このふたりには結婚してほしい。別れるなんて、嫌。

舐め合っても同じになれないばかだからアイス取るけど何味にする?/初谷むい「愛の凡て」

後半で内容をわざとずらしておどける、というパターンの歌。「舐め合っても同じになれない」、深いなあと思う。もし同じになるとしたら、それは幸せなことなんだろうか、同じになれないこと、ほんとうにばかなことなんだろうか。わたしばかだから、って言っている主人公のことを思うと泣きそうになってしまう。なんかよくわからないけど、好き。

その手紙はとてもたいせつわたしたちだけが知ってるそのたいせつを/初谷むい「愛の凡て」

「そのたいせつ」と、たいせつ、を大切として扱っている(?)のがまずおもしろいなと思った。二度目読み直して、ぐっ、と迫ってきた。たいせつ、です。とても、たいせつ。とてもたいせつ。
夏の「ぺんぎんぱんつ」にて、同作者で〈そうあたしたちはひとりだ きみとしたあれはみんなも知っているから〉という作品があった。似ているようで反対で、内容も違うが、なんとなく、思い出した。

海風と帆船 なにも奪わない奪われないで暮らしていたい/佐々木遥「半年よりもすこし短い」

海の風と帆船を、互いに奪い合わない関係だ、と表した着眼点、着想の良さに感動する。支えあっているようで、そうでなくて、でも結果的に支えあっているふたつ。奪いも奪われもしない平穏な関係。そうやって暮らしたい。僕も。僕は洋渡(よっと)という本名を持つため、風のような人と、一緒にいられたら、素敵なのかな、とか、余計なことを。

どこも繋がってないのにありがとう同じめざましでめざめてくれて/関寧花「すべてはブレックファストのために」

実感が光る歌。まず、血も繋がってない、という言い方を良くするが、「どこも」という表現がなされていることから、血だけじゃなくて、身体的な行為もあるなあと思う。何も繋がってないふたり、同じ目覚ましで同じ目覚めを迎えること。素直に「ありがとう」と言えることにしあわせを覚える。何気ないひとつことも、改めて考えると、とってもすごく幸せなことなんだなって思うことがそこら中にある。でも、なかなかそれは目に見えなくて気付きにくい。こういうことに気付けたとき、その人にたくさん幸せがあふれかえって、まわりの人も幸せになってくれたら、素敵だなあと思う。短歌はその媒体によく向いていると思う。

しだれ桜は窮屈そうだ下向いて僕の台詞に気づいてくれない/九条しょーこ「流れ星」

桜が窮屈そう、という感覚の鋭さ。この僕はなんて台詞を喋っていたのだろうか、気になる。気付かない、では無くて「気づいてくれない」だから、気づいて欲しかったんだろう。桜に告白したんだろうか……。

ひとあやめしのちのこころをみづからにひとにとふときゆきのあかるさ/岐阜亮司「Q」

「みづからにひとに」と畳み掛けて、「ゆきのあかるさ」で終止する。平仮名だけの表記、旧仮名の使用、徹底的な美の追求が思われる。人を殺したあとの心、どんなものなのだろう。気になる。死ぬまでわからないのだろうけど。(雪と殺人といえば、麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』での、一面の雪の中の美しい死体を思い出す。綾辻行人『霧越邸殺人事件』も思い出す。この歌が言いたいのはそこではないため、あくまで思い出しただけだが。)

糸を引くようなちゃん付けされている 水に沈めて葬式にする/櫛田有希「迷子だ」

この展開のさせ方、とても好きだ。糸を引くようなちゃん付け……僕は男の子で、どちらかと言うと男の子は苗字か名前呼び捨てになる傾向があったため、くん付け、はあんまり体験しなかった。そんなに関係がない異性の子に呼ばれる時くらいだろうか。この主人公は、女子からのちゃん付けを指しているのか、男子からのちゃん付けだろうか。おそらく前者だとは思う。「水に沈めて」は、ちゃん付けの呼称を、だろうか、ちゃん付けしてくる女の子を、だろうか……。
具体的に想像しようとすると、いろんな読みが可能である。どの読みにしても、ちゃん付けされている→水に沈め→葬式にするの脈絡がすごく飛躍しているのに、するする理解してしまうところが面白い。水葬、素敵。なんとなく、かわいいちゃん付けと、かわいくないちゃん付けがある気がする。そんな感じなのかな。

かんざしの部分で書いたように、ぬばたまも、続けばいいなあと思う。僕が好きな作風の人が多くて、とても楽しみ。

③ 『胎動短歌 Collective 』創刊号
本棚に本を並べる時、この作者の隣にはこの作者を並べたいな、っていうのがある。中井英夫の横には、竹本健治、小栗虫太郎、夢野久作を……。並べたあとの、荘厳な雰囲気。
アンソロジーの良さはそこにあると思っている……好きな人が一斉に揃う。この胎動短歌の創刊号は、そのアンソロジーの長点を上限振り切って使っている。強すぎる。強い。ネームバリューだけでお腹いっぱいだ……。

巻頭一首、眩しい。しっかり押韻されてある。この一ページの大きな空白をはねのける一首。凄いなあ……。

なわとびをして、できなくて泣いている子ども セックス 血 無縁墓/伊舎堂仁「きみのぽえっとの1000ふぁぼ」

子ども、以降の展開が。映画で急にシーンが切り貼りされたような、ぐるぐる感がある。セックス、血、まではついていけても、無縁墓で終えられるのはついていけない(いい意味で)。伊舎堂さんの短歌以前からずっと好きで、こういうぶっ飛んだ発想と情景が大好き。

まもるとは嫉妬しないということだきみの傘にも日焼け止めにも/かたゆまちゃん「将来の夢はたいくつな愛だよ」

ちゃんと守れるのは私だけなんだ、絶対に私が守るんだ、という強い気持ちが伝わる。嫉妬という言葉から、恋愛系なのかなと思ったら、対象が君の傘や日焼け止めでにこにこした。傘にも日焼け止めにもちょっと嫉妬しちゃうところ良いなあと思ったり。僕は恋人に対してのものだと読んだが、かたゆまちゃんさん的に、自らの子どもに対してなのかもしれない。親を思い出して、ちょっとうるうるしてしまう。守る、という言葉は、本来「目(ま)+守(も)る」でできている。ひらがなで表記されているあたりから、親としての目線が感じられる。

逃げろって叫ぶ男の真か偽を見定めながら爆発で死ぬ/木下龍也「耳ん中のチェリスト」

連作がかなり風刺というか皮肉というか、社会性を持った歌で出来ている。 その中でも一番迫力を感じた。爆発で死んだのが「叫ぶ男」か、それとも主体か、と考えたが、どちらにしても悲痛なものだ。え、逃げなきゃいけないの、と思っているときに爆発で死んでしまう……。中東地域で行われている紛争の光景が思い出される。一番つらいのは、逃げろ、というのが「偽」である可能性があるということ。そのせいで逃げ惑うことがあること。鮮やかで、くるしい。

レジの子に「お寿司好きなんですね」と告げられた夜の蛍の光/ナイス害「リンクル」

言われたのではなく、「告げられた」のが面白いなと思う。お寿司好きなんですね、なんか嬉しいようで恥ずかしい。蛍の光、普段なら見えないのかもしれない。小さいことに気がつくこと、驚き、うれしさ。

水族館は檻のくせしてきれいだな 小突かれてうれしくてばかだな/初谷むい「LOVEそして回遊譚」

「小突かれて」をどう捉えるか難しいところではあるが、なんかうれしくなっていく歌だ。「ばかだな」に愛がある。僕は、動物園もそうだけど、その「檻」をいつからか強く感じてしまって、行きたくないなと思ってしまっている。動物たちも楽しんでくれていたらいいなあ。

微笑んだ君のうしろで湖が鋼のように輝いて老ゆ/服部真里子「珊瑚と献身」

老いるのか……という余韻を残されて去っていく歌。君も、老いていくんだろうな……。輝いて老いることが、「鋼のように」という比喩でより強く効いてくる。

野の花を胸に抱いてこんこんとソファーに眠る少女 解禁/東直子「白亜」

解禁、びっくりした。解禁……。びっくり。すっごい好き。こんこんと、という比喩も好きだ。

昔のアニメでさあ どんどん敵が強くなってって それで最後は神と戦うんだ それでさ 神にも勝っちゃったらどうするんだろうね 冷蔵庫を開けながら/フラワーしげる「自然淘汰」

確かに、どうするんだろう。いや、多分、平和なんだろうけど。その後を映すアニメやゲームはあまり無かった……また強い神が現れて倒してもっと強い神が……。平和、って、面白くないなって思う人が、いるのだろうか。

ぼくたちはすこやかでした死にかたを教えてもらえなかった故に/浅葉爽香「49」

死に方を知らないと、死にようがない。自分からは。子どもはいつだって自由だ、何も知らなくてすこやかに。少しずつ死に方を心得ていくことが成長なのかもしれないな……。すこやか。僕は戻りたいと思う。

手のひらの温度でわかるねむいとか元カノのことがまだ好きだとか/オノダミキ「歯みがきしたけどカルピス飲んじゃお」

これを彼氏の目を見て言っているんだとしたら、にやっと、笑っていそう。せつないのか悲しいのか笑っちゃいそうなのか、自分でもよくわからない感情になってしまった。世界ってうまくいかないように出来てるのかなあ……。

カナリア語圏からやってきたみたい叱ると口をピヨピヨさせて/向坂くじら「カナリア語圏に暮らす友人」

題名が好き。ピヨピヨ。語彙が急激に減ってしまった。とにかく好き。カナリア語圏に暮らす友人……この世界最高だな……。

一番よく殺せるスプレー緑色のゴキジェット握る時の冷たさ/桜望子「不殺生戒」

よく殺せることを喜んでしまうこと、確かに、ふと気付くと冷たさを持って迫ってくる。ゴキブリとか、害虫(?)を倒すことを見直す、という歌をみる度に、「ゴキブリがもしめちゃくちゃ可愛いフォルムだったら、僕達人間はペットとして飼うのかな」と思って、その思考に「ペット」が入ってくるのが切なくて。どうしようもないことなのかな…。

わたしたち萌え袖が好き 人知れずリストカットをするような子の/平田窒素「しちゃったね」

わたし「たち」。萌え袖の中にリストカット跡が隠れていたのか……。つらいことだなあ。リストカットには色々思い出があるので(僕がしている訳では無いけど)、更に感じるものがある。萌え袖、次から見かける度に、思ってしまうかもしれない。別に、していても、してなくても、いいんだけれど。しあわせが届け……。

評論はきらひ地下鉄はもつときらひ花束を解けば花になること/本山まりの「噛みぐせ」ゆび

この省略をことばにすると、何かを誤ってしまいそうだから、それぞれが繋がる間をことばにはしない。花束を解けば花になる。ほろほろ。素敵。

「やあ マァちゃん わんたん麺がありますよ」うるせえ 夜だぞ「やぁ マァちゃん わ /わなざわ「陰口言ったら帰ります」

このあとを想像するのが怖い……。この人、怒りそう。怒らないで……。「やあ」が「やぁ」になっているのが、声の聞こえ方も分かって……怒らないで……。

こしいててあしいててててていててひじいててててからだいててて/ikoma「LIVE LIFE」

めっちゃ痛いんだな、という。腰足手肘体の順に痛みを感じたんだな……。ただこの順は意図的だろうと思う。こしいてて、あしいてててて、ぱっと見「こいしてて」「あいしてて」に見える。徐々にそれが体を指しているんだと氷解していく。文字のマジックだ。愛していてて……。

胎動という名前だけあり、蠢きを感じた。それぞれの。花、性、死、動物、愛、生活。生まれる胎動もあれば、死ぬ胎動もあるのかもしれない。素敵な本でした。

④『ハッピーエンドロール』(meri kuu)
ハッピーエンドロール、ハッピーエンドロール、ふふーん。口笛、鼻歌、スキップ、休日のようなこの題名ののびやかさ。口ずさみたくなる。

ネネネさんの絵、アベハルカさんの写真、以前から素敵だなあと思っていたため、まとまった冊子になったこと、とても嬉しい。同時に、文フリ会場で実際に会えたこととても嬉しかったです。

眩しいひかり アベハルカ

空っぽな部分を知って欲しかったひとの温度を思い出す青

青、という落とし方がすーっとする。やさしい人はいつだってなにかを頑張っている。やさしいから、頑張っている、なんて自分では言わない。気がつけば、崩れて、どこまでもくずれてしまう。空っぽな部分を気づいてくれるだけでいい……空っぽなところを持ったまま、温度を思い出す。せつない。

あたたかいコンクリートに寝転んだ どこかで金木犀が咲いてる

のどか。洋画にありそう。においが届いて、ああ向こうで咲いてるな、というよりは、近くにある訳では無いけど、こんなあたたかくて素敵な日、色んなところで金木犀は咲いてるんだ、ということに想いを馳せてるのだと解釈した。

ゆめをみていた ネネネ

親友が死んだ季節が過ぎていくあの子が飛んだ音を知らない

飛んだ音、聞いてたらもっと、耐えられないものだっただろう。知らなくて良かったと思うけど、飛んだ音すら知らない。親友が死んだ季節に続くぽっかり空虚感。「飛んだ音を知らない」の実感、切実さにぼーっとする。僕の親友、死んでいないけど、なんか、死んだような気がした。死んでないけど。

一度だけ振り返ってよ、鳥たちの羽の名前を思い出してよ

一度だけでいいのに。振り返ることなんて簡単なのに、前だけ向いて、過去を無視していく、そうして記憶が遠くなっていく。忘れられていく鳥、世界、過去……。なんとなく、推理小説の、沼田まほかる『彼女がその名を知らない鳥たち』を思い出した。

延滞し続けたひとのさよならをちゃんと済ませて泣かないでいる/ネネネ

泣く……。「ちゃんと」が泣く。この人はえらいなあ……えらいとかえらくないとかじゃないんだけど。せつない。

海と乱反射 アベハルカ

朝だけど昨日の続きを生きている 名前の知らない花を枯らした

名前シリーズ。昨日の続き。文字にはしないけど、色々思うことがある。花、かわいそうだけど。金子みすゞの詩「草の名」を思い出す。

終電を逃した夜に戻れてもまた終電を逃すと思う

いけないことだなあ、だけど、それが、そうやって、死んでいくんだろうな。幸せはいつだって甘えることからできている。

すれ違い ネネネ

ふたりなら迷子になってもいいよって笑ってくれた寄り道のこと

やさしいひと。こういう、なんでもないような、ふざけたような、のんびりしたことばが、映像が、一番内側でたいせつで、抉ってくる。

手を伸ばすべきじゃなかった憧れは遠くにあるから綺麗にひかる

そんなこと言わないで、って、この歌を読んで呟いた。近くにあるからこその、違う光、目には見えないもんな……

短歌条例(詩)も良かったです。写真と絵と、文字のフォントや色、空白、全てに思いがあって、とても世界が伝わってきました。この世すべてに、ハッピーなエンドロールが迎えられればいいなあ。人生って自分では見れない映画だから。

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