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恋愛テクニックってくだらないよねって話

モテたいと思うのは人間として健全だと思う。しかし、そのための巷で言われるテクニックについては疑問符だらけである。

というのも、所謂恋愛テクニックを含むコミュニケーション・テクニックは行動経済学で言われるナッジやプライミング効果をベースにしているものが多く、ここ数年でそれらが大して機能していないことが暴かれているからだ。

プライミング効果は再現性に乏しく、ナッジに関しては影響力が本来8.9%の人にあるとされていたものが、実際には1.4%程度しかないことが最近明らかになった。

元々の8.9%の影響力を多いと感じるか少ないと感じるかは人による。また、1.4%でも心理学的には効果があると判断されることもある。

心理学的に有意であることと日常生活で実際に使えるかは別で、むしろ、10人に1人に効くかすら怪しい心理効果をいかにも「効果のある会話テクニック」として紹介されていた今までの状況も既に十分アレだったのが、ここ数年で10人に1人は効くものが実際には100人に1人程度にしか効果がないと判明したというのだから、その手の心理テクニックや恋愛テクニックに価値が無いと考えてもおかしくは無い。

もし、恋愛テクニックやモテるアドバイスを聞いて実際に効果があったという人は、恐らくそれを聞くことでモチベーションが上がり、試行回数が単純に増加したことが原因として真っ先に考えられるわけで、テクニックやアドバイスそのものに効果があったかは非常に怪しいと言える。

回数を増やせば自分と相性の良い人に当たる確率は増えるし、その手のテクニックにばっちりハマる人に出会う可能性も高くなるため、そこで「恋愛テクニックが有効だった」バイアスが掛かったとも考えることができる。


プライミング効果

あまり正確ではないが「特定の言葉や考え、行動によってその人の思考や言動が変化する現象」と言える。

有名なので言えば、ダニエル・カーネマンが『ファスト・アンド・スロー』で紹介していた、「老人に関する話を聞くと歩くのが遅くなる」がある。もちろんこれは再現性がなくプライミング効果はほとんど否定されているが、今も恋愛テクニック方面では固く信じられている印象がある。

他にも「笑顔になることで気分が改善される」や「変なポーズをとると気分が良くなる」みたいな話を聞いたことがあるかも知れない。

前者は “Facial Feedback” と呼ばれる Positive psychology として有名なもので、やはりプライミング効果の一種と考えられる。本来の論文では 9.1% の人に効果があるとされていたが、追試の結果 0.33% の人しか影響が無かった上に、そもそも、その 0.33% の気分が改善したことと笑顔を作ったことに関係があるかすら不明というものだ(信頼区間に0が含まれている)。

後者もポジティブ心理学の一種であり、パワーポーズと呼ばれる身体を開いて見た目的にやや「偉そうなポーズ(態度)」を取ることで、リスクある行動にも果敢に挑戦できると言われるものと理屈的には似通っている。そして、これもやはりエビデンスが乏しく恐らく効果が無いと今では考えられている。

話が脱線したので戻そう。

では、世の中の恋愛テクニックはどうなのだろうか?

「恋人同士は見つめ合う時間が長いので、見つめ合う時間を伸ばせば親密な関係になれる、だから目を見るのは恋愛テクニックで有効だ」という話を聞いたことは無いだろうか? 

聡い方は既に気がついていると思うが、これは「笑顔になったら気分が改善する」と同じ構造であり、プライミング効果の1つであると言える。よって、効果がない可能性の方が高い。

同じ理屈でいうと、「ボディタッチを増やせ」のアドバイスも効果がかなり怪しいと言える。これは単純接触効果によるものだが、単純接触効果も実は結構複雑で、刺激と頻度が適切でないと効果が無かったり、飽きたり、嫌悪感が強くなったりと逆効果になることもある。
広告の様な不特定多数の人間に対して行うのには効果的であるが、一対一でのコミュニケーションで応用するには難しいことが意外と知られていない。吊橋効果も同様に嫌悪感が増長されることがあまり知られてない印象を持っているが、きっとこれも「人は見たいものしか見えない」の一例だろう。

ミラーリングなんかも、本来は適切なコミュニケーションの結果として起こるものであり、狙ってやっても大して効果が無いだけでなく、意識的にそれをやっていると相手に気がつかれた際にかなりの悪印象を抱かれるリスクがある。

巷のコミュニケーション・テクニックはこれらのような因果が逆転した単に無益なだけでなく、逆効果にすらなるものが多く存在する。

少し前後して補足するが「初対面の人が見つめ合うことで親密度が増す」現象は実際にある。
ただし、この現象が確認された実験では次の条件が含まれる。

1. お互いが全裸であること
2. 一言も発さず、4分30秒以上見つめ合う

これが達成できる日常的空間があったら是非教えて欲しい。
初対面の女性と全裸で無言で向き合う状況が自然にできるのは単にモテるよりも遥かに難しいのでは?

なお、この状況で10分以上見つめあうと情愛に似た感情が生まれるらしいが、やはりこれを日常生活で応用するのは…(ry

プライミング効果のエビデンスが揺らいでいる以上、言葉や行動、仕草によって相手と良い雰囲気になるのは現実的ではないことになる。

実際に幾つか使えるテクニックは存在するものの、まず相手のパーソナリティーを判断し、環境に合わせる必要があり、場合分けがされない画一的な「〇〇した方が良い」というアドバスに何の価値もない。

使えるテクニック、というよりそこに存在する一定の法則については長くなるので別の機会に紹介しようと思う。

ナッジを利用した恋愛テクニック

ナッジはカーネマンが言うところの、ヒューリスティックでもある。簡単な例でいうと「目線の高さのものが取られやすい」といったものなのだが、しっかりとした説明は大変なので詳細はWikipedia先生に任せることにする。

空腹だと判断能力が鈍る等もナッジに含まれる。

大雑把に言えば、意思決定プロセスに介入する要素なのだが、これが最近では「そんなに影響力が無いのでは?」と疑問に思われている。
既に述べたように、8.9% の人に影響があるとされていたものが、実際には 1.4% 程度にしか効果がないことが追試で判明している。また元になった論文もチェリーピッキングが指摘されており、ノーベル賞を受賞したカーネマンの理論も実際に効果があるか追試しないと行けない状況になっている。
(心理学の研究が根底から覆される大事件であるが、ここ数年でも未だに古い情報、誤った情報を基にした心理学系読み物が売れていることを考えると、この手の出版バイアスが是正されることは世紀単位で無いことが予想される)

ナッジが否定されるとどうなるか……世の中の「好感を持たれる恋愛テクニック」が全滅しかねないことになる。

居心地の良い空間を作るとか、女性に対して正面ではなく左側から話しかけた方が良いとか、この手のアドバイスやテクニックは1.4%程度の人間にしか効果がない可能性があるわけで、その1.4%の人にしか効果の無いテクニックを一生懸命覚えて使うよりも、それ以上に合う人数を増やしたほうが圧倒的に効率が良いと思うのは自分だけでは無いはずだ。

ナンパに不慣れな人でも50人に声を掛けたら1人くらいは声を聞いてもらえるかも知れないが、ナッジベースの恋愛テクニックはそれよりも効果が低い可能性があることは頭に入れておいて損はない。特にナンパをしようと考えている人は。

個別状況は別

プライミング効果やナッジが否定されたことにより恋愛テクニックが全部否定されるかと言われると実はそうでもない。

そもそも、恋愛テクニックは矛盾するものも多く「見つめ合ったほうが良い」というものがあれば、「見つめあう時間は10秒以内が良い」というものもある。

これは、一時期話題になった「犯人の特徴は…10代〜20代、或いは30代〜40代、それか50代〜60代の女性か男性…」と同じで、ほぼすべての状況を含めてしまっている実のない話と同じ構造だ。

またナッジに関しては、一般的に効果量を見てみたら1.4%しか無いが、特定条件下や個別状況(人)によっては1.4%以上に効く場合もある。

個人の要素が考えられていない、一般論に見せかけた一律的なアドバイスは何の実利も無いのは間違いない。

何度も繰り返すことになり恐縮だが、テクニックやアドバイスそのものに効果があると言うよりも、それを聞いて試行回数が増えることで、たまたまそれに当てハマる人が釣れているのが現実だと考えられる。

これは生存バイアスであり、雨が降るまで祈り続けることで100%成功する祈祷師と同じである。

結局の所、たまたま当てはまる人を見つけるには会う人数を増やすしか無く、ナンパ系のテクニックは会う人数が多いことが前提で成り立っていると言える。

たまたま好みの異性が目の前に現れ、いざ口説こうという状況で巷の恋愛テクニックが使えるかは幸運に掛けるしかない。それよりも、目の前の人間の機微を把握し、適切な言葉や態度で臨んだ方が効果を見込めるが、それができる時点で恐らく恋愛テクニックを必要としないくらいにはモテているはずだ。

つまり、巷の恋愛テクニック系のアドバイスは、恋愛弱者であり情報弱者である人間を対象とした所謂情弱ビジネスである。しかも、それを聞いて行動に移した人間は確率的にどこかのタイミングで成功が訪れるためアドバイスが効いたように感じるし、行動しなかった人間は行動しなかったことこそが原因であると思うだけで、どう転んでもアドバイスの有用性が揺るがない中々に堅固な構造になっている。

まとめ

恋愛テクニックやモテアドバイスはモチベーションを上げるには良いかも知れないが、目の前の人には効かない可能性の方が高い。

むしろ半端に知っていることで逆効果になる場合もあるので、モテたい人はテクニックに頼るのは良くないってのが個人的見解だ。

最後にアドバイスを1つ。

(特定の相手に好かれたいのではなく)単に異性からモテたいのであれば、とにかく会う人数を増やしましょう

最低限、嫌悪感を抱かれない程度に身なりや話し方を清潔にした方が良いのは言うまでもない。

なお、この嘘や矛盾だらけの恋愛テクニックでも、ある一定の法則が存在し、それに従えば嘘でも無く矛盾もしないのだが、それについては長くなるため別の機会に譲る。

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